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【街角の遠隔診療】第3回 受診控えに ご用心

樫尾明彦(プライマリ・ケア医),宮内倫也(精神科医)

この連載について
今後広がりをみせそうな遠隔医療.しかし実際にやろうと思うと不安な点がたくさんあります.本連載ではプライマリ・ケア医と精神科医による対話から日常で遠隔診療を行うポイントを探っていきます.

前回(第2回)はこちら

事 例
70代女性.帯状疱疹.1週間前に左胸の湿疹に気づいた.すぐ病院に行くのは控えようと思い,市販の外用薬を使っていたら,だんだん湿疹が左脇,左背部まで広がり,水疱ができて,痛みも出てきたため電話でかかりつけのクリニックに相談した.来院の指示があり受診したところ,帯状疱疹と診断された.

樫尾:今回は精神症状ではないのですが,湿疹ができてもCOVID-19の流行ですぐに受診するのがためらわれたために,結果的に帯状疱疹の治療開始が遅れてしまった患者さんです.原則的には,帯状疱疹の発症から72時間以内の抗ウイルス薬投与が望ましいとされていますが,発症から1週間経過して受診した際,まだ帯状疱疹はそこまでよくなっていなかったので,抗ウイルス薬を処方してなんとか湿疹は改善しました.

宮内:帯状疱疹後神経痛のマネジメントは精神科も関与することがあり,皮疹や痛みが強いことはそのリスクになるので,早めに対処したいところです.顔にできても怖いです.たしかに患者さんが「これは不要不急だ」と判断してしまうと,受診が遅れてしまいますね…….医学的には一定の迅速さを要しますが,患者さんが同様に考えるとは限らないですし.医療者と患者さんのズレは多くのところでみられますし,あって当然でもありますね.そのズレを医療者側が汲んで察していくことが求められるでしょう.

樫尾:顔面の帯状疱疹,とくに眼と耳(Ramsay Hunt症候群)は気をつけないとですね.同居の家族がいれば,もし顔に帯状疱疹ができてきたら受診を促しそうですが,一人暮らしだと,やはり心配で受診するのか,あるいは顔をみせたくないからと外出をより控えてしまうのでしょうか…….実は,いままで帯状疱疹というと,受診フリーアクセスの日本だからかも知れませんが,まだ湿疹が出ないうちに,ピリピリとした皮膚の痛みや瘙痒感などで受診して,あとで湿疹が出て帯状疱疹とわかるということも比較的よく経験していたのですが,帯状疱疹で湿疹が広がってきてもいまは受診を控えてしまうんだなと,以前との違いを痛感しました.

宮内:とくにwebへのアクセスがない患者さんであれば,自身の皮疹がどういったものか(早期の受診が望ましいか)の判断がちょっとつきづらいですね…….若い患者さんですと,情報の質はどうであれ自分でパッと調べる習慣のついているかたが多く,自ら受診というのが多いような印象です.COVID-19に限らず,今後も外出規制がかかるような事態はありえるでしょうし,樫尾先生はどうやって受診を促すようにしていきますか?

樫尾:今回わかってきたのですが,身寄りなく一人暮らしで認知機能低下のある高齢患者さんは,実はCOVID-19の情報もあまり知らずに,いつも通りに受診しているようです.一方,高齢で家族と同居しているか,一人暮らしでも家族と連絡を密に取っている患者さんの層が,がくっと受診しなくなった印象です.おそらく,ワイドショーが情報源だったり,家族からも「気軽に受診は控えるように」といわれているのかと思います.より若い層は,宮内先生ご指摘のように,webで調べることができて,医療機関のホームページをみたり,前もって受診可能かを電話いただいているようです.上記の受診しなくなった層の高齢患者さんには,だいたい電話がつながりますので,薬が切れている頃なのに受診していない場合は,電話で様子を聞くようにしています.

宮内:先生の方からお電話をされるのですね.そこで相談事があれば拾い上げられますね.精神科だと受診しなくなった患者さんに対して電話をするのは一般的ではなく,その発想はなかったです.ほかには,帯状疱疹や突発性難聴など,生命の危険はないものの早期の治療が必要な疾患については,日頃からクリニックや病院の診察室や待合にポスターなどで「こういう症状には要注意!」と掲示しておくと,患者さんの目に触れることが多くなって受診につながるかもしれませんね.
 ワイドショーについては,本当にどうしようもないものばかりです.たとえば,「PCRの感度は100%で,精度が落ちているのは手技の問題だ」と発言して検査技師さんを侮辱し,かつ「全数PCR検査を」という妄言を繰り返すコメンテーターがいます.医師ですら検査前確率をまったく考慮せずに抗体検査の陽性だけで感染者数を推定してしまっており,それをワイドショーが真に受けて報道しています.テレビに登場する自称専門家もファビピラビル(アビガン®)を無責任に推したり「検査をもっと増やさないと2週間後の東京はニューヨーク」などと語ったりする始末です.ワイドショーはいったいどういう人選をしているんだと,私は憤りを覚えます.HPVワクチンについても,マスコミはほぼ反ワクチンといってもよいでしょう.こういう報道は間接的な殺人ともいえます.ワイドショーのせいでどれだけの人が混乱に陥ったか,どれだけの人が亡くなっているか,理解できているのでしょうか…….

樫尾:ワイドショーについて患者さんと話すこともあるのですが,その内容を信じている患者さんはだいたい「専門の先生がいっているんだから,本当なんですよね」という感想を話します.この「専門」の解釈が難しく,「専門家」として出ているコメンテーターが,どこまでその分野に長けているのか,番組をみただけではわかりません.テロップとして「一医療者としての意見ですのでその意見が今後も正しいとは限りません」と健康食品のCMのように出してくれればよいのかもしれませんが…….
 電話でのフォローに関して,内科や小児科のクリニックですと,受診間隔が長期に空いた患者さんの「中断チェック」の電話をしているところもあるかと思いますが,精神科だと一般的ではないのですね.自分の職場では中断チェックは年に数回程度なのですが,今回直接来院の患者さんが急に減りましたので,このタイミングで調べたところ,定期薬がなくなったけど受診は控えていたとか,定期薬が足りなくならないように,間引いて飲んでいたという患者さんもいて,聞いてみないとわからないCOVID-19流行の影響をここにも感じました.

宮内:なるほど,そうなのですね.精神科では電話をするのが一般的ではないといっておきながらなのですが,向精神薬は中断症状/離脱症状を起こすことがあるので,精神科以外の先生方にもぜひ知っていただきたいと思っています.向精神薬をいきなり中止/大きな減量すると,種々の精神症状と身
体症状が生じることがあります(絶対,ではありません).精神科通院中の患者さんが新たな症状を訴えても不定愁訴と片付けずに「中断症状/離脱症状かもしれない」とチラリと考えてもらいたいです.離脱症状といえばベンゾジアゼピン受容体作動薬が有名でもうご存知だと思いますが,あらゆる向精神薬で起きると考えておくことが大切です.遭遇する機会が多いのは抗うつ薬と思われ,その中断症状は以下にまとめられ,頭文字をとってFINISHと覚えます.

図1

 多くの場合は中止/大きな減量をしてから1週間以内に症状が出てきます.受診間隔が延びるとこういう事態も出てくるかと思うので,ぜひ覚えておいてください.

樫尾:抗うつ薬の中断症状“FINISH”,頭に残りやすいですね.実際に,COVID-19が心配で受診を控えたいけれど,抗うつ薬が足りなくなるからと自分で半分に割って飲んでいたという患者さんもいました.幸いにも症状は悪化しなかったので,それを機に抗うつ薬の減量ができましたが…….今後もしばらくこういったリスクはありそうです.先ほど宮内先生のご指摘のあった「生命の危険性は低いものの早期の治療が必要な疾患」は,(後遺症のリスクがある)帯状疱疹突発性難聴顔面神経麻痺くらいかと思いますが,「こういう症状には注意! 早めの受診の相談を!」という内容こそ,ワイドショーで取り上げて欲しいですね.

宮内:本当にそうですね.まぁそこからわけのわからない治療法や健康食品に行ってしまい,何か起こっても責任は取らないのがマスゴミなのですが…….どうしようもないコメンテーターや司会者,妙な医療ジャーナリストばかりがのさばって……

樫尾:もしも患者さんからワイドショーの情報に関して相談されたときには,今回の連載を患者さんも医療者も供覧していただけるとよいかもしれませんね.

今回のまとめ

・生命の危険性は低いものの早期の治療が必要な疾患(帯状疱疹,突発性難 聴,顔面神経麻痺)も,この時期は,受診頻度が減ることでみつけにくく なる.日頃から注意すべき症状を啓発しよう.
・受診の頻度が減っている患者には,こちらから連絡を取ってみることも有 用.とくに向精神薬を内服中の場合は中断症状(抗うつ薬はFINISHで覚え る)にも注意する.
・テレビなどの限られた情報のみを信頼することを避けるためにも,患者か ら気軽に相談してもらえる関係を築いておく.

※本内容は「治療」2020年11月号に掲載されたものをnote用に編集したものです


本連載の著者2人が書き上げた,
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