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【街角の遠隔診療】第5回 受診すべきかどうか, それが問題だ

樫尾明彦(プライマリ・ケア医),宮内倫也(精神科医)

この連載について
今後広がりをみせそうな遠隔医療.しかし実際にやろうと思うと不安な点がたくさんあります.本連載ではプライマリ・ケア医と精神科医による対話から日常で遠隔診療を行うポイントを探っていきます.

前回(第4回)はこちら

事 例
30代女性.主訴は2週間,間欠的に続く咳と倦怠感で体温は上がっても36℃台後半.外出は買い物以外ほとんどなし.夫はテレワーク,子どもも家にいてストレスが大きい.

宮内:今回は急性咳嗽ですね.普段なら病院に来てもらって診察と検査という流れだとは思いますが,COVID-19によって患者さんが外出することに抵抗を感じ,遠隔診療することになった場合はどのように対処されるのでしょうか?

樫尾:この時期は,患者さんも医療者もCOVID-19にどうしても引っ張られる
こともあり,まずこの患者さんがCOVID-19らしいか,らしくなさそうか,そして万が一COVID-19だったとしても悪化するリスクがあるかを考えました.
 電話での問診上,買い物以外はほとんど外出していないことがわかり,とくに既往歴がないこと,ほかの家族はこの2週間とくに症状がないことからも,あまり COVID-19らしくないかなと考えました.COVID-19罹患を完全に否定することはできませんが,万が一COVID-19だったとしても,発症から
7 日以上経って症状が悪化していないため,今後急に悪化するリスクは低いと考えました 1)
 ここまでを患者さんに電話で説明して納得してもらえれば,その次の鑑別を考えることになります.

宮内:これに納得してくれるかどうか,というのがポイントですね…….多くの方は事前確率や尤度比の理解が難しいようで,検査で陽性ならその疾患,陰性ならそうではない,ということだけで頭が動いています.その点で樫尾先生が電話での説明で心がけていることはありますか?

樫尾:そうですね……インフルエンザの迅速検査への考え方が,新型コロナウイルスのPCR検査に取って代わったという感じですね.本人のみが納得できても,家族や近所の住人,勤務先がある人なら上司やちょっとしたヘルスエキスパートのようになっている非医療者など,周囲の発言力のある人も納得してもらえて,初めて次に進めるのではないかと思います.電話で説明して,本人が納得してもらえそうな場合は,ほかに発言力がありそうな周囲の人がいないか,いればその人も納得してもらえそうかを,聞くようにしています.それ以前に,本人がまだ納得できない場合は,不安や心配をもう少し具体的にたずねることが次の一手でしょうか.

宮内:COVID-19にまつわる不安というのはどれも「そらそうやな」と思えるものであり,その感覚は大事にしたいですね.そこを理論で倒すようなことはせずに,いったん受け止めてもの想いするようなゆとりを私たちはもちたいものです.医療者から見た“正しい説明”は暴力性を帯びる,ということを覚えておきましょう.そのうえで,医療者に何ができるか,患者さん側で何ができるか,ということを協同して探っていくことが肝要ですね.
 とはいいながらも,電話では患者さん側も慣れていないせいか,思ったことをいえない(いうのを忘れる)ことが多いように感じます.不安を1回の電話で解消しようとせずに,再診の窓口は開いていますよということをしっかりとアピールし,また再診までの間に聞きたいことがあればメモをしてもらうなどの対応を取るとよいかも知れません.

樫尾:患者さんがどのような環境で電話しているかも大事ですね.体調を崩して,職場の上司が近くにいることはおそらくないかと思いますが,もし家族が近くで聞いていたら,本人にプレッシャーになったり,プライバシーの保護が難しくなっていないかなども留意点かと思います.家族と一緒に納得してくれれば一番いいのですが.
 この患者さんには,COVID-19流行以前でしたら,来院してバイタル測定や胸部X線写真,採血など検討したいところですが,電話診療では患者さん自身(か家族)が測れるバイタルはわかっても,検査は不可能ですね…….

宮内:電話もそうですし,ZoomなどのWeb上でも誰が聞いているのかには注意が必要ですね.おっしゃるとおりプライバシーも考えなければいけませんし,ひょっとしたら患者さん側で「医者がこういった」という証拠を握るために誰かをひっそりと同席させている可能性もあります.Webであれば,イヤホンマイクを着けていただくほうが無難ですね.
 遠隔診療は“検査ができない”というごく当たり前ですがとても大きな限界があります.病態も,肝機能障害など薬剤の副作用も…….遠隔でこまめなフォローをして,本当に必要なときは「来て!」とお願いする以外にあまり思いつきませんが,どのように対処されますか?

樫尾:オンライン診療でも,当然ながら画面しかみえないので,画面の奥でどのような状況になっているかは,たしかにわかりませんね.対面の診療でも,大事な病状説明は,看護師に同席してもらうこともありますが,電話やオンライン診療ではまだ難しいかも知れません.オンライン診療のガイドや講習も増えてきていますが 2),まだまだ確立されるのはこれからになりそうです.
 この患者さんについては,発症が2週間近く前と考えれば,やはりCOVID-19とは考えにくく,それ以外の身体疾患を鑑別するためにも,症状が改善しないなら来院を勧めたいと思います.念のため,かぜ症状のない定期受診患者さんとは,動線や待合,診察スペースを分けて診察をと考えます.

宮内:そうですね.診察スペースなどを分けるのも,ほかの患者さんのためでもありその患者さんのためでもあるというのを強調したほうがよいですね.ちょっといじわるな質問になりますが,「やっぱり怖くて行けません!」と患者さんがいった場合,先生ならどうされますか?

樫尾:宮内先生のいじわるではなく,実際にこの患者さんにはCOVID-19の可能性よりも,ほかの鑑別を考えたいと伝えたところ,もう少し様子をみたいという返事でした.直接受診するメリットや受診しないリスク(たとえば喘息発作なら夜間に急に悪化するリスク)も伝えましたが,いまは受診自体
の感染リスクのほうが心配とのことでした.テレワークで家にいる夫と,間引き登園で家にいる時間の長い子どもとの,3人での濃い生活が続いているストレスもあるとのことでした.ただ,診療時間中には受診よりも様子をみたいといっていた患者さんが,夜や休日に,症状が悪化したり不安になって,救急医療機関に駆け込むという話も聞きます.週末前に再度電話診療で様子を聞くことと,体調が悪化すればその前でもまずは電話で対応することを伝えました.夜間の対応については,24時間対応を契約している在宅患者さん以外は,無床のクリニックではなかなか難しいのですが…….最近はかかりつけ関係なく,夜間や休日にトリアージや往診をする医療機関も出てきたようです 3)

宮内:なるほど,ありがとうございます.夜間対応できるところがある,体調が悪化したらまず電話で対応できる,などが患者さんに伝わると,安心できる部分も大きいかもしれませんね.患者さんは五里霧中なのではなく,先に実は明かりがあるのだよ,とこちら側がみせていくようにするのは大事だと思います.

樫尾:そうですね.私たちもまだ手探り感はありますが,新しい「生活様式」だけでなく新しい「診療形態」を整えていきたいと思います.

今回のまとめ

・患者のCOVID-19に関する不安は一度受け止めて,双方ができることを
 探っていこう.
・オンラインでの診察は患者さんも慣れていない.患者さんの周囲の状況
 も考慮しつつ一度きりでなく再診もできることを伝えよう.
・COVID-19の可能性が低ければ感染対策したうえで診察や検査のために
 来院してもらう.患者が来院に不安を感じる場合は,リスクも考慮しつ  つ,電話するように伝えておこう.

参考文献
1) メディカル・サイエンス・インターナショナル:感染症プラチナマニュアル 2020 番外編 新型コロナウイルス2019(COVID-19).2020.
https://www.medsi.co.jp/pdf/covid-19_2007.pdf
2) 日本プライマリ・ケア連合学会:プライマリ・ケアにおけるオンライン診療ガイド.2020.
https://www.pc-covid19.jp/files/topics/topics-5-1.pdf
3) Fast DOCTOR
https://fastdoctor.jp/

※本内容は「治療」2021年1月号に掲載されたものをnote用に編集したものです

本連載の著者2人が書き上げた,
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