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名言で振り返るHow to Do Primary Care Research 【翻訳版 出版連動企画】第2回

(執筆:金子 惇)

このnoteでは2022年6月に南山堂から発売予定の「プライマリ・ケア研究 何を学びどう実践するか」の内容や見どころを連載形式で少しずつ紹介していきます!
この書籍はWONCA(世界家庭医機構)推薦のプライマリ・ケア研究の教科書であるHow to Do Primary Care Researchを翻訳したものです。この連載では各章から翻訳の時に印象に残った名言を紹介しつつ、内容について触れていきます。

SECTIONⅢ:プライマリ・ケア研究を始めるために

SECTIONⅢは
CHAPTER12 研究提案書をどう書くか?
CHAPTER13 倫理的に研究を行うために
CHAPTER14 文献の検索と批判的吟味
の3章からなっており、プライマリ・ケア研究に留まらず臨床研究全般に必要な基本的知識について書かれています。

そのなかでも、たとえばCHAPTER13の倫理に関する記述の中に、患者さんと距離が近いプライマリ・ケアでの研究において特に気を付けるべきことが「プライマリ・ケアに特有の倫理的問題」という形で記載されるなど、各章がプライマリ・ケアに従事する医療者を念頭に置いて書かれています。

このSECTIONⅢの中で印象的だった文章の一つがCHAPTER13の
“For the new researcher, the initial steps in undertaking a research project and seeking ethical review can seem daunting and have been described as like ‘stepping into another country – with a new language and different expectations’”
初学者が初めて倫理審査を受けるのは「別の国に足を踏み入れたかのように,使われている言葉や求められる行動が全く異なる」
でした。

自分が初めて倫理委員会に書類を提出した時もまさに同じように感じました。煩雑に思われる書類の意義・そこで求められているものの意味がわかるにはどうしても時間がかかるかなと思います。この章が少しでもそこを乗り越える助けになれば幸いです。

もう一つこのSECTIONで心に残ったのは、前回でも言及したGreenhalgh先生の言葉
“If one is deciding whether a paper is worth reading, you should do so on the design of the methods section and not on the interest value of the hypothesis, the nature or potential impact of the results or the speculation in the discussion”
です。
「読む価値がある論文かどうかは方法論のところがしっかり書かれているかによる」というのはその通りで、先行文献を批判的に吟味してその上に自分の論を組み立てたり、自分の研究を位置づけたりすることの重要性を表していると思います。

SECTIONⅣ:プライマリ・ケア研究のための方法と技術

SECTIONⅣは実際の方法論について記載されており、量的研究だけでなく質的研究・混合研究についても書かれていることが特徴です。

システマティックレビューから始まり、統計解析、質問紙の設計、診断精度研究、観察研究、ランダム化比較試験、グラウンデッドセオリー、解釈学的研究、エスノグラフィー、事例研究、相互作用分析についてそれぞれの端的なまとめと、さらに学びたい人のためのリソースの紹介が書かれています。

CHAPTER16の統計解析に関する部分では古今の名言の引用が多く
“If your experiment needs a statistician, you ought to do a better experiment”
「もしあなたの研究に統計家が必要なら,研究デザイン自体を改善すべきである」
“to consult the statistician after an experiment is finished is merely to ask him to conduct a post mortem examination. He can perhaps say what the experiment died of’”
「研究が終わってから統計家に相談するのは,単に死後の検査をしてくれと頼んでいるようなものだ.彼が言えるのは,その研究で何が死んだかだけである」
などに加え、
“Bad statistics are deceptive: the role of a good statistical analysis is to force the statistics to tell nothing but the truth.”
"悪い統計は人を欺くものであり,優れた統計とは統計に真実以外を語らせないものである”
とも書かれています。

ここでは1章を割いて個別の方法ではなく「統計」というものそのものの考え方について触れています。

尺度の妥当性についてのCHAPTERでは尺度翻訳のプロセスや信頼性・妥当性の意味および具体的な中身についてわかりやすく書かれています。さらに、ランダム化比較試験の項では通常のランダム化比較試験に加えて、ステップウェッジデザインについても紹介されています。

個人的には現象学的研究についてのCHAPTER23に書かれている
“We gather other people’s experiences because they allow us to become more experienced ourselves.”
「私たちが他人の経験を集めるのは,それによって私たち自身がより多くの経験を積むことができるからである。」というのは質的研究の重要な側面を表現していると思います。

また、
“Phenomenology orients to the meanings that arise in experiences”
「現象学は経験の中に生じる意味を志向する」とあり、その後に「現象学的プライマリ・ケア研究者は,参加者の視点から,生きられた状況や瞬間のストーリーを解釈して,その意味を説明することが求められているのである」と続く部分はプライマリ・ケアの臨床ともすごく通じる部分があるなと思いました。

エスノグラフィーについてのCHAPTER24では
Ethnography literately means, ‘writing about people’.
「エスノグラフィーとは,文字通り「人間について書くこと」なのである」という記載があり、プライマリ・ケアや医学教育に関する古典的な論文が紹介されます。また、その後に現代のプライマリ・ケアにおけるエスノグラフィーがどのようなものか?どう行われるか?についても触れられています。

このように臨床研究全般に通じる内容から、量的研究の成書では触れられない領域までさまざまなトピックがカバーされています。

次回のnoteではSECTIONⅤ:研究を発信するためにについて紹介していきます。

また、本書籍『プライマリ・ケア研究:何を学びどう実践するか』出版記念オンライントークイベントとしてAntaa様とコラボして2回のトークイベントを行います

第1回「これからの日本のプライマリ・ケア研究」
5月31日(火)19:00-19:30
金子惇(横浜市立大学大学院データサイエンス研究科)×
藤沼康樹(CFMD東京)
 
第2回「病院総合診療医×診療所プライマリ・ケア医による研究の可能性」
6月4日(土)11:00-11:30
金子惇(横浜市立大学大学院データサイエンス研究科)×
志水太郎(獨協医科大学総合診療医学講座)

追加情報がありましたら、またこちらのnoteでもご紹介します。

(このnoteでの訳は一部を紹介するためのものであり、本書での訳と必ずしも一致している訳ではありません)


プライマリ・ケア研究 何を学びどう実践するか
(原著:How To Do Primary Care Research)
翻訳:金子 惇(横浜市立大学大学院 データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻) 
edited by Felicity Goodyear-Smith and Bob Mash
endorsed by the World Organization of Family Doctors (WONCA)
2022年6月 南山堂より刊行予定
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