わたしらしさを整えてゆく
遺伝って、ふしぎ
親子って、ふしぎ
父と母から DNAを受け継いで
それぞれに似たところがあるけれど
父とは違うわたし
母とも違うわたし
わたしはわたし
わたし って何
わたしらしい って何だろう
わたしらしさを 探している
*
大阪で一人暮らしをしていた母が 一年半ほど前に他界して、実家に溢れた物を少しずつ、ほんとうに少しずつだけれど 片付けている
残された母の物のあちこちから、桜の押し花がこぼれて笑う
あ… おんなじことしてる
東京の自宅では いつもわたしが笑われている
雑誌の中から、三つ折りになった紙がはらりと落ちる
遭遇した家族は 何これ?となる
紙の内側には、押し葉や押し花が挟まっていて
今ではもう 誰の仕業かも その中の正体も明らかなので、「またか」という感じ
実家の片付けはしばらく保留にしたまま、“まずは自分の居場所をきれいにするぞ” と、新年度スタートまでを目標にして、先月は 自宅のあらゆる収納を頑張って整理した
本をまとめて手放すのに、念のため ひと通りパラパラめくっていくと、三つ折りの紙がいくつも出てきて笑われた… というか、呆れられた
あぁ、ここにいたのね
その時の気分で適当にやるから、そのうちどこに挟んだのかわからなくなって、ずっとそのままになっていたりする
押し花にしてみたところで、それをどうこうする予定などはなくて、ただなんとなく 残しておきたい衝動に駆られる
いつかの思い出の写真のように
あの時のあの花の存在が確かであったことが、きれいだなと感じた事実が 今ここにあることが嬉しい… ただそれだけ
実は、11月に京都で拾ったモミジが もうすでに行方不明になっている
どの本に挟んだっけ
学習能力の欠如
残している本のどこかにあるはず
今度からは、いつ・どこに・なにを 挟んだかをきちんとメモするようにしよう
そのメモを忘れた時は、もうしょうがないなって 自分で自分を笑うしかない
たぶん、あれもこれも母ゆずり
植物が好きなところも
押し花が好きなところも
ざっくり大雑把なところも
自由奔放で気ままなところも
*
実家で母の荷物を整理していると、時々母の知られざる一面が飛び出してくる
それが自分の一面に重なっていたりするとびっくりして、DNAって すごいな、遺伝っておもしろいなと思う
そして、母のことを何もわかっていなかったんだなって ちょっとだけさみしい
わたしは昔から、どちらかと言うと父親似だと思っていたのだけれど、どうやら かなり母を受け継いでいるみたいで
ちっとも知らなかった
もっと話したかった
もっと聞いてみたかったなと思う
物や言葉… 母が大事にしていたものの中から、わたしが大事だなと思うものを選んで 掬い取っていく
母のものを整理しながら、同時に自分のことも俯瞰して整えているような感覚で
わたしらしさの輪郭が 少し見えたような気もした
*
言葉
母の言葉があちこちからたくさん出てきた
手帳に、ノートに、メモに、チラシの裏に…そこにはちっとも拘りはなくて いかにも母らしい
一文字一文字 丁寧に書かれているものもあれば、達筆と走り書きが紙一重の難読なのものもあって、
それは感情の度合いを表してるのかもしれないし、表現の一部かもしれないし、ただの気まぐれなのかもしれない
日記のようだったり、覚え書きのようだったり、時には物語や詩のように言葉は紡がれていた
感じるままに そばにあったものに気持ちを書き留めていたようで
書くことが好きな人だったんだと初めて知った
店の伝票や帳面をつけている母しか わたしは見たことがなかった
今のところ、短歌はまだない
本
詩集や小説など
母が読書をしている姿は、全く記憶にもなく想像すらつかない
本の年代からして独身の頃のもの
お嫁に来るときに持ってきたものかな
それほど読み込んだ形跡はなく
大事に読んだお気に入りなのか、積ん読タイプか、祖母から受け継いだものかもしれない
音楽
国内外のポップス、ジャズ、クラッシックなどのレコードたち
わたしが聴いているアーティストもいた
母は歌がとても上手な人だったけれど、口ずさむのはいつも歌謡曲だったし、実家にはレコードプレイヤーというものはなかった
これもきっと お嫁入りの時に持ってきたものに違いないけど、こんな音楽を聴いていたなんて、どうしても結びつかない
驚いたのは、その中に ハワイアンミュージックのレコードがあったこと
裏に『カイマナヒラ』とそれだけが小さくメモされている
それは このレコードには収録されていない曲名
どういうことなの
わたし『カイマナヒラ』知ってるよ、踊れるよ
まさか、母も フラが 好きだったとか
そんな話は聞いたことがないけれど
まさか、余興でフラとか 踊ってないでしょうねぇ…
花
花が大好きなことは知っていたし、よく花を育てたり、花を生けてはいたけれど
華道を習っていたことも、お免状を持っていたことも知らなかった
日付から 結婚の数年前
旧姓で書かれた母の名前がなんだかとても新鮮
独身時代に 親友とお料理教室に通っていたことは聞いたことがあって
料理ができあがる頃に行って、食べるだけ食べて帰っていたという奔放ぶり(母の親友 ミサコさん 談)
四人兄妹の末っ子だった母は、筋金入りのおてんば娘
おはなもミサコさんと一緒に通っていたのかな
今度聞いてみよう
ファッション
ワンピース、バッグ、帽子、スカーフ、ネックレス、ブローチなど
これらも好きなことは気づいていたけれど、一度も見たことのないものがたくさん出てくる
半世紀以上前の 独身OL時代のものだと思う
結婚してからは 煌びやかなオシャレやお化粧をすることなんてなかった母だけれど、普段から仕事の邪魔にならないもので 自分なりのオシャレを楽しんでいた
昔からきっと好きだったのだと思う
*
母の残したものの中から、いいな、好きだなと思ったものを受け継ぐ
それらは今のわたしの中に混ざっても違和感はなく
それが、母とわたしの似ている部分
思いの通じ合う部分
たぶんそういうことなのだと思う
実家が片付く目処は一向につかない
大阪へ行ける時に少しずつ進めるしかなくて
それほど頻繁にも行けないので、時間はまだまだ掛かると思う
宝の地図があれば もっと捗るのにな
*
今日 4月14日は、母の 80回目の誕生日
この写真は、亡くなる年の78歳の誕生日に贈った花束の中から、母が一本 植木鉢に挿木していたバラ
亡くなったあとに咲きました
バラを見かけると いつも母を思います
花を育てるのが とても上手な母でした
空や海をぼんやりと眺めたり、月や星が好きなのも母とおなじ
気持ちよく晴れた青空の朝です
晴れ女なんですよ、母もわたしも
どうぞ よい一日を、よい一週間を
#154. 『 整える 』 入選歌 二首
⭐︎いる、いらない、母の遺品を分けゆきてわたしらしさも整えてゆく
(第25回 NHK全国短歌大会 自由題部門
佳作 川野里子 選)
⭐︎命日の日付を抜いて束ねゆく明日はこない朝日新聞
(同大会 自由題部門 入選)
ー ちる ー
おまけ…
母の引き出しからはこんなものも…
すっかり記憶がなくなっているから不思議な感じ
時代を感じてくすぐったい感じ
わたしが小学生だった時の 母の誕生日
数十年という時が経っていても、押し花ってきれいに残っているものなんですね
母へのプレゼントは 四つ葉のクローバー
子供の頃からちっとも変わってないんだな
わたしらしい… のかな
(赤い袋の中には、手作りのお手伝い券も入っていました^^)
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