小鳥のようにうたいながら 2022 (皐月 May 〜 葉月 August)
規制が緩和され、中止になっていた各地のイベントなども、“ 3年ぶりの開催! ” というのがあちこちで聞かれました
人との出会いや再会、旅行などがようやく再開できたという方も多かったと思います
私も久々の再会がいくつか叶いました
わたしの母もまた大切なお友達と なんと50年ぶりの再会を果たしていました
母は広島生まれで大阪育ち、高校を卒業して18歳で就職しました
その時の同僚のミサコさんは、おそらく母の唯一の親友で 60年のお付き合い
わたしの知らない独身時代のふたりの思い出がたくさんあるようです
ミサコさんは九州へ嫁がれ、今も大分県にお住まいです
結婚後はそれぞれの事情で会うことは叶わなくなり、その後は時々 電話や手紙でお互いのことを交わしていたようです
この5月に 母は九州を訪れ、そのミサコさんとの再会を果たしたのでした
半世紀前に戻って ほんとうに楽しそうにコロコロ笑う二人
そんな写真と動画がわたしのカメラロールにも残っています
母は 嬉しかった、楽しかったと何度も何度も話していました
次はゆっくりと旅行にでも…
それは叶いませんでした
再会の4ヶ月後、母が息を引きとるとミサコさんにもすぐに知らせました
信じられないと涙して、ただ寂しいと繰り返し
「最後の挨拶に ちゃんと会いにきてくれたんやね…」とおっしゃいました
ふたりが もう一度会えたこと、元気に明るい笑顔が交わせたこと、本当によかったなと思います
***
2022 〜春から夏へ〜
皐月 May
⭐︎繊細なカケラを見つけようとするどんぶり勘定の母の裸眼
⭐︎だれよりも十月よけいに抱きおり 母のみぞ知る重さありけり
⭐︎たんぽぽの綿毛 ふたつの手のひらでそっと包みて遠き日のヒナ
⭐︎透明にさえずる空を探せどもそこには風と雲だけがゆく
⭐︎そろそろと差し伸べてみる手のひらの運命線をなぞる紅娘
⭐︎体には気ぃつけるんよと別れ際 母に譲らる小さきブローチ
⭐︎クローバーの押し葉の色の褪せぬうちラブレターをと思いつつ初夏
⭐︎雨粒の怒号をひたすらに弾きひたすらに青きクローバーよ
★「ふたりとも歳をとったね」「おあいこよ」再会のタイムマシンは過去へ
水無月 June
⭐︎昼下がり 悪戯みたいな雷雨は不意の涙に遠ざかりけり
⭐︎透明な硝子をはじく透明な雨粒の告ぐ夏の始まり
⭐︎カーテンか通りすがりの草花か ページの奥のエキストラとなる
⭐︎本を読む 雨音だけのする部屋の重い扉をあけるみたいに
⭐︎ 色のまだどっちつかずの紫陽花に雨音は子守唄のようで
⭐︎ ダンスパーティー 軽やかな名の紫陽花にならびて六月の花嫁よ
⭐︎真夏日のじっとりとする温度差を宥めるように跳ねる噴水
⭐︎テレパシー ってある?と空に訊いてみる ほんとは︎好きと伝えたいのに
★いたずらに蛍光ペンで頬紅ひく スタバ女神も恋する乙女
文月 July
⭐︎罫線も模様も色もない白の混じりけのなく揺れる短冊
⭐︎「UNKOWN…」と辿り着けずに弾かれし 切手の猫は手招きのまま
⭐︎一会なり ほどけカランと鳴る氷 ミルクの描く模様の一期
⭐︎遠き日の喫茶店にて「 レーコーとミックスジュース 」 父と吾の笑み
⭐︎ワンピースの裾をちょんっと持ち上げて急ぐプリンセス 駅の階段
⭐︎やわらかな夏のワンピースは風を孕みて潮騒を抱きとめる
⭐︎ 三粒の種をあたため夏はきて リアルのあわいに咲いた向日葵
⭐︎現在という現実の夏空に飛び交っている ソーシャルメディア
⭐︎穴ぼこの渋谷に落ちる夕焼けよ 脱出すべき出口ふさがれ
⭐︎東京って何色?といふ問いかけに透明と答ふマイノリティ
★短冊は一枚 ド・レ・二・シ・ヨ・ウ・カ・ナ 願い事はジブンノイウトオリ
葉月 August
⭐︎フレームの中に余白を残しつつきみを描きつ撮りためた空
⭐︎「気まぐれなキミみたいだ」ときみは言う シンメトリーを避けがちなふたり
⭐︎ 蜘蛛の巣に引っかかってる雨粒もここに生まれたことを証して
⭐︎ 音のなき受話器のむこうに話すれば声届くやも 父の命日
⭐︎ベランダの溝に動かぬ蝉の腹 ゆうべ聞こえし羽音の残暑
⭐︎したためた残暑見舞いを手に取りて出した切手を箱へと戻し
⭐︎父母のDNAを思い知る 時計回りのうずの蝸牛
⭐︎バックパックたったひとつで旅に出る蝸牛のように音も立てずに
★いらないと言うのにいつも持たされる母のジョークとジョニーウォーカー
ー ちる ー
***
母の四十九日には 『 食いしん坊だったちぃちゃんへ 』とミサコさんから美味しいおやつがたくさん送られてきました
かつてスイーツを食べに ふたりで会社を抜け出したりもしたのだとか
そして当然 ふたり揃って上司に叱られたとか
かなり見事なお転婆っぷり・・・
初めてわたしからミサコさんへ手紙を出しました
苦労が多かった母には きっとミサコさんの存在はとても大きかったはずです
心から信頼をして、心の支えとなっていたと思います
母にそんなお友達がいたことがとても嬉しくて
ずっと変わらず 生涯友達でいてくださったことに心から感謝しました
ミサコさんからのお返事には、互いにいろんな苦労があったけど いつも励まし合っていたこと、 共に笑ったり泣いたりしてきたことが綴られ、『 わたしが選んだ親友は間違いなく素敵な人だった 』と書いてくださっていました
心友であり、信友であり、真友であったふたり
友達って素敵だなぁ、すごいなぁ、大切だなぁって 改めて教えてもらいました
『 今度こちらに遊びにきてください
美味しいものでも食べながら、ちぃちゃんの話をたくさんしましょう
怒られるかなぁ… ちぃちゃんのことだから一緒に笑ってくれるよね 』
わたしに大切なお友達がひとり増えました
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