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第14回「いらん」

大学を中退した。1年浪人して1年留年して、結果中退した。いまとなっては、もったいなかったなあとたまに思う程度で特になんとも思っていない。

しかし、20代前半の当時のわたしは、授業に全くと言っていいほど出席せずに誰よりも単位を持っていなかったため、自分はそんなにもダメ人間なのか…と悩むことがあった。

勉強自体は好きなほうだ。ならば自分の興味のある分野ならばどうだろうか。バイトしては酒を飲みあかしていたわたしは、資格の勉強を始めることにした。え?何の資格って?


アロマテラピー検定だ。なぜか小さいころからアロマが家では焚かれており、その環境で育ったわたしにとってアロマは生活必需品だ。ざっくりの種類や香り、効能は知っていたが、知識を深めようということで勉強を始めた。

実際の試験では、香りの実技もあるため、精油のキットを購入し香りも覚えた。案の定、好きなものには夢中になれたし容易く試験も合格することができた。


「やればできるやん」この言葉欲しさに勉強したものだから、特にこの資格を持っていても活かす機会はなかった。自己肯定感だけを高め、その当時何とか精神を保つことができた。ちなみにいまでも、「やればできるやん」の為に何かを勉強する癖はやめられない。正直、快感すぎる。


この資格を取得してからおよそ5年後に突如、資格が活かされる日はやってきた。

意中の殿方の家にお呼ばれした時のことだ。交際までは秒読み、ボディタッチさえもないプラトニックな関係性の殿方の家へと足を運んだ日があったのだ。家に入る前に玄関口で少し待たされる。部屋汚いからちょっと待ってな…のおなじみのあれだ。

数分後中に通されると間接照明と共にアロマディフューザーから轟々と噴霧されるミストが目に入った。「アラ~この殿方ってばお洒落さんね」などと心の中で思いつつ、足を進める。と同時にアロマの香りが鼻を刺激する。脳で考えるよりも先に言葉が出ていた。

「あれ?今日抱く気?」

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なんと色気も可愛げのない発言だろうか。「もしかしたら今から告白されるやも…///」のあの気持ちはどこ行った?


間髪入れずに返ってきた『え?何のこと?』から察知した。元カノさんはエッチな方だったのだろうと。

彼が部屋で焚いていたアロマは催淫効果のあるイランイランだった。インドネシアでは古くから新婚初夜の日のベッドにはイランイランのお花が敷かれていたそうな。お店ではムードを出す~~なんて文言で取り扱っているのだろう。

あの時自分の自信を取り戻すために得た知識がいらない形でやっと発揮された瞬間だった。その日は適当に話を流し、交際へと発展したのはその日から10日も経たない頃だった。


交際が始まってから再度イランイランの話になったことがあり、自分でもデリカシーないなあとは思いつつも、元カノさんからもらったん?と聞いてしまった。癒し効果があるからとプレゼントされたのだと言う。

「えらいエッチやね。本気で抱かれるか思たわ。」そういうわたしに対して、少しキレ気味に『こんなもん、いらんわ。』とゴミ箱に精油のボトルを投げ捨てる彼の姿を見て、「あっおやじギャグみたい。イランイランだけにな。」と思ったそんなお話。あの時は、ごめんやで☆彡

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