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涅槃で会えるなら

大学3年生の夏、インターンシップにたくさん行った。何がしたいかわからないから、とりあえずなんでも参加した。

大学4年生の春、何がしたいかわからないままリクルートスーツを着た。水色の背景の証明写真には、アイプチをした自分を写した。

「就職活動の軸はありますか」
「はい、ブスで悩まない会社に勤めることです」

男どもはいつだって、自分たちが神様だと思い込んで女を採点する。
「同期の中で誰がタイプ?」
という話をする。
そういう時に、名前が上がらないのがあたし、ブス。
そういう話題が上がらない会社を探そうと決めた。

同時進行で根源を取り除く必要がある。とりあえず、ブスの低減が必要だった。
リクルートスーツを着て面接に行く。その帰りに風俗店に出勤して、ボディラインの出る服を着る。面接官と似たような年齢の男どもにオイルマッサージを施す。そうやってお金を貯めた。貯めるのに必死だった。
「早く就活を終えて、出稼ぎに行って顔を変えなきゃ」
それだけだった。
だから就職活動はあまり真面目にやらなかった。

結果、薄給茶色乳首が誕生した。
すっかり綺麗に風俗嬢をやめて、OLになった。
薄給と名乗っているが、給与が振り込まれるたびに
「こんなに仕事ができないのに、こんなにたくさん?!」
と思って会社に感謝している。
就職活動の軸、「ブスで悩まない会社に勤める」も満たした企業で、ここに入れてよかったと思う。
良い会社だと思っている。

思っているけれど・・・
仕事が楽しすぎた。
風俗しかできなかったあたしに、肩書をくれた。嬉しかった。
もっとできるようになりたいと思った。
もっと稼ぎたいとも思うようにもなった。特に夫と出会ってからは。

夫は真面目に勉強をし、真面目に就職活動をした真面目な人間だった。
資格だってたくさん持っている。
あたしには到底理解のできない複雑な仕事をこなしている。
でもそれをひけらかさない。当たり前のように身に着けている。

彼に憧れてしまった。
そして彼の周りにいる女性たちにも。

「今日から岡田さんっていう人が中途で来てんけど、彼氏と結婚するために東京の会社辞めて転職したらしいねん」
「ああ、これは大手商社のインターンで知り合った友達。4人ぐらいで仲良くてみんなでよく遊んでてん」
「リナちゃん、来月からタイ駐在やって。羨ましい」

元カノはインターンで知り合った旧帝大出身で、今もバカデカい企業に勤めているらしい。

あぁ、あの時、清く正しく生きられたなら、あたしにもそういう選択肢があったかもしれない。
でもあの時のあたしは、本当に真剣に風俗で働いていた。真剣じゃなければあんな額は稼げない。あんなに人気は出ない。生まれた時の顔のままなら、彼の目にも留まらなかっただろう。

1か月ほど前、彼に
「なんで好きになってくれたの?」
なんてチープな質問をした。
何度もしたこの質問に彼は「かわいいから」程度の答えしかくれなかったが、その日は答えてくれた、あたしにつむじを見せながら。
「まずは、初対面で可愛いな~って思ったかな。あと、見た目はチャラチャラしてるのに、真剣に仕事してるところが良いって思った」

ほら、間違ってなかったじゃない。顔を変えて良かったのよ。今の顔になって良かったのよ。
今の会社で真面目に仕事して良かったのよ。

清く正しく生きられたわけじゃない。でも清く正しく生きていたら彼と結婚なんかできなかった。
だから余計、彼のお眼鏡にかなう顔で産まれ、清く正しく生きて、彼と一瞬(1か月)でも付き合うことができた旧帝大の女は憎い。

まぁそんな通過点の女の話をしても仕方がない。
インターンシップで清く正しく知り合った真面目な2人だったかもしれないが、マッチングアプリで知り合ったポッと出のあたしと結婚したんだから、あたしの勝ち。

あたしの夢はさ、彼を支えることなの。
あたしはもう彼に十分支えてもらった。
結婚した瞬間うつ病になった女に1年以上優しくしてくれた彼を、支えてみたい。
寝たきりになったり、自殺未遂をしたりしたあたしを一切責めず、貯金も尽きたあたしに「俺も働いてるし、お金なんかどうでもいいやん」と言ってのけた彼に同じことを言い返してみたい。

長生きしたいとか全然ないし、鬱病だから希死念慮だって弱いわけじゃないよ。
でもさ、昨日も隣で眠れて嬉しかったし、明日も一緒に寝れたら嬉しいな、くらいでさ。なんとなく生きていられる間くらいは、仕返しがしたいよね。
死んだらさ、行く場所違うんだからさ。今しかできないんだもん、ね。

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