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針が通らなくても

「その難関国家資格を取って、今より給料が高い会社に転職できなかったら、自殺するしかないって思ってるってこと?
それは、小さな穴に針を通すように難しいことかもしれませんね」
自殺防止ダイヤルのお姉さんに言われた。はっとした。

国家資格を取って、いい会社に転職して、お金をたくさんもらって、夫を幸せにしたいと思っていた。そのために、努力してきた。
でも、そんなの、あたしの能力では厳しいこともなんとなくわかってきていた。
働いていない自分を受け入れることも難しく、毎日自分を責めていた。
しんどかった。そのことに気づいていなかった。

「会社に復帰しようと思う。職場が本当に無理だったら、給料下がる会社も視野に入れて転職しようかなって」
申し訳ないし、ふがいないと思いながら夫に相談した。
「いいやん」
なんでもない事のように言われた。「昼ごはん、パスタでいい?」と聞いた時の返事みたいに。
「いつ復帰すんの?」
「まだ考えてない…。けど気持ちが整ったらすぐにでも働きたいと思ってる。国家資格も無理そうだし…」
「それはあかん」
少し強い口調で言われた。夫に否定されることなんて滅多にないので驚く。
「勉強やり切ってからじゃないと、後悔するで。落ちてもいいけど、諦めるのはあかん。あのとき最後まで頑張ってれば取れたかも、とか絶対うじうじ思うねん。やから試験だけは受けてみよ」
胸からいろんなものがこみ上げた。落ちてもいい、という言葉に助けられた。未来を見てくれていることもうれしかった。
何より、働いていないあたしを受け入れてくれていて、そのままでも良いって言われている気がして、気が楽になった。

この人と結婚してよかった。
落ちてもいい、なんて思えないけど 落ちたら死ぬなんて思わなくてもいいんだよ、大丈夫だよ。
自分にできることを頑張ってみようと思う。

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