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「森」と「林」のちがいを地名から考えてみる

 昨日Twitterを見ていて、「森」と「林」の違いに関する話題を見かけました。先日、NHKの「チコちゃんに叱られる!」でこの話題が紹介されていたそうです。そこでの説明によると、「森」が自然で「林」が人工というものでした。この区分で説明して本当に良いのか不思議に思ったので、今回は地名から「森」と「林」のちがいを考えるお話です。

「森」と「林」が末尾につく地名?

 以前、「歴史地名データ」(人間文化研究機構が公開)を使って地名の分布を調べたことがあったので、今回もそのデータを使いました。テキスト形式のファイルを自由にダウンロード可能なのでありがたいです。

 歴史地名データには旧五万分の一地形図に記載された地名を位置情報(緯度経度)を付けてデータベース化した部分があります。その中で末尾が「森」と「林」のものを検索しました(末尾のみ抽出するのはRIGHTB関数が便利)。これらは旧版地形図に記載された地名のため、現在は残っていないものも含まれます。また、末尾が「林」のものには「・・御料林」「・・演習林」「・・国有林」「・・官林」があり、今回は除外しました。

ポイントデータと重なる領域の属性をGISで取得する

 分布を印象で説明するのは説得力に欠けるので、都道府県別に集計しました。QGISを使用し、作成した「森」と「林」のリスト(元データの座標つき)をCSVにして、QGISでポイントデータとして表示します。それを都道府県の領域と重ね、都道府県名の属性をそれぞれのポイントに付与しました(データ管理ツールで、空間関係に基づいて属性の結合を行う機能です)。その後、ポイントを再度データで出力し、エクセルで集計しました。

末尾が「森」の地名の分布

 作成したCSVファイルを地理院地図で地図化し、背景には自分で作る色別標高図を入れて大まかに山地の形状が分かるようにしました。まずは末尾が「森」の地名から見ていきましょう!

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 東北地方、特に岩手県(231件)と秋田県(171件)で多いです。また、四国地方でも高知県(52件)、愛媛県(51件)と多いことが分かりました。今回のデータでは、末尾に「森」と「林」のあるデータは北海道7件、沖縄6件と少なかったので、地図の範囲は東北から九州までです。なお、最南端の「森」地名は沖縄の「波照間森」でした(波照間島ではなく西表島にあります)。

末尾が「林」の地名の分布

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 次に末尾が「林」の地名です。こちらも最も多いのは岩手県(49)でしたが、長野県(33件)、栃木県(29件)、埼玉県(26件)のように末尾が「森」の地名が少ないところで多い場合もありました。

末尾が「森」・「林」の地名を都道府県別に集計すると・・・

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 都道府県別に集計したグラフを見てみましょう。末尾が「森」と「林」の地名を積み上げ縦棒で、両者の総数に占める「森」の割合を折れ線グラフで示しています。東北地方と四国の愛媛・高知2県で末尾が「森」の地名が多く、結果として総数も多くなり、総数に占める「森」の割合も高いです。栃木、長野などでは末尾が「林」の地名の方が多いため、折れ線の値が低いことを読み取れます。

末尾が「森」の地名が多い地域の特徴

 末尾が「森」の地名が多い岩手県や高知県などでは、他のところでいわゆる「山」と呼ばれるところ(周りより標高の高い部分)を「◎◎森」と呼んでいる場合が多いことが分かりました。

山が森になっているところ(岩手)

これはすでにネット上でも指摘されていて、山登りなどをする人にとってはよく知られた知識かもしれませんが、私は初めて知って驚きました。

「森山」を地理院地図で検索する

 「・・森」という地名の後ろに「山」をつけて「・・森山」となる場合もあるらしいので、地理院地図で「森山」を検索しました。

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 「森山」の検索結果は、末尾が「森」の地名の分布とある程度重なっているようです。これは現在の地名がベースなので、上の2つの地図とはデータが異なる点に注意が必要です。

同じ地域の中で「森」と「林」を見比べてみる

拡大1_岩手と秋田で見た森と林

拡大4_四国で見た森と林

 少し地図を拡大して、末尾が「森」・「林」となる地名の分布を見比べてみます。秋田と岩手で見ると、比較的標高が低いところに末尾が「林」の地名があり、標高が高いところに「森」の地名があります。高知の場合はそもそも末尾に「林」の付く地名が少なく、愛媛では標高の低いところに分布しています。

拡大2_関東で見た森と林

 次に、北関東から埼玉あたりを見ると、あまり明瞭ではありませんが、末尾が「林」の地名は標高の低いところに分布しているようです。ただ、栃木の場合はそうも言いきれず、より詳しい分析が必要です。

「森」は自然で「林」は人工か?

 さて、ここで「森」は自然で「林」は人工という話に戻ります。私の個人的感触では、ある程度この定義も納得できるところがありました。というのは、私の実家は杉の植林がたくさんなされたところで、森と呼ばれるところがあまりなく、「山」や「林」と読んでいました。また、植林した場合に限らず、広葉樹を資源として利用していたところも「雑木林」「雑木山」と呼んでいました。ただ、人工の「森」もあると思いますし、自然の「林」もあると思います。なので、完全に両者を区別することは難しいと考えられます。実際に番組でもそのように説明がされたようですね。

まとめと今後の課題

 今回は旧五万分の一地形図に掲載された地名を使って考えたので、より小さな森や、地名になっていない森については考えることができていません。森と林の定義を考える場合は、地域での言葉の使われ方に注目して考える必要があります。方言との関わりも検討する必要があるかもしれません。ただ、末尾が「森」と「林」の地名を見るだけで、地域的特徴を読み取れたのはとても面白かったです。皆さんも地名を地図化して色々なことを考えてみてください。

湯沢市の森嶽神社

 最後に、秋田県湯沢市の「森」にある「森嶽神社」の空中写真で見た森を貼っておきます。お読みいただきありがとうございました。


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