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桃のパスタをめぐる冒険

この間大家さんから桃をいただいたんだけど、結構熟れていたので料理にも使っちゃおうと思い、お昼に「桃のパスタ」を作って食べた。自分で作る料理、見栄えがイマイチで写真に撮ることが苦痛なので写真は無い。

なぜ「桃のパスタ」にしようと思ったか。桃のパスタには思い出があった。

前職で1回だけお昼に一緒に出掛けた小学生のお子さんがいるパート主婦さん。その方と「お昼冒険しよう」という話になり、お昼休みにいそいそとふたりで出かけた。ちなみに前職ではまとまってみんなで休憩を取るわけではなく、午前の業務がひと段落した人から順番に休憩を取っていくスタイルで、合わせておかないとなかなか一緒に出かけることは難しい。それで、その日は「12時半に行こう」と相談し合って昼休みを合わせた。

普段お弁当かひとりで行きやすい場所でサクッと昼食を済ませていた私。せっかくなので「ひとりじゃ行きにくい店」をチョイスした。そこは、こじゃれたカウンターメインの小さなお店で、女店主がランチ時間ひとりで切り盛りしているお店だった。ランチ1100円ぐらいで、ちょっと奮発して冒険したことを憶えている。

ちょっと高めのカウンターの椅子にふたりで座り、「ランチワインがある」「飲酒して戻ったら怒られるだろうか」など仕事中頼む気もないのにどうでもいいことを話してランチメニューを注文した。その時のメニューが「桃のパスタ」だった。

「桃のパスタ」なんてものは今まで食べたことなかったが好奇心で注文した。甘い桃がパスタになるとどんな感じになるんだろう。ワクワクした。注文してすぐに女店主は調理に取り掛かる。切った野菜や桃の入ったタッパーを取り出し、フライパンに火をつける。その時気付いた。あれ、めっちゃ手際悪くない……?

女店主は途中顔なじみと思われるお客さんに話しかけられる時、完全に手が止まっていた。この人話しかけられると手が止まるタイプだ。あと髪の毛後ろでくくってるけど長すぎて料理に入らないかちょっと不安だった。店内自分たちを含めて4人ぐらいしかいなかったが見ていると女店主のキャパが越えているような感じがした。私達の休憩時間は45分しかない。(その分、始業時間が15分遅いのがお気に入りだった)休憩時間内に戻れるかちょっと不安になってくる。

そうこうしているうちに私の前に置かれた桃のパスタ。さっきまで女店主が目の前で一生懸命作ってくれていたやつだ。口に入れる。
「あ、こういう感じなんだ」という感想が出た。少し火が通った桃は甘さを感じられつつ、塩味でオリーブオイルと絡んでいる。美味しいけど「めちゃくちゃうまい」って感じとは違う。でも、桃のパスタの今まで食べたことがない、予想できなかった味に満足だったし、楽しく午後の仕事に戻っていった。

あれから数年経ち、自分でなんとなく適当に作った桃のパスタを口にしたときも同じことを思った。「あ、こういう感じなんだ」。めちゃくちゃうまいわけじゃないけどまずいわけではない。例えば、いただいた桃が一個だったらこのパスタはきっと作らなかっただろう。
でも、「あ、こういう感じなんだ」やその時のひそやかな冒険を思い出したいがために、私はまたこの桃のパスタを作ってしまうかもしれない。

#エッセイ #日記 #料理 #パスタ

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