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ウマとフリとオチと

 先日、友人と遊ぶ約束があった。待ち合わせ時間が14時だったのだが、その前にどうしても行かなくてはならないところがあった。

壁面に大きく馬の横顔と3つのアルファベット。
そう、場外勝馬投票権販売所、ウインズだ。

この日は競馬の祭典「日本ダービー」が行われる日であり、予想のためにこの1週間ありとあらゆる情報を集めた。これまでの戦績やタイム、血統などの確かなデータからTwitterに転がるたまたまだろみたいな信憑性の薄い情報、そして粗品の呪いまで本当に幅広く情報をかき集めた。

それをもとにレースの展開を予想する。どの馬が先頭で逃げ、どの馬が最後突っ込んでくるのか。無敗の二冠馬の誕生か、鬼門のローテからの勝利か。

ああでもない、こうでもないと楽しい予想を繰り広げながら、日本ダービーの夢を託す馬を一頭に絞った。選んだ理由の60%は好きな馬の子どもだからというだけなので、これまでのデータ収集や展開予想はあまり役立っていない。結局好きこそが1番の正義である。

 いざ、馬券を買う。便利な時代なため、馬券はネットでも買えるが手元にないと買った気がしないので現金で買う。

ウインズに着きエスカレーターで4階まで上がると、いつも以上におじいさんで賑わっていた。渋谷のど真ん中で即時高齢化ビームを打ったらたぶん同じ光景を見られるだろう。

おじさんとおじいさんの間から手を伸ばしマークカードとペグシルを取る。ただ当たることを願い、塗りつぶす。ここでのマークミスは致命的だ。受検のときよりも真剣に塗る。

塗り終えたら、自動発売機へと歩を進める。願いを込め17番の発売機へと行き、お金とマークカードを入れる。こっちはこんだけ思いを込めたんだから、そっちもちゃんと思いを込めて印字してくれよ。

出てきた馬券を握りしめ、エスカレーターを下る。リアルタイムでレースを見たいが、過去の自分の不手際により友人との遊ぶ予定が入ってしまっているため断念する。せめて帰ってからの楽しみとして取っておくため、ネットニュースとTwitterは開かない。

 待ち合わせ時間10分前、間に合うかギリギリのライン。

エスカレーターで1階に着くと、バインダーを持った女性が目の前に立ち塞がった。

気づけば僕はアンケートに答えていた。空いたスペースへの誘導とアンケート用紙の挟まったバインダーを渡す手際があまりにも良すぎた。きっとただ者じゃない。夜の街で居酒屋のキャッチとして長年の修行を積んだ者の身のこなしだった。

決してQUOカードに釣られたわけじゃない。本当に。まじで。

 無事アンケートに答え終わり、めちゃくちゃかっこいいQUOカードを報酬として受け取り、ウインズを後にする。

時刻は待ち合わせ時間を8分過ぎていた。非常にまずい。この前遊んだときも、遅刻で怒られたばっかりなのに。とりあえず連絡を入れる。

「すいません、いつも通り遅れてます」

即既読。

「あー、なんか喉渇いたな」

即返信。

ははぁん……なるほど。これは「飲み物を買ってきたら許してやるよ」っていうフリだな。僕は迷わずコンビニへと入りお茶を購入し、電車に乗る。

電車に揺られながら遊ぶ約束をしたことを後悔する。帰りたい。今すぐ帰って競馬番組を見ながらレースまでわくわくしたい。完全に過去の自分の判断ミスだ。

 駅に到着し、小走りで待ち合わせ場所へと向かう。ここで悠々とイヤホンをしながら歩いていこうものなら大バッシングを受ける。いかに頑張ったけど、間に合いませんでした感を出せるかが重要だ。

待ち合わせ場所着。友人を探す。発見。

「おまたせしました」
友人の反応に期待を込め、おしゃれなカフェのマスターよろしくお茶を差し出しながら登場する。

「え、お、あ、ありがとう」
そういってお茶を受け取る友人。

いや、おい。

ちゃんとフリに答えたんだから、もっと反応せんかい!

なにを普通に受け取ってくれとんじゃい!!

お前、絶対飲み会とかで後輩に「なんか一発芸してよ~」みたいなつまらん無茶振りをして、いざ後輩がやったら「それでそれでぇ?」みたいなクソみたいな合いの手しかいれないタイプだろ!!!

なんて言葉は遅れた手前飲み込む。
もしかしたら「いや、おい」くらいは言ったかもしれない。

 うっかりレース結果を見ないよう気をつけながら遊び飲み帰った。行く前は約束したことを悔いていたが、行ってみればそれなりに楽しい。ただ「それなりに」の範疇を出ない。

次の日のこととか、各々の現状とか、シンプルに体力とか。色んなことが邪魔をして、昔みたいに100楽しかった、で帰れない。今後もきっとそうなんだろうなぁとか思うと少し気持ちが暗くなる。

だからお酒は苦手だ。日々目を背けているネガチブがここぞとばかりに顔を出す。ああうるさい。実際の僕より饒舌な脳内の俺。

 そんな自分と戦いながら家に着く。手を洗い、すぐさまタブレットでYouTubeを開き「日本ダービー」と検索する。

なんとかここまでレース結果を見ずにたどり着いた。完璧だ。

検索結果が出ると同時に公式が挙げた動画を再生する。その動画のタイトルに優勝馬の名前が載ってしまうため、動画名をしっかりと読んでしまった瞬間ゲームオーバーだ。我ながら素晴らしい反射神経。

最外枠の馬がゲート入りし、係員が離れた瞬間。

全馬同時にスタート。


と同時につんのめる17番。落ちる騎手。


僕の夢は開始一秒で散った。そんな一日。

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