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奇をてらった男

奇を衒(てら)う。定義としては、「わざと変わった事をして、他人の気を引きつけようとする様」である。

私は、最近、この奇を衒う風習があまり好きではない。
が、そこかしこで見かけるから、考え込むのである。

例えば、NISSINカップヌードルのCM。
誤解の無いように言っておくと、私はNISSINのカップヌードルは大好きである。
がしかし、このCMが好きではないのだ。

藤岡弘、がロック調の訳の分からない歌を熱唱し、最後に雄叫びをあげ、CMは終わる、、、。まるで分からない。

確かに、過払金請求の弁護士事務所CMの様に、情報しか詰まっていないCMは味気もないし、知らない人がいないであろうカップヌードルだから出来る遊び心なのだろう。
既に情報を伝える必要はなく、インパクトのみを与えればいいのだ。

しかし、カップヌードルがない国から来た外人さんがあのCMを見たら、「何のCM?」と思うのは間違いない。

そして、その奇を衒ったシュール風潮は、若者の中に顕著に散見される。
ようは、掴み所を見せてはいけないゲームか何かなのだ。
菅田将暉くらい「この人、不思議だわあ」と掴み所の無さを表現しないといけないこのゲーム。
とても面倒くさい。

先日、いつものように行きつけの飲み屋で飲んでると、隣りに30代と思しき青年が2人、腰をかけた。
すると私の真隣の青年がおもむろに話しかけてくる。「大きいですね。なんかスポーツされてたんですか?」と聞いてくる。
「ええ、昔はバスケやってましたね」と答える。
すると、「で、今はプロレスをやってらっしゃる?」と真顔でスッと放り込んでくる。
その青年の隣りの友人が「キャッキャ」と笑う。
いや、何も面白くはないぞ、、。
きっとその青年は奇を衒うキャラで、それを知ってる友人が「またこいつやってるよ」という事で「笑い」という図式なんだと思う。

いや、ちょっと待て。
お前達のお決まりはいい。しかし、俺は初見だ。
なので正確には、「体大きいですね、なんかスポーツやってるんですか?」→「昔バスケやってました」→「あー、そうなんですね、でも体格的にプロレスラーでも通りますよね?」ってくだりがあって初めて会話は成立する。
もっと言えば、「このお店よく来られるんですか?」と言ったアイスブレイク的な絡みから始めるのが正しい。

その青年、その後も何かとぶっ込んでくる。
「お名前なんて言うんですか?」
「〇〇です」と答える。
すると、「ところで、天龍さん、あ、いや〇〇さん」とかましてくる、で友人「ケタケタケタ」と笑う、、。
私は何も面白く無い。雑にいじられているだけだ。
きっと、この子達の小さな世界では、その青年が奇を衒った具合にシュールにボケる事で面白いヤツという事になっているのであろう。

私はただただ苦笑いなのだが、そこに前回「どうでもいい人間関係を作れる心のゆとり」で書いたアウトローくんがふらっと暖簾をくぐって私の横、私を挟んでその青年達とは真逆に、でんっと腰掛け「ビール!」とぶっきらぼうに注文した。

このアウトローくん、腕、首元にタトゥーごりごり入っており、見た目がイカついのだ。
その青年達に一瞥をくれるも、アウトローにとってはなんでも無い存在らしく、常連の私に話しかけてくる。
その青年達も、アウトローのアウトローな出立ちに一瞬顔面引きつるも、私の前では敬語を使って大人しいそのアウトローをみて安堵したようだ。

そして、続けて、青年「ねえねえ、天龍さん、お友達ですか?」とやや酔いが回ってきたのか頬を赤くし、私とアウトローの会話に入ってくる。「
「お友達、エミネムさんですか?」とまたもや放り込むも、アウトローは無反応。
それに反して、その青年隣の友人は流石に今度は大笑いは憚られているようだ。「
このアウトロー、舐めて大丈夫な人かな?」と半笑いで様子を伺う。

奇衒い青年は、その後も舌鋒鋭い。
「天龍さんといい、エミネムさんといい、個性豊かな店ですね」と続けて放り込んでくる。

別に愛嬌を出して笑顔を見せながら、とかではなく、なんというか往年の松っちゃんが半笑いで放り込んでくるような感じ。人を食った感じ、だろうか。
まあ、「オレ、いつもこんな感じなんで」という奇を衒う人特有のとぼけた感じである。
彼にとってはなんでもない場末の飲み屋。もう来る事もないだろうから自由だ。
きっと、この飲み屋を後にした後、友人に「お前ほんと誰かれ構わずいくよな」→「え、そう?オレいつもこんな感じだけど」という武勇伝作りなのだろう、、。

がしかし、この日は違った。

「天龍さんとエミネムさんはどんなご関係なんですか?」とその青年が三度目の「エミネム」を放り込んだ時、アウトローがふらぁと立ち上がり、その青年の方に歩いて行く。足取りを見ると、多分三軒目くらいだろう、、。
そして、おもむろにその青年の後ろ髪を掴むと、そのままカウターに頭を叩きつけ、髪を掴みながら、「お前だれだ?オレはエミネムじゃねえし、この人は天龍でもねえよな?俺の先輩だぞ。謝れ」と凄みだす、、。
青年、半笑いの顔がどんどん引き攣り始めるし、隣の友人はもっと引きつっている。
私も店主も、周りの客も唖然としていると、「オイ、謝れって言ってんの聞こえなかったのか?」とアウトローは畳み掛ける。
アウトローの歳の頃が自分と同じと踏んだその青年は、となりの友達の手前もあるのか「ごめんな」と苦し紛れにタメ語言うも、もう一発、カウンターにおでこが叩きつけられる、、。「ごめんじゃねえだろ?」とアウトロー。
すると、「すいませんでした」と青年が涙目になる。
「お前らガキが、一見で入ってきて舐めてくんのが一番腹立つんだよ、オラぁ。分かってんのか?」と攻めるアウトロー。
「はい、勝手なあだ名をつけて誠に申し訳ありませんでした、失礼しました」と青年。

私は、「(礼儀正しい会話)出来るんかい!」と内心、今日一で激しく突っ込んだ。

結局、その奇衒い青年と友人はいそいそと会計を済ませ、逃げるように店を出て行った。
アウトローは「マスター、〇〇さん(私)、ごめんね」と千円札を置いて店を出ていった。
ビール二杯にお通しで千円では足りてなかった。
がしかし、「毒には毒だな、、」と思う一コマであった。

中途半端に人を小馬鹿にしたように奇を衒っていると、こういう事になるのでほどほどに、、という話。
そして、暴力は反対だし、菅田将暉、松ちゃんはもっと上手いし決してこんな雑なことはしない、という話。

おわり

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