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短編「何も気にならなくなる薬」その101

文章を書くことは精神が落ち着く。おそらくは普段人には話さないこと、どうでもいいことなどを書き起こせるからだ。
しかし、文章は形に残る。
最低限の配慮は必要だ。
本当にただ日記を書きたいだけなら自分で紙のノートを用意して書けばいいだけの話。
もしかしたらだが、もしかしたらで、私の民間療法が誰かの特効薬になるかもしれない。
読んでいてバカバカしい何も気にならなくなる薬になるといい。

「初期設定」
「マースレニッツァ」
「精神病」
「彼氏」
「クリーンエネルギー」

今回も適当に単語をあげていく。
マースレニッツァ?
ロシアのお祭り、習慣だ。
バター祭ともいうらしい。
この時期にはブリヌイというパンケーキやクレープのようなものを食べるらしい。
これが太陽を模しているとして、冬の時期が明けるのを楽しみにする趣旨もあるのだとか。
世界情勢はどうであれ、こうしたお祭りや習慣を楽しむ気持ちが、どの国にもあることを忘れないようにしたい。
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「最近彼氏は元気?」
「彼、ノイローゼかもしれない」
「なんで?」
「なんでもマースレニッツァの準備ができないからだって」
「なにそれ?」
「ロシアの習慣みたいなものかな。なんでもバターが高いからって」
「なんでバター?」
「クレープみたいのを食べる習慣なんだって、あとはその時期には肉が食べられないとか。君とは一緒に食事を楽しめないって言われちゃって」
「ふーん、国際結婚は大変ね」
「代わりにオリーブオイルを提案してみたんだけど、やっぱり食べ物って匂いが肝心ね。全然違う」
「どうにか考え方変えられないの?」
「私も最初はそう思ったけどその国の習慣って初期設定みたいなものじゃない?」
「どういうこと?」
「なんていうかな価値観、これは生まれた時や周りの人によって決まるでしょ。それはもう変えられないと思うのよ」
「そうかな?でも、子供の頃食べられなかった物が食べられるようになるでしょ、ピーマンとか」
「確かにそうかもしれないけど」
「いっそのこと生まれ変わらせれば?」
「生まれ変わらせる?」
「そう、昔の技術が新しくなって、今はクリーンエネルギーだとかなんとか言ってるでしょ。
古いものは新しくなるんだから、とかなんとか言って」
「ちょっとそれは無責任じゃない?」
「鬱々としているよりかはいいと思うけどな」
「習慣ってまるで精神病みたいね。そうでなくちゃいけないと思いこんじゃうと身動きが取れなくなっちゃうんだから」
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「あれから彼はどう?」
「この間は話聞いてくれてありがとう。なんだか別人みたいに元気」
「よかったじゃん、価値観生まれ変わったの?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど、このマースレニッツァの最後の日曜日にね、お互いの罪を許し合う日があってね。お互いに思っていたことを打ち明けあったの、そしたら彼もわかってくれて」
「よかったじゃない。それで何を謝ったの」
「バターの代わりにマーガリンを提案したこと」

美味しいご飯を食べます。