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短編『何も気にならなくなる薬』その198

用法用量を守って正しくお使いください。
説明書きには大きく記されている。
しかし、説明を読むような人間ならばこのようなことにはならなかっただろう。
彼女が眠りについてから長い事時間がたった。
彼女の意識は戻らない。
いくら泣いても現状は変わらない。それでも家族の嘆きは止まらない。
「先生、どうにかしてください」
私は人生で初めて匙を投げたいと考えた。
この患者がこうして病院にきたのは何回目だろうか。
通院記録でみれば正確な数字がわかるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
「私は王子様を待っている」
彼女の手には再び、この文言を記した便箋が握られている。
「何が王子様だ。そんなもののために他人に迷惑をかける人間に理想の人など訪れる訳がないではないか」
吐き捨ててやりたい気持ちを抑えて、再び彼女の容態を戻すべく仕方なく施術をする。
「先生!」
彼女の頬は赤らみ、医者である私に抱きついた。
これは何度目だろうか。私は何度も断っているのに彼女はこうして私に医者と患者以上のものを求めてくる。
「もう、王子様のキスで目覚める薬は服用しないでください。そうなんども言っているでしょう」


美味しいご飯を食べます。