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短編『何も気にならなくなる薬』その212

・黒幕、キリン、仏教徒

見物客が集まりすぎたために黒い幕を張って人目を隠そうとしたのだろうが、結果的にキリンの首の長さをよりいっそう引き立てることになってしまった。
同じ体が長い生き物でも、ゾウは仏教徒に神聖化され、今でも生活の中に溶け込んでいる。
キリンもそういう扱いをされていれば、もっと大切に扱われたことだろう。
人間、人生は運だというが、動物もまた時の運が関わってくるだろう。
世の中の時勢によって、必要とされるかどうかで種の存続が大きく変わってくる。
クジラもまたそうした働きによって乱獲されないように保護をされ、またペンギンも不必要に狩られることもなくなった。
それこそネコやイヌは愛玩動物としての地位を確立したし、鶏、牛、豚などの家畜は生活に欠かせない存在になっている。
それが果たしてその生物たちにとって最善かどうかはともかく、種の存続だけ考えれば運が良かったと言える。

いまさらキリンを繁殖して食べようとは思わないだろうし、宗教的な対立をしてまでゾウを食べようとは思わないだろう。
そもそも現段階で養殖されていないということは、単純に美味しくないことが既にわかっている。

ところでなぜ黒い幕でキリンを遮ったのか理由を聞いてみると、
だだ一言演出だと言われた。

美味しいご飯を食べます。