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短編『何も気にならなくなる薬』その88

給食当番

情け

女房言葉


今日の献立は
-おかかのおにぎり
おかずは
こうこに青物のおひたし-

普通に使っていそうな言葉が女房言葉。頭に「お」がついたりするものは大体がそう。

「なぁ、頼むよ、プリン譲ってくれ」
「いやよ、私も食べたいんだから」
「じゃあ、ほら、今度ミルメークでたらあげるからさ」
「いつ出るかわからないじゃない」
「じゃあ、給食当番の時に好きなおかず大盛りにするから頼む! 情けをかけてくれ」
「プリンで情けって、わかったわよ。その代わり私の好きなもの無条件でよこしなさいよ」
……
「なんてこと給食のときに言ってたよなぁ」
「うわー、懐かしいわね。あの頃から二人はイチャイチャしてたわよね」
「好きなものを無条件でって、その人を旦那さんにしちゃうんだから、プリン一つでこんなことになるなんてね」
「羨ましいわ、私も誰かプリンもらってくれないかしら」
……
「頼むよ、情けをかけてくれ、本当に魔が差しただけなんだ。反省している。もうしないから」
「本当に?」
「キャバクラとかコンカフェとか、ガールズバーとかそういうのも行かない。だから、頼むよ」
「なにコンカフェって」
「えっ?」
「コンカフェって何よ」
「いや、コンセプトカフェの略で」
「そうじゃなくて、どんなコンセプトのに行ってるのよ」
「え、あ、あの、くノ一」
「くのいち?」
「はい、殿様になってくノ一に下知を下す」
「へぇ、あなたが殿様になって」
「あの、そういうのにも行かないので、本当に許してください」
「どういう命令をするの」
「ぇ?」
「だから、どんな命令をしてるの」
「あの、珍しい西洋のお菓子をもってまいれ」
「まいれ?」
「いや、もう、ほんとに参りました。反省してます。勘弁してください」
「それで、何を持ってくるのよ」
「あの、プリンを」
「プリンを?」
「食べさせて頂く」
「食べさせて頂く?」
「いえ、もう、今後は自分で食べます」
「他には」
「他?」
「アンタの財布のなか見たのよ。他にも行ってるでしょ」
「あっ、はい、実は……」
「じゃあいいわよ、私もコンセプトを変えるから」
「コンセプトを変えるといいますと」
「今まではあなたの好きにさせていたしおらしい女性でいたけどね、今度から尻に敷くから。まぁ、もういいわよ、本当にやらないなら許してあげる。ご飯にしましょう」
「本当に申し訳ありませんでした」
「はい、晩御飯」
「えっと、これは」
「見ればわかるでしょ、今日の献立は……」

……
「奥さんのほう、おかんむりらしいわよ」
「どういう経緯?」
「なんでも今回はプリンじゃなくて、不倫だって」
「なにそれ、ダジャレ?でも人生ってプリンみたいだね」
「どうして」
「だってそうじゃない? 甘いとこもあれば苦いとこもある」


美味しいご飯を食べます。