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短編『何も気にならなくなる薬』26

酒の席、会話の中で昔話になることがある。
子供の頃どうだったか、学生の頃はどうだったか。
前の職場はどうだったか。
まさかとは思うが、全部が全部、大手を振って語れるような人生ではあるまい。
そうであればこんなところで飲んじゃいない。
うだつがあがらないからこうして集って誰かを吊るし上げて笑い話にしているのではないか。
Aさん(仮)の話で持ち切りになるが、そのAさんの枠に、自分が入ることだってあり得るではないか。
その点でいえば、仲間うちの呑みというのは相手を選ぶ。
目の前で親しくしている人の悪口を聞かされる身にもなれというのである。
とはいえ、そうした会話がないとまともに仲良くなれない人が殆どだ。
目の前の酒とつまみによって、迎合している本当に私はずるい人間だ。
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世の中には色んな人がいるが、
なかで常に情緒が揺れ動いている人がいる。
私はこの人を海のようだとさえ思う。
波を打たない日はない。
比較的穏やかであれ常に揺れている。
そして、唐突に大きな波を起こす。
探せば周りにいるだろう。
なにせ殆どがそうなのだから。


電車が好きだそうだ。
彼はそれを得意げに語っていたが、その詳細は今回聞くことはできなかった。
この際だから、少しばかり関心を持つことにする。
人と話を合わせるために物事を知ろうとするのは疲れるが、
私自身がそれに興味を持つとなれば話は変わってくる。
人に好意を寄せるのは本人次第だ。
電車の写真を撮ってみることに挑戦しようと思う。

美味しいご飯を食べます。