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別離もまた誰かと別れなければならない

花には目がある

通過していく列車の跡に咲き誇り

レールの間いっぱいを埋め尽くして

ただ別れだけを眼差している

恋人に送った花束にも

死者の棺に手向けた花々にも

見るための宵が宿り

真夜中への秘められた期待が

朝露に濡れていた花弁を忘れさせる

見えていなかったのは出会いに潜む

あの優しさに似た肌触りだ

失われていくことへの恐怖におののいて

一番最初の残酷さに目を瞑り

優しさに似たものの正体が

終わりからの一瞥であったことに

気づけなかったことが別れの種だったのだ

目に傷をつける乾きを求め

レールが途切れた先にある砂丘の頂へと

砂の雨を浴びながら登っていく

頂に立って、振り返ると

去っていく列車が花々を蹴散らして

消失点へと向かっていくのが見える

別離もまた誰かと別れなければならないのだ

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