見出し画像

第10回:『ジェイソン流お金の増やし方』から学ぶ資産運用術【前編】

「WHY JAPANESE PEOPLE!?」でおなじみの厚切りジェイソン氏。

お笑いタレントでありIT企業の取締役でもある彼は、投資信託を始めて約15年、2年前の2019年にFIRE(ファイア)を達成したといいます。

そのノウハウをまとめたのが『ジェイソン流お金の増やし方』(発売日:2021/11/12)という本です。

画像1

①FIREとは何か?

ちなみに、FIREというのは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字で、日本語に訳すと「経済的自立と早期リタイア」になります。

簡単に言えば、もう退職して給料を得なくても、生活費を補えるだけの貯蓄が確保できており、さらにその上で資産運用による収益、つまり働かなくても入ってくる不労所得(財産所得)だけで一生暮らしていけるという状態になることです。

FIREはアメリカ発祥のムーブメントですが、最近では日本でも若い世代を中心にFIREを志向する機運が高まっています。

特にコロナ禍によって、これまで当たり前にあった仕事を多くの人が失うという現実を、直接的にせよ間接的にせよ体験したことによって、リスクヘッジのためにも投資による資産形成をしていかなければと考える人が増えつつあります。

ただ、労働は生きがいにも直結する人生の重要な要素の一つでもあります。だから、働くことそのものを止めるために経済的自立を目指すというよりも、経済的自立を達成することで仕事を副業化することを目指そうと考える人も少なくありません。これを「サイドFIRE」といいます。

資産運用による収益を得ながら仕事は続ける。ただし、それはあくまでも自分の人生の充実のために、自分の特技や能力を活かして、いわば趣味として続けるだけです。生活するお金を得るための労働ではない。だから、「どこで」「どういう」働き方をするかということは自分で自由に選択する。このようなライフスタイルが「サイドFIRE」です。

厚切りジェイソン氏のFIREもサイドFIREです。では、彼はどのようにこの経済的自由を手に入れたのでしょうか?

②幸福度のピークは年収800万円

その前に、人はどのくらいのお金があれば幸福なのかを考えてみたいと思います。実はこれにはすでに答えが出ています。

私たちは「お金があればあるほど幸せの度合いも高くなる」と思いがちです。たしかに、衣食住が一定の生活水準を維持できるようになるまでは、収入が増えれば増えるほど幸福度は増していきます。しかし、その一定水準を境に、実は幸福度はほぼ変わらなくなるのです。

では、その境となる「一定水準」とは具体的にどのくらいの年収なのでしょうか? このことを明らかにしたのがノーベル経済学賞(2002年)を受賞したアメリカ・プリンストン大学名誉教授のダニエル・カーネマン氏らの研究です。

カーネマン氏らは、2008~2009年にアメリカで45万人を対象に年収と幸福度の関係を分析しました。その結果、年収800万円を超えると幸福度がほぼ変わらなくなることを明らかにしたのです。「幸福度のピークは年収800万円説」として知られます。

このように、年収800万円を超えるとだいたい満足のいく生活を送ることができるわけですが、この年間800万円が継続的に不労所得で入ってきたとしたら、その人はずっと幸福であることが約束されることになります。

では、年収800万円が不労所得で入ってくるためには、どのくらいの資産が必要なのでしょうか?

1998年にアメリカのトリニティ大学の教授3人が導き出した「トリニティ・スタディ」という研究があります。これは「どの程度の割合・金額を取り崩しながら資産を運用すると資産の寿命を最も長らえることができるのか?」ということを研究したものです。この研究結果によると、資産運用をしながら年4%の取り崩し率で資産を取り崩していくと、資産は25年以上長持ちすることが明らかにされました。

この理論をもとに考えると、年間4%を取り崩して800万円になる資産というのは、

2億円です

「無理無理!! 2億円あればこの先ずっと幸せに暮らしていけると言われたところで何の救いにも希望にもならないし、それどころか絶望が確信に変わるだけでしかないわ!!」と思われる方がほとんどでしょう。

しかし、ジェイソン氏はアインシュタインの次の言葉を引用して、決して不可能な到達地点ではないと説明します。その言葉とは、

「人類最高の発明は複利である」

③複利を制する者は人生を制する

金利には「単利式」「複利式」の2種類の計算方法があります。

「単利」とは元本に対してのみ毎年同額の利子をつける計算方法です。これに対して、「複利」とは元利(元本と利息)に対して利子をつける計算する方法です。

単利の場合、元本に対してのみ利子がつくので、毎年定額分の利子がつきます。

たとえば、元本100万円を年利10%で運用した場合、毎年元本の10%にあたる10万円の利子がついていき、10年後には100万円の利子がついて、元本と合わせて200万円になります。

複利の場合、元本と前年の利息を足した金額に対して利子がつくので、資産が雪だるま式に増えていきます。

再び元本100万円を年利10%で運用した場合で考えると、1年目は10万円の利子がついて110万円、2年目は110万円に10%の利子(11万円)がついて121万円になります。というようにして計算していくと、以下の表のようになります。

複利

なお、複利と単利の求め方は、それぞれ以下のような計算式で求められます。同じ利率であっても、長期になればなるほどその差は大きなものになるのです。

画像2

後述するインデックス投資の年率平均利回りは4〜6%程度が目安になります。仮に1,000万円を年利5%で30年間運用すれば、30年後には4,300万円になります。ほったらかしにしているだけで、3,300万円もの利益が得られるわけです。

このように、人類最高の発明である複利の力ゆっくりと増やしていけば、2億円とまではいかないまでも、ある程度の経済的自由を手に入れることは可能なのです。

④保守的で堅実な投資とは?

厚切りジェイソン氏は自分のことを「保守的で堅実な投資家」であると言います。「保守的で堅実」とはどういうことをいうのかというと、自分の資産をゆっくり、少しずつ増やしていく方法を取るということです。

多くの人は短期間ですぐに結果を出せるような方法に飛びつきがちですが、そういう気持ちこそが投資における大敵です。

投資というのは「長期・積立・分散」が王道のセオリーです。

投資の神様と称されるウォーレン・バフェット氏も「誰もが早くお金持ちになろうとします。ゆっくりとお金持ちになるのはかなり簡単です。しかし、すぐにお金持ちになるのは簡単なことではありません。」と述べています。

では、保守的で堅実な投資、つまり、ゆっくりとお金持ちになる方法とはどのような方法なのかというと、それが「パッシブ運用」です。

「パッシブ運用」および「インデックス投資」についての詳しい説明は、過去の記事をご参考ください。簡単に述べておくと、「株価指数」に連動した投資をすることで株式市場の平均的なリターンを目指す運用方法のことです。

では、この「パッシブ運用」を成功させるためにはどうすればいいのかという話ですが、ジェイソン氏が示すのは次の3つのシンプルな手順です。

①支出を減らし、
②生活費3ヶ月分以外は投資に回し、
③買ったら待つ

まず「支出を減らす」についてですが、これは物を買ってはいけないということではありません。ちゃんと自分の支出を把握しましょうということです。

衝動買いやクセによる買い物、付き合いによる支出など、深く考えずにお金を使ってしまう人は、まずはそれを見直さなければいけません。スマホ料金などの固定費も格安スマホに切り替えてるなど、やれることはあるはずです。

当たり前の話ですが、投資には元手となる資金が必要です。ではその投資の元手とは何かというと、収入と支出の差分です。だからこそ支出を見直すことが第一歩なのです。

ジェイソン氏は節約術としては、

「自動販売機やコンビニでなるべくペットボトル飲料は買わない」
「必要がないならコンビニに行かない」
「交通手段はまず歩く」
「より安いスーパーで大量買い&割引買い」
「スペックが大して変わらないなら安い代替品で対応する」
「洋服は基本買わない or お下がり」
「飲み会には基本行かない」

などがあります。

このようにして、まずは支出を減らし、投資の元手となる資金を作ります。

では、次に、どれくらいの資金を投資に回せばよいのかというと、ジェイソン氏は、生活費の3ヶ月分だけ貯金として確保できたら、後はすべて投資に回せと豪快に言い切ります。

生活費の3ヶ月分というのは、たとえば失業したときや、コロナ期のように仕事ができなくなって給料が入らなくなってしまったときなどに、当座をしのげるお金がなければ、結果として保有している金融商品を売らなければならなくなってしまいます。それこそが最も避けなければいけない道です。これを避けるためにジェイソン氏が提案するのが、3ヶ月分の生活費は確保しておくということです。

けれども、それ以上のお金を銀行に預けていても何も得がないのです。

貯金というのも、いわば銀行への投資です。「預金」というのも、ある意味金融商品です。しかし、その「預金という金融商品」の年利は0.001%です。このような利回りの金融商品に投資しても、つまり銀行に預けておいても何の得もありません。

それに対して、先述したように、インデックス投資では安定的に年利4〜6%の成果が得られます。つまり、銀行預金の4000倍~6000倍の運用成果がほぼ約束されているわけです。

それならば、なぜ多くの人はこのインデックス投資を選ばずに、銀行預金として寝かせておくことを選択するのか。それは、その方が「安心」だという気持ちが根強いからです。

かつて、日本中がバブル経済に湧き、株価や不動産価格が高騰を続けていた時代の定期預金の年利は、なんと6%を上回っていました。年利6%とは、約12年でお金が倍になる水準です。

画像5

このような夢のような時代を通過してきた世代は、銀行にお金を預けておけば安心という価値観をいまだに捨てきれずにいます。一度思い込んだ価値観から脱却するのは簡単なことではないからです。

しかし、時代は変わりました。もはや銀行に必要以上のお金を預けることに何のメリットもないのです。そうであるにも関わらず、日本人はなぜまだ銀行に預金をしているのか? WHY JAPANESE PEOPLE!? とジェイソン氏は叫びます。

ジェイソン氏は米国で就職したときから投資を始めました。それは日本と違ってアメリカは医療費などに対する国からの公的補助、つまり福祉が手厚い国ではないからです。老後の資金も自分たちで何とかするのが当たり前という風潮の文化です。だから、給料の何%かは投資に回す人が大半です。

具体的に話をすると、アメリカには、雇用主が福利厚生の一部として提供する「確定拠出型年金(DC)」制度があります。

「確定拠出年金(DC)」制度とは、「企業や加入者個人が毎月一定額の確定した掛金を拠出(掛金を払い込んで積み立てること)し、加入者自身がその資産を運用し、運用の成果によって将来の年金受取額が決まる制度」です。簡単に言うと「資産運用によって老後資金を準備する仕組み」です。アメリカでは米国内国歳入法という税法の401条にある(k)項によって規定された制度であることから、通称「401(k)プラン」と呼ばれます。

「401(k)プラン」に加入した従業員は、株式や投資信託など複数の金融商品から自分の判断で選択し、自ら運用を行います。ただし、この制度を導入している企業は、従業員に対して運用に関する知識を向上させるよう配慮する義務を負います。そして、その運用成績に基づいて退職後に受け取る給付額が決定します。

掛け金は従業員の給料から天引きされます。加入は任意ですが、加入すると拠出額が所得から控除されることや、企業からも補助として従業員の拠出額に応じて一定割合の追加拠出を行ってくれる(マッチング拠出マッチング・プログラムといいます)ため、多くの従業員が加入しています。

これをモデルとして作られたのが「企業型DC」「個人型DC」(通称iDeCo)で、「日本版401k」とも呼ばれます。アメリカでは1980年に始まったのでかれこれ40年の歴史がありますが、日本では2001年から始まりました。

このように、福祉が手厚くないアメリカでは、自分たちで老後の資金をなんとかするという意識が根付いています。それに対して、日本は福祉が手厚い国です。だから、国が何とかしてくれるものと思いがちです。

しかし、コロナ禍でもわかったように、もはやそういう時代ではありません。国にももう余力がなくて必死なのです。だからこそNISAiDeCoといった税制優遇制度を設計して、一般国民に投資を推奨しているのです。

これは、もうこの先は国が面倒を見切れなくなるから、自分で勉強して投資して、老後の資金を蓄えてください、そのために投資の敷居を下げて資産形成ができる仕組みを作りますというメッセージなのです。だからこそ今始めなければいけないのです。

そして、最後が「買ったら売るな」です。

指数に連動したパッシブ運用というのは、買ったら何もせずに「待つ」という投資手法です。投資・購入した資産を長期に渡って保有(Buy and hold)し続けることで利益を積み重ねていくわけです。

以前、Twitterであるツイートが話題になりました。それは、フィデリティというアメリカの資産運用会社が、2003年~2013年に顧客のパフォーマンス調査を行ったところ、投資の成績が良かった人の属性の1位は「亡くなった人」で2位は「運用しているのを忘れている人」という結果が出たというものです。

実際にはこれは誤情報であったことが後から分かったのですが、でも、あながち間違いでもなかったのです。というのも、1位は「運用しているのを忘れている人」だったからです。

つまり、買ったら「何もしないで待つ」ことが一番なのです。

でも、それが一番難しいのも事実です。投資の神様バフェットの右腕であるチャーリー・マンガーも「待つことは、投資家にとって大きな助けになる、そして多くの人は待つことができない。」と述べています。

それでは、なぜ「待つ」ことがそれほど難しいのか。それは時として株価が暴落することがあるからです。

予想外の悪材料によって、株価が急落することを「ネガティブサプライズ」といいますが、直近30年ほどの間にも、ブラックマンデー(1987年)、日本バブル崩壊(1991年)、アジア通貨危機(1997年)、ITバブル崩壊(2001年)、リーマンショック(2008年)、コロナショック(2020年)など大規模な金融危機が何度も訪れました。

こうした思いがけ無い事態に直面したとき、多くの人がどこまで下落するかわからない恐怖に捕らわれて「狼狽売り」してしまいます。

しかし、これは歴史を知らないからそうなるのです。たとえ一時的に暴落しても数年したら再び回復してきたのです。数年待てば、結局また上がっていく。これは歴史が証明しています。

特に投資信託の場合は、「常に一定金額を、定期的」に購入するドル・コスト平均法という投資方法で積立投資を行うのが一般的です。購入金額を一定に保つことで、価格が高いときには購入量(口数)が減少し、価格が低いときには購入量(口数)が増加することになります。

つまり、株価が下落した時も我慢強く投資を続けられた人というのは、その後の価格上昇に転じたとき、より大きな利益を得ることができるわけです。


画像5

しかし、下がったときに売ってしまったらもう何も残りません。だから買ったら「売らないで待つ」ことが大事なのです。

(後編につづく)

【その他 参考記事】





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?