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鎮丸~妖狐乱舞~ ⑩

鎮丸はサロンのドアを開けた。

不安そうな表情の蓉子を前に、葉猫が霊査をしている。おそらく蓉子の後ろのモノを探っているのだろう。

鎮丸は蓉子の顔を見て驚いた。
夢に出て来た蛇使いの無表情な女そのものだったからである。

しかし、そんなことはおくびにも出さずに言った。「いらっしゃいませ。どうされました?」

葉猫がカルテを鎮丸に渡す。

「あぁ、疲れやすい。そして集中できない。自分が自分でない感覚がある…と。」

「では、うつ伏せでお願いします。」
鎮丸は音叉ヒーリングを始めた。

サークルを施しながら、葉猫とアイコンタクトを取る。この二人に言葉は必要ない。

(生き霊の件はもう言ったのか?)
(まだよ。相手の正体を見極めてから。)

鎮丸は、この子を操るものは、妖狐だと確信していた。ただ、蛇を使う謎だけが、依然として分からなかった。

だが、鎮丸にはこの件を解決できるという確信めいたものがあった。思い切って蓉子に伝えることにした。

「お嬢さん、貴方自身は気付いてないと思うけど、生き霊飛ばしちゃってるよ。このままじゃ、どんどん弱っていくばかりだ。」

「え?ストーカーの次は生き霊?私が飛ばしてるっていうの?誰にですか?元彼に?」
蓉子の顔が心なしか歪んだ。

「ええ、そうですよ。」
鎮丸が静かに答える。

すると蓉子は俄に激昂し、「何、言ってんのよ!このインチキ霊能師!!もう、こんなとこ、二度と来ないわ!」
捨て台詞を残すと、サロンから出て行ってしまった。

「あ、あのお客さん、お代!」
鎮丸が追いかけようとするが、彼女の若い足には追いつけなかった。

「全く、台無しね。どうして生き霊のこと伝えるのよ。」葉猫が咎めるように言う。

鎮丸はそれには答えずに、「社長、見たかい?あの子の眼。怒って叫んだ時に左の瞳が赤かった…気付いたか?」

「そういえば、ちょっと左の瞳が赤く見えたわね。それよりあの子、もうウチ来ないわよ。どうやって守るつもり?」

鎮丸は不審に思った。葉猫の実力は自分が一番よく知っている。その彼女があの気配に気付かなかったとは。

これはあの妖狐、飛んだ食わせ物だ。

「ちょっと外の空気、吸って来る。」

鎮丸が出ようとすると、サロンのドアがカチャリと勝手に開いた。

葉猫が怪訝な表情で見ていると、鎮丸は、
「近頃、よくあるんだわ。」と言った。

甲州街道沿いに出て、鎮丸は考えていた。
黒幕はあの妖狐で間違いない。不動明王は「術を思い出せ」と言った。おそらく今、挑んでも勝ち目はないだろう。

それにあの蛇。鎮丸は霊査した。蓉子が生まれた時から憑いている。なめら筋?もしかして…?霊査を続ける。確かに蓉子の実家はなめら筋の影響を受けているようだ。

カルテに書いてあった、祖母が拝み屋だったというのも納得が行く。蛇はさして問題ではないようだ。

だが、肝心の妖狐達の居場所が分からないのでは、どうしようもない。

その時、夢の中で聞いた女性の声が心の中に響いた。

「電脳世界。」

(to be continued)

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