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かみさまのくすり

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創作大賞2023、参加 漫画原作大賞に参加
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記事一覧

かみさまのくすり 1

かみさまのくすり 1

 それには、形があるようで無い。目に見える形をしているが、それと他のものとの間がどこであるか、はっきりとしていない。
 それは、闇が立ち上がったような黒い塊だ。手足のようなものがあり、ゆっくりと動く。どこへ向かうのか、何に向かっているのか、誰も知らない。顔のようなところに目のような穴が空いていて、ぽかりと白い。ざわざわと騒ぐ表皮は無数の細かな虫が蠢いているように落ち着きが無い。
 それを、人はマモ

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かみさまのくすり 2

かみさまのくすり 2

 とても眠れないと思っていたが、ミズキは眠りに落ちていたようだ。目を覚ますと、家は空っぽだった。布団をたたみ、顔を洗おうと立ち上がりかけた、その時。

 村長が息を切らせて家に飛び込んできた。全身で呼吸をしながら、こんなに寒いのに汗を流し、ミズキの肩を両手で包んだが、まるで縋ってきているようだった。

「ミズキ……お前の家族が、雪崩に巻き込まれた!」

「え……」

「今、村の者総出で探しているが

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かみさまのくすり 3

かみさまのくすり 3

 ヒナが指差す方向は、ひたすらに険しい山を越えて行かねばならなかった。山野深くの村で鍛えられていたとは言え、やはり長旅に足は悲鳴を上げ始める。

「お兄ちゃん、こっち」

 その度、ヒナが沢まで導いてくれた。冷たくて気持ちの良い渓流に足を浸すだけで心地良い。

「凄いなぁ、ヒナ。どうして分かるんだ?」
「ん? だって、聞こえるんだもん」
「聞こえるって?」
「あっちだよーって」

 まだ幼い妹の言

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かみさまのくすり 4

かみさまのくすり 4

 このマホロバの国で、ミズキは三月の時を過ごした。春に故郷を旅立ってから、初めて過ごす故郷以外の夏は、とてつもなく、暑い。山の涼しい風が懐かしい……。

 ミズキが何度も汗を拭うように、稽古に付き合ってくれたケイトも何だか顔色が悪かった。

「大丈夫? ケイト。何だか顔色が悪いけど……」

 ミズキは老薬師に教わった通りに脈を取り、舌を見て、目の乾きを確認した。

「ちょっと水気が足りないみたいだ

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かみさまのくすり 5

かみさまのくすり 5

 マホロバの国を出たミズキ達は、人里離れた山の道を選んで進んでいた。ミズキはヒナと二人で旅していた、ほんの数ヶ月前すら懐かしく感じる。

 城壁から離れて見えなくなった頃合いで、タモンが、

「これから、どうする。故郷には、帰れるのか?」

 と、尋ねてきた。確かに、帰ることは出来る。ただ、いつ死ぬか分からない恐怖と戦う、今までと同じ状態に戻ることになる。

「あの……僕達は元々、違う目的があって

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かみさまのくすり 6

かみさまのくすり 6

 マホロバの国を抜け出し、恐ろしい村の歓待から逃げ出し、森を進んでいった三人はフラフラと山道にさしかかっていた。人の歩んだ後がある道はどうしても歩く気になれず、ヒナが指し示す鬱蒼と茂る道無き道を歩き続け、心身共にくたびれ果てていた。

 とうとう、ミズキとタモンは野宿出来そうな大木の根元に座り込んでしまう。

「ごめんな、ヒナ……。今夜は、眠るだけでいいかい? お腹が空いたら、これをお食べ」

 

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かみさまのくすり 7

かみさまのくすり 7

 ミズキ達はヒナの熱が落ち着いたら二人交代でヒナを背負いながら進んだ。ミズキにはこの大地に引かれた人の定めた国境が分からない。タモンが大体の目測で山を一つ越えておこうと言うので、その通りに山越えを急いだ。

 それでも、天を焦がすほどの火の柱を見た。あの大きな門を破る為に、大量の爆薬を使っているのだろう。轟音と共に地鳴りのような振動が山々を震わせ、それを恐れた獣が一斉に逃げ出して行く。

 遠く、

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かみさまのくすり 8

かみさまのくすり 8

 ミズキは何とか近くにいたヒナを抱きしめ庇ったが不思議な事に水の中なのに息は苦しくない。ごぼごぼと吐き出した息が泡になって立ち上っていく。ふわふわと体が自然に揺れて、気がとくと真っ白な白い雲のようなものの上に立っていた。

 水の中にいた筈なのに、体が濡れていない。ヒナもタモンも不思議そうに着物の裾を摘まんでいる。

 ヒナの指差す先を見れば、誰かが泣いていた。見た目はミズキ達と同じくらいだろう。

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かみさまのくすり 9

かみさまのくすり 9

 更に数ヶ月経つとマモノはますますヒナに懐いた。ヒナが地上に戻ってしまうお留守番の日は寂しいらしく、シュンとしている。それから、黄泉の入り口の方を見つめてジッと待ち続けるので、大人しい。

「犬かよ」

 タモンが呆れた声で呟いてしまうくらい、忠実だ。その日、ヒナは地上から足を引きずりながら戻って来た。マモノもミズキもタモンも駆け寄ると、ちょっとだけ涙をにじませている。

「転んじゃった……」

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かみさまのくすり《後書きのようなもの》

かみさまのくすり《後書きのようなもの》

こんにちは、るーさんの乳母でございます。細々と小説を書き進めておりました、興味があれば読んで頂けると嬉しいです。

個人的に制作裏話とか好きなんで後書き書きますが、苦手な方はスルーして下さいねー。

※注意※

めちゃくちゃネタバレ含みます、ネタバレしたくない方は1〜9まで読んでからお越しくださいませね‼️ガッツリネタバレしますからね‼️

①思いついた時このお話、きっかけがありましたー。進撃の巨

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