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『KAMARI 〜侍ウェスタン〜』全話版

『KAMARI 侍ウェスタン』の全話をまとめたものです。一気に読みたい方へ&アルファポリスへのリンク実験も兼ねて。
なお、ヘッダーのイラストは、Atelier hanami さんのイラストです。「西部劇というか開拓時代をイメージしたイラスト」とのこと。ローズ・ジェライザのイメージっぽいので、使わせていただきました。

あらすじ
19世紀後半──ジェシー・ジェイムズが世界初の銀行強盗と列車強盗を成功させた時代の、荒ぶるアメリカ。新聞社に勤務する新人記者のローズ・ジェライザは、とある列車強盗の犯人に強く興味を持つ。
東洋系と疑われるその列車強盗は、かつて彼女の命を助けてくれた恩人に、風貌がよく似ていたのだ。もし、彼がアウトローの道を選択したとしたら、その責任の一端は自分自身にもある……ローズは渋る編集長を説得し、次の列車強盗が疑われる場所へ、取材に出かけるのだった。
果たして、彼女の前に出現した列車強盗KAMARIは、彼女の知る人物──神崎菊次郎であった。恩人と対峙するローズ、だが事件は意外な方向へ展開し……。

キャラクター紹介
■カマリ…読み【同じ】 謎の列車強盗。咸臨丸の太平洋横断の時期にアメリカにいた。
身長150センチ弱。身体能力は異常に高く、武器の操術や、火薬を使った火気の扱いに優れる。
左手人差指と中指を欠損、義指を装着。
一人称は「オレ」。
■ローズ・ジェライザ…読み【同じ】 フルネームはローズ・ウェザーランド・クラリッサ・ジェライザ。
182センチと長身、髪の色はブリュネット。ミズーリ州の裕福な牧場主の娘。
十歳の時に神崎菊次郎に命を助けられるが、誤解から菊次郎は家人から酷い仕打ちを受ける。
セブン・シスターズのひとつヴァッサー大学に進学、ジャーナリズムと東洋文化を学び、保守的な親の反対を押し切り、新聞社に就職する。
一人称は「アタシ」。
■オルブライト編集長…読み【同じ】 ローズが務める新聞社の編集長。金に細かくうるさ型だが、情報通。
ややカマっぽいところがある。
一人称は「ワシ」
■マクレーン・ギリアン…読み【同じ】 同じ列車でローズと乗り合わせた男。
軽佻浮薄なタイプだが、妙に鋭い洞察を見せる。
一人称は「ボク」
■車掌…読み【同じ】 長身で温厚そうな、リーアム・ニーソン風の外見。ギリアンに絡まれていたローズを助ける。
一人称は「ワタクシ」

『KAMARI 〜侍ウェスタン〜』


❶…草原・列車強盗【序章】

アメリカの草原・夕方
夕日を背に黒煙を上げ疾走する機関車。
鼻歌を歌う運転士。
副運転士に話しかける。
  運転士「フンフフフン〜♪
      オイ、今度の休暇、
      どうするつもりだ?」
 副運転士「酒に女も芸がないしな
      あんたはどうする?」
  運転士「そうさなぁ……
      今の時期ならマス釣りで
      のんび……ん?」

カーブを曲がり視界が開けると、レールの上に置かれた丸太や岩。
  運転士「な…なんだありゃあッ!」
 副運転士「脱線するぞ!」
慌ててブレーキレバーを思い切り引く運転士。
  運転士「くぅうううう……ラァ!」
火花を散らして軋む鉄輪。

ぶつかる直前でなんとか停車。
 副運転士「ふぅう〜……
      誰がこんな悪戯を!」
レールの脇の木影からズラッと姿を表す人間たち。50人以上。
手には拳銃やライフルを持ち、カウボーイ帽にスカーフで顔を隠す。黒人や、ネイティブアメリカンが数多く含まれている。
 副運転士「ヒィッ!」
  運転士「れ、列車強盗!?」
    男「ビンゴォ〜!」
 副運転士「誰だ!?」

パチパチ拍手をしながら、武装した連中の中から登場する小柄な男。
汚れた感じの羽織袴。
脚が悪いのか、杖をついている。
    男「手荒なことはしたくない、
      おとなしく輸送中の金塊と
      紙幣を出してもらおうか」
鍔広のカウボーイ帽子を取った男、二十代後半の東洋人。
小柄で総髪。
  運転士「……インディアン?」

いきなり杖で運転手をバシッと殴りつける東洋人。
  運転士「グワワァアア……」
  カマリ「俺の名は〝カマリ〟だ、
      先住民【インディアン】でも
      チャイニーズでもねぇ!」
殴られた耳から出血し、痛みで絶叫する運転士。(※ネイティブアメリカンの表記については、校閲の指示に従う)

カマリと名乗った男、左手を運転士の眼球の前につき出す。
人差し指と中指が欠損し、代わりに鉄製の義指が。
  カマリ「この指はオマエら
      白人に奪われたんだ」
  カマリ「代わりにアンタの眼ん玉を
      頂いてもいいんだぜぇ〜?
      ハンムラビ法典には従わんぞ」

副運転士、壁にかけた拳銃のホルスターにチラと視線を送る。
 副運転士「んの野郎ぉ〜ッ!」
カマリの部下に体当たりを食らわせ拳銃に手を伸ばす副運転士。
右手が銃に届きそうになった瞬間、革製のホルスターにカシッ!と突き刺さる十字手裏剣。
 副運転士「ヒィ……」

運転士に義指を突きつけたまま、背中越しに手裏剣を投げ終えたポーズのカマリ。
  カマリ「命をかけるほどの給料は
      もらっちゃいまい?
      まだやるかい」

続けざまにホルスターの周辺に、次々と突き刺さる5本の十字手裏剣。
 副運転士「うげげ!」
  カマリ「──どうやら俺を
      怒らせたようだな」
左腰のホルスター(注:当時のガンホルスターは右利きだと左腰に下げていた。ブラッド・ピットの映画『ジェシー・ジェイムズの暗殺』参照)から、拳銃を抜くカマリ。
冷酷な眼。
カメラが引いて列車の外観。
重なるように響く銃声。

❷…NY・新聞記者【起章】

ニューヨーク・朝
ビル街・オフィスの一室。
   字幕[──イースト・ニュースプレス社──]
広げた新聞紙面(内容は列車強盗)を、バンと叩く女性の手。
  ローズ「この列車強盗の件、
      取材させてください編集長!」
編集長室に響き渡るローズの声。

カメラが引き、アップにしたブリュネットの髪の女性。
眉間にシワを寄せて怒っている。
その勢いに押され気味の四十代中盤の男性編集長。
  編集長「ロ、ローズくん……
      そう上からガミガミ
      怒鳴らなくても……」
  ローズ「背が高いのは
      生まれつきですッ!
      それよりご検討を」

編集長の物言いに、カチンと来た様子の長身のローズ。
  編集長「そこら辺の話題は地方紙に
      任せておけばいいんじゃ…」
  ローズ「カマリ一味の列車強盗は
      もう4件目なんですよ!
      社会の敵【Public Enemy】に
      ペンの力で対抗しないと!」
  編集長「しかしだねぇ〜ローズくん
      貧乏な我が社にはミズーリの
      取材する余裕は……ねぇ」
  ローズ「取材は帰省を兼ねますから
      出張費は不要です」

ローズの申し出に、途端にニンマリとなる編集長。
  編集長「じゃあ交通費も自腹で?
      それならばOKだよキミ
      むしろ大歓迎~」
急に掌を返し、チケットにいそいそと署名し破り、ローズに手渡す編集長。
満面の笑み。対象的にローズは仏頂面。
  編集長「これで経理に2週間分の
      時間外手当をもらいたまえ」
  ローズ「では明日にでも出発します」

ローズのあまりに迅速な行動に、驚く編集長。
  編集長「そりゃまた用意が良いねぇ。
      しかしキミ…カマリ一味に
      ずいぶん固執してるな」
  ローズ「悪いですか?」
ツッケンドンなローズの態度に、気圧される編集長。
  編集長「いや……東洋人の
      列車強盗は珍しいし
      故郷での事件に興味を
      持つのは不思議じゃない」
  編集長「だが列車強盗はそれこそ
      ジェシー・ジェイムズ一味以来、
      ワイルドホッグ一味やら数多い。
      だが記事になる大物を追うなら
      やはりジェシー・ジェームズの
      ほうがネタになるんじゃ?」

ジェシー・ジェームズのイメージカットと、ナレーションを挿入。
    N『1873年7月、
      ジェシー・ジェームズは
      兄弟と仲間7人で
      シカゴ・ロックアイランド
      太平洋鉄道の列車を襲い、
      2000ドルを奪った』
    N『以降アメリカ各地で
      列車強盗や銀行強盗が
      頻出することになる───
      大強盗時代の幕開けである』

編集長の指摘に、ピクンと反応したローズ、振り返って思いつめた表情。なにかマズいことを言ったかと、ハッとする編集長。
  ローズ「もし……カマリが私の
      知っている人物なら……
      彼を列車強盗にしたのは
      ───自分なんです」
  編集長「ローズくん?」
ぎょっとする編集長。

無言で部屋を出ていこうとするローズ。
編集長、何かを思い出したように、
  編集長「ふむ……行くなら明後日、
      早朝6時の便がいいな」
  ローズ「え?」

怪訝そうな顔で振り返るローズ。
手帳をパラパラめくり、情報を確認している様子の編集長。
  編集長「極秘情報だがその便で
      現金輸送らしいんでな。
      可能性は高まるだろう?」
編集長の意外な切れ者ぶりと、配慮に感謝して、深々と頭を下げるローズ。
  ローズ「あ、ありがとうございます編集長!」

❸…発端・邂逅の日【承章】

汽車の中・早朝
揺られながら窓の外を見ているローズ。物憂げな表情。
窓ガラスに写ったローズの顔に重なる、少女時代のローズの顔。
回想シーンに入る

* * * * * * *

アメリカの草原。
地平線が見えそうなぐらい広く、潅木が生えている。
   字幕[1860年───アメリカ]
馬に乗る12歳ぐらいの少女。
育ちの良さそうな服装。

彼女を追いかける黒人の老従者ジュピター。
ジュピター「ローズお嬢様ぁ〜!
      もっとスピードを
      落としてくださいまし」
  ローズ「せっかくの遠出なのに、
      ギャロップ【速歩】はダメだ
      トロット【襲歩】だけとか
      つまんなぁ~いッ!」
ジュピター「お嬢様に何かあったら
      あっしが旦那様に
      叱られますから」

従者の態度に、不満顔のローズ。
だが、急に何か悪巧みを思いついた顔。
  ローズ「ところでワタシの画帳は
      持ってきてくれた?」
ジュピター「そうでしたかのう……
      言われた記憶はねぇが
      す…すいませんだ」
  ローズ「そう、今ならまだ
      家に取りに帰っても
      間に合うわよ!」

遠方の岩を指差すローズ。
  ローズ「あの岩の所で
      待っているから」
ジュピター「お嬢様を残して
      帰るのは……へぇ…はぁ、
      わかりましただよ」
不承不承、馬を反転させる従者。

その姿が小さくなるまで、ニコニコしながら見送くるローズ。
  ローズ「…………ヨシ」
ほくそ笑み、馬の腹をポンと蹴り、草原を勢い良く走る馬。
馬の疾走感に酔いしれるローズ。
  ローズ「私だってこれぐらい
      簡単なんだから…フフ」
楽しげに走るローズ。

乗馬を楽しむローズの姿と、南部の風景のモンタージュシーン挿入。
だが、走る馬の耳に飛び込むハチ。
大きな声でいななき、パニックで全力疾走し始める馬。
  ローズ「キャアアッ!」
馬の首にしがみつくローズ。
血走った目の馬、口からヨダレを垂らし、渓谷の縁を疾走。
  ローズ「助け…誰かァ
      助けてェええ~ッ!」

草むらで寝ていた男。叫び声に反応する。
  菊次郎「ん? なんじゃあ〜?」
遠方のローズに気づく、着物姿の男・菊次郎の後ろ姿。
  菊次郎「い…イカン、暴れ馬だ!」

岩に躓いて倒れるローズの馬。
振り落とされるローズ。
空中で彼女をキャッチする人影。
  ローズ「ヒッ……!」
  菊次郎「あらよっとぉ~」
抱きとめた菊次郎の存在に気づき、驚くローズの顔アップ。
必死な表情の菊次郎の顔アップ。

崖を転がり落ちる二人。
その先には急流が。
  ローズ「いやぁああ!」
  菊次郎「ぐぁああ!」
急流に落下する二人。
川の激流に飲み込まれ、川中の岩にガンガンぶつかる二人。
  菊次郎「う…ぐぅ……」
流される二人、フェイドアウト。

流れが穏やかになった川・遠景。
時間経過のコマ挿入(演出はお任せ)。
ローズを抱え、河から出る菊次郎。
草鞋が片方だけしかない。
  菊次郎「大丈夫か、お嬢さん?」
  ローズ「ウウッ! 足が……」

腫れ上がったローズの右スネ。
指で患部を触診する菊次郎。
  菊次郎「ここは……痛むか?」
  ローズ「あぃうッ!」
  菊次郎「うむ…脱臼とヒビだな……」

懐から大工道具のノミ入れのような、道具袋を取り出す菊次郎。
中にはクナイや棒手裏剣など、忍者道具がズラリと入っている。
20センチ近い針を取り出し、一気にローズの患部に突き刺す菊次郎。
  ローズ「キャア!」
  菊次郎「大丈夫だ、痛くないだろ?」
  ローズ「あ……ほんとだ」

菊次郎が針を抜くとピュッと飛び出す血。
だがローズの脚の腫れも少し引く。
  菊次郎「骨を戻すぞ。少し痛いが我慢しろ」
  ローズ「アウ…チッ!」
ゴキッという音をさせ、ローズの足首の脱臼を治す菊次郎。

一尺手拭い(忍者の覆面用)で、棒手裏剣を添え木にローズの患部を固定する菊次郎。
  菊次郎(ずいぶん流されたし
      馬もかなりの距離を
      走ったようだからなぁ……
      この娘もその内に骨折の
      発熱をするだろう───)
ローズを背中に背負う菊次郎。
方向を確かめ、歩き出す。

腰の印籠から丸薬を数粒取り出し、ローズに渡す菊次郎。
  ローズ「コレなぁに?」
  菊次郎「忍びの者が常備する、
      飢渇丸という非常食だ。
      蜂蜜にいろんな薬草が
      練り込んである」
  ローズ「シノビ…ノモノ?
      ……キャカトゥガン?」
  菊次郎「心配せんでも
      毒じゃないぞ」

自分も口に放り込む菊次郎に安心し、飢渇丸を口にするローズ。
  ローズ「ん…甘い…」
  菊次郎「ゆっくりなめろよ」
嬉しそうなローズの顔アップと、うなずく菊次郎の笑顔。

草原のロングカット。
誰もいない川沿いを、黙々と歩く菊次郎。
  ローズ「ねぇ…あなた先住民【インディアン?】」
  菊次郎「や、日本人【ジャパニーズ】だ」
  ローズ「ジャパ…? それどこ?」
  菊次郎「太平洋の向こう側にある
      とても小さな島国さ。
      オレの名は菊次郎、
      キクジロー・カンザキ、
      人を探してアメリカに密航してきた」
  ローズ「じゃあ不法移民?
      まぁいいわ、保安官には黙っておいてあげる
      あたしはローズ。
      ローズ・ジェライザ」

菊次郎の服に興味を持つローズ。
  ローズ「変な服…ジャパンでは
      男もスカートをはくの?
      スコットランド人みたい」
  菊次郎「スカートじゃないぞ、
      コレは袴じゃ〜ハハハ
      二股に分けれているぞ」

ローズの左足に、ツツーっと流れてくる血の筋。
驚くローズ。
  ローズ「ん…何? キクジロー
      あなたケガを?」
ローズを背負う菊次郎の左手アップ、どす黒く2倍の太さに腫れ上がる人差し指と中指。

足や肩からも数カ所、出血している菊次郎。
  菊次郎「心配せんでも痛みに耐える
      術は学んでおるから」
ニッコリ笑ってみせる菊次郎。
だが顔色は悪い。

草むらからジーっという謎の音。
咄嗟に棒手裏剣を放つ菊次郎。
  菊次郎「シュッ!」
  ローズ「な…に?」
棒手裏剣の突き刺さった先には、ガラガラヘビが頭が。
パタリと尻尾が倒れるガラガラヘビ。

菊次郎の技量に驚くローズ。
  ローズ「それ…そう使うんだ」
  菊次郎「マズイな…月明かりで
      馬の足跡が見えづらい上に
      草むらに毒蛇がいるか───」
  ローズ「ダメ…あたしも歩く……」

だが、熱で息遣いが苦しそうにハァハァとなるローズ。
  菊次郎「もう骨折の熱が出てきたか
      こりゃあ急がなんとなぁ……」
発熱で、頬が赤くなるローズ。
残っていた片方の草鞋を脱ぎ捨て、裸足で歩きだす菊次郎。
日が暮れて、広がる星空。
満月の月明かりを元に、暴走した馬の足跡を逆にたどっていく。
片足を引きずりながら、歩く菊次郎。足の裏からは血がにじむ。

* * * * * * *

地平線に昇る太陽。朝日をバックに、トボトボと歩く菊次郎。
足には着物を裂いて、包帯がわりに巻いているが、血が滲む。
うつろな目で前方を見ると、ジュピター他、数人が馬に乗ってローズを探している。
ローズに気づき、血相を変えて駆け寄ってくる牧童たち。
ジュピター「お嬢様ッ!」

菊次郎からローズを、剥ぎ取るように奪い取るジュピター。
その勢いで、よろよろと片膝をつく菊次郎。
ジュピター「良かっただよぉ〜
      もしものことが
      あったらオラァ……」
  牧童1「んのヤロウ〜お嬢様を
      誘拐しやがってッ!」
いきなり、菊次郎を殴り倒す牧童たち。力なく倒れる菊次郎。

熱で朦朧とし、苦しい息の下、薄目を開けるローズ。
牧童達に次々と蹴られる菊次郎。
  ローズ(やめ…て……その人は…)
だが言葉にならない。

菊次郎の腫れた左手を牧童、ブーツでガシっと踏みつける。
痛みで目を見開く菊次郎。
  菊次郎「う…がぁ……ああッ!」
  牧童2「妙な服を着やがって
      おまえチェロキー族か
      ショーニー族か!?」
ローズの目から溢れる涙。

集団で蹴られる菊次郎の姿に重なる、ローズのモノローグ。
  ローズ『命がけで私を助けてくれた恩人を───
      声も上げることもできず
      ただ傍観するしかなかった』
菊次郎、震える手で懐から取り出した白いピンポン玉大の丸薬を3つ、指の間に挟んでいる。
ゴロンと仰向けになった瞬間、牧童3人に同時に投げる。

顔に当たり、白い粉をまき散らし砕ける丸薬。
  牧童1「ウワッ! 眼が……」
菊次郎、牧童の馬に飛び乗り、しがみつくようにして走らせる。
  牧童2「チクショウ!」
拳銃を構えて、菊次郎を銃撃する牧童たち。

ローズを抱きしめ、オロオロするジュピター。
走り去る菊次郎の後ろ姿に、力なく手を伸ばそうとするローズ。
だが、気を失ったローズの視界が次第に暗くなる。
  ローズ『混濁する記憶の中、
      それが私が見た彼の
      最後の姿だった――』
菊次郎の消えた草原の風景と、現在のローズが見ている汽車の窓からの草原の風景と重なり、回想シーン終わり。

軋む汽車の機関部のカット。
窓から外を見ている、大人のローズに、薄くかぶる子供時代のローズ。
  ローズ(大学でジャーナリズムと
      東洋文化を学んだおかげで
      これが何かわかった―――)

バッグの中から、かつて自分の骨折の添え木にされた棒手裏剣を取り出すローズ。
  ローズ(カマリとは日本のスパイ
      〝忍者〟の別名だってこと。
      列車強盗の東洋人が
      もしキクジローなら──
      私はなんとしても彼に
      会わなければならない。
      たとえ……)
棒手裏剣をギュッ!っと握り締めるローズ。
  ローズ(たとえ殺されても!)

バッグから、小型拳銃のダブル・デリンジャーを取り出し、弾を装填。
スカートの裾をめくり、左太もものホルスターに入れるローズ。
菊次郎の棒手裏剣も、手慣れた感じで指の上でくるんと回し、右のブーツの紐部分に差し込む。
一連の動作に重なるモノローグ。
  ローズ(カマリ一味が次に
      襲うとしたらこの列車)
      今は編集長【ボス】の
      情報を信じるしかない)
思いつめたローズの顔アップ。

❹…襲撃・再会の刻【転章】

 ギリアン「ハァ〜イ! 美しいお嬢さん、
      こちらの席は空いてるかな?」
突然、ローズに声をかける三つ揃えにカンカン帽姿の男。
 ギリアン「ボクはマクレーン、
      マクレーン・ギリアン!
      他にも空いてる席はあるが
      どうせなら美人と相席して
      楽しみたいんでねぇ〜」
  ローズ「聞いてないのにアリガトウ
      でもアタシは一人で読書が
      好きなので……失礼」

つっけんどんなローズの態度も、笑顔を崩さないギリアン。
 ギリアン「確かにキミは知的な眼をしているが……
      ダブルデリンジャーを内腿に隠すほどには
      オテンバ娘だろぉ〜?」
ギリアンの言葉に、キッとなるローズ。
  ローズ「のぞき?
      趣味が悪いわねアナタ」
 ギリアン「のぞくつもりは
      なかったんだけどねぇ〜
      美味しそうな脚がチラリと
      目に飛び込んできてねぇ」
むっとした顔のローズ、警戒して本をたたむ。

ギリアンの肩を、背後からポンポンと叩く車掌。
   車掌「他のお客様に絡むのは
      おやめくださいますか?」
 ギリアン「おっとぉ車掌さん!
      別に絡んでいるんじゃないんだよぉ〜
      ボクはこの美しいお嬢さんと
      相席をお願いしたいだけで」
   車掌「そちらのお客様はその願い、
      先ほどお断りなされたはずでは?
      それに当列車の席はいくらも
      空いておりますので」
他の席にとっとと行け、という無言の圧力をかける車掌。
しょうがないと、オーバーアクションのギリアン。
 ギリアン「仕方ないなぁ〜」

内ポケットからスキットル(金属製のウィスキーボトル)を取り出し、飲みだすギリアン。
少し離れた席に腰掛け、まだローズの方に手を振っている。
   車掌「女性の一人旅はどうも
      ああいう輩が絡んできて
      不快な思いをしがちです
      お気をつけてください」

ローズのチケットを確認しながら、笑いかける車掌。
  ローズ「ああいうのはコソ泥か詐欺師って
      昔から相場が決まってますわ」
   車掌「最近は物騒ですがなぁに、
      平原が続くので列車強盗も
      出てきようがないです」
  ローズ「それはどうして?」
   車掌「ヤツらの手口はまず
      線路に置き石をして
      列車を止めますか……ら!?」
車掌の言葉にかぶるように、外で起きるドカンという爆発音。

驚いた車掌とローズ、窓に思わずかけよって外を見る。
列車の上にアーチを描くように、次々と飛んでは反対側に着弾する大型のロケット花火(龍勢)が飛び交う。
爆発音の連続にパニックになる、他の乗客。
  乗客1「ななな、なんだなんだ!?」
  乗客2「ば…爆弾か?」
ローズ、爆発音の方向ではなく、進行方向をハッと見る。

線路のはるか前方に、いきなり起きる爆音と閃光!
振動で揺れる客車。
  ローズ「まさか……線路を爆破!?」
   車掌「い…いかんッ!」
  運転士「ふんぬうう〜〜うッ!」
列車の運転士、慌ててブレーキレバーを引く。
火花を散らして、急停車する列車。

列車と並走するように、列車ドメを乗せた馬と、騎乗する馬2頭で疾走するカウボーイハットのカマリ。
  カマリ「うぉらああ!」
列車が止まると同時に、列車ドメをガツンとレール上に置く。
他の部下が次々に土嚢を置く。
  カマリ「ふぅ……クソ重かったぜぇ」

列車を取り囲むように拳銃を構え、遠くから取り囲む男たち。
  カマリ「見晴らしがいいからと
      油断したかもしれんが
      列車を止める方法なんて、
      いっくらでもあるってこった」
銃を空に向かってバンバンと威嚇発射するカマリ。
 乗客たち「キャァアアア!」
  カマリ「抵抗しなければ
      手荒なことはしない!
      殺しはオレの流儀じゃ
      ないんでねェ~」
その声に、動きが止まる中の客。

単身、杖をつきながら客車に乗り込んでくるカマリ。
  カマリ「はぁ〜いボス!
      車掌はこっちこっち」
車内から手招きするギリアン。
  ローズ「あなたは!?」
 ギリアン「うん、強盗団の一味さ」
ヘラヘラと笑うギリアン。

勢い良くドアを開け、カマリの前にバタバタと走ってやってくる車掌とローズ。
   車掌「なんだオマエは!」
  カマリ「オレの名はカマリ……この列車の現金を頂く」
   車掌「なんのことだ? 現金など───」
  カマリ「とぼけんでもけっこう。
      この電車で密かに現金輸送を
      行うのは知ってるんだ
      ないと言いはるなら乗客から
      有り金を寄付してもらうしかないんだが」
義指を車掌の顔面の直ぐ側に突き出して、決めポーズを取るカマリ。

睨み合う車掌。
高まる緊張感。
だが、諦めたように、フゥと息を吐き、頭を左右に振る車掌。
   車掌「───わかりました、
      車掌としては
      乗客の安全が優先です」

ポケットから笛を取り出す車掌。
   車掌「こういう時には運転手に
      車掌が笛を使ってですね……
      抵抗するなという合図を送る
      決まりがありますんで」
車掌、窓から顔を出し運転手に、ピッピーと2回ずつ合図を送る。

機関車の方から、返事の汽笛がピーと長く聞こえる。
コクンと頷いた車掌、カマリに軽く会釈。
   車掌「こちらへ……」
ローズの脇をすり抜けて、車掌とともに別の客車に移動しようとするカマリ。
  ローズ「キク…ジロー」

突然のローズの言葉に、警戒の色を浮かべるカマリ。
サッと腰の中に手をかける。
  カマリ「……誰だ、オマエ?」
  ローズ「十二年前あなたに助けられたローズです!
      ミズーリの草原で……」
ローズの顔をじっと見て、薄ら笑いを浮かべ、首をふるカマリ。
  カマリ「フン、知らんなぁ〜
      人助けなんてオレぁ
      やったこともないね」
  ローズ「いいえあの時、暴れ馬から
      振り落とされたアタシを
      命がけで助けてくれたのに」
      なのに今は社会の敵に
      なっているなんて……」
ローズの目に浮かぶ涙。

カマリの左手のアップ挿入。
  カマリ「おおかた絵本と現実を
      ゴッチャにしてるんじゃ
      ないかなお嬢さん?」
  ローズ「……アタシのせい?
      ウチの牧童がアナタの指を
      ダメにしてから───」

ローズの言葉を、拳銃を突き出して遮るカマリ。
  カマリ「何を勘違いしてるか
      知らんが…小娘のせいで
      オレの人生は変わらんさ。
      オレはオレの人生を選んだ
      ……誰のせいでもねぇさ」
皮肉な笑みを浮かべるカマリ。

カンパチ入れず否定するローズ。
  ローズ「アタシを命がけで
      守ってくれた人が
      変わるわけないもん!」
ローズの強い口調に、思わず気圧され、笑いが固まるカマリ。
  ローズ「……だから襲撃を中止して
      自首をしてお願いッ!」

突然、ガクンと揺れる列車。よろけるローズと車掌。
ローズ、つんのめってカマリに思わず抱きつく。
大柄なローズを両手で受け止め、重ね餅になって倒れるカマリ。
カマリが拳銃を取り落としたのを見て、咄嗟にそれを蹴る車掌。
   車掌「フン!」

列車の外の風景。
進行方向とは逆に走りだす列車に、驚く周囲を取り囲んこんでいたカマリの手下たち。
  手下1「なんだと?」
  手下2「逆方向に動き出した?」
慌てて列車に駆け寄るが、どんどん加速して追いつかない。
部下の一人、連結部に手をかけようと馬上から飛びつくが、ギリギリ届かず地面に激突。
  手下1「グワァアハッ!」

列車の中
床を滑る銃に飛びつき、カマリに向ける車掌。
   車掌「動くな!」
車掌の動きに、ピタっと動きが止まるカマリ。
   車掌「まさか列車が逆走とは
      思わなかったかな?」
  ローズ「車掌さん?」
   車掌「先ほどのあの笛、
      隙を見て逆走しろの
      合図だったんですよ」
  カマリ「チッ…油断したぜ。
      しかもこのデカ女が
      倒れてきやがるし」
 ローズ…「デカくて悪かったわね!」

両手を上げて立つカマリ。
   車掌「あれは銀行の大切な現金
      コソ泥に渡すわけには
      イカンのですよ───」
にこやかに微笑む車掌。
パンパンと轟く銃声2発。
銃口から上がる白煙。
  カマリ「むぐうう……」
両肩から出血するカマリ。
  ローズ「しゃ…車掌さん!?」
   車掌「このカネを先に狙っていたのは
      オレなんだからよぉ〜」
にこやかな顔のまま、言葉遣いが乱暴になる車掌。

客席に座っていた男たちが全員、いきなり立ち上がる。
一人がポケットから拳銃を取り出し、威嚇のためにぶっ放す。
  手下1「思わぬ邪魔が入って
      計画が狂いかけたが、
      かえって好都合だな」
   車掌「追手がないのを確認したらこいつには
      俺達ワイルドホッグ一味の罪を
      かぶって死んでもらおう…かッ!」

銃の台で頭を打たれる気絶するカマリとローズ。
  カマリ「グガッ……」
それを見て青ざめ、ホールドアップするギリアン。
 ギリアン「なんてこったい……天国から地獄だぜ」

❺…反撃・反転攻勢【終章】

●荷物室
放り込まれたカマリとローズ、ギリアンの三人。
目覚めるローズ。
  ローズ「う……うん」
  カマリ「気がついたか?」
ビクッと怯えた顔になるローズ。
身体を固くする。
  ローズ「近寄らないでよ!」
  カマリ「えらい言われようだな
      仮にも命の恩人だろ?」
苦笑するカマリ。

その言葉にハッとし、ボソボソと喋り出すローズ。
  ローズ「東洋人の列車強盗の
      噂を聞いたとき……
      信じたくなかった」
顔を上げ、カマリをジッと見つめ、訴えるローズ。
  ローズ「だから編集長に
      無理を言ってこの
      列車に乗ったのに」
  カマリ「あんた新聞記者なのか?」
  ローズ「まだ駆け出しで大した仕事は……
      でも人種差別とか反対する記事を」

ローズの言葉を、笑い声で遮るカマリ。
  カマリ「はん! それでこの国の
      何かが1インチでも
      変わったのかい?」
  ローズ「そ、それは……」
  カマリ「リンカーンが奴隷を開放してもまだ」
      この国には差別や格差は普通にある
      奴隷契約同然の年季奉公も抜け道として
      残ってるじゃないか、知らんはずないだろ?」
  ローズ「うう…くぅう……ううう」
カマリの冷た言い方に、反論できず唇を噛み、涙ぐむローズ。
ソッポを向くカマリ、小さくつぶやく。
  カマリ「やれやれ……
      予定外の行動されちゃ
      コッチの予定も大幅変更だ」

●列車の中
車掌に状況報告する、列車強盗の手下たち。
  手下1「カマリ一味の追手や伏兵は
      周囲にいないようですぜ。
      警備隊の動きもねぇし」
ニヤニヤと笑う車掌。
   車掌「内部情報を流す役目はこれで最後にして──
      金持ってトンズラするつもりだったんだが
      これで罪も被せられるとはラッキー……フフフ」
  手下2「これでもう一回だけ
      列車強盗ができる……
      ですねお頭?」

拳銃を部下に手渡す車掌。
   車掌「ではあのマヌケな二人を
      そろそろ始末してこい。
      念のための人質の役目も
      もう終わったしな」
  手下1「その前にお頭ぁ、
      背は高いがなかなか
      美人ですし……」
いやらしい笑いを浮かべる部下。

真意を読み取った車掌、無表情で答える。
   車掌「おまえの好きにしろ
      ただし声が外に漏れないようにな」
  手下1「女には猿轡をかましますんで」
   車掌「違う違う! オマエの声が…だ」
ドッと下卑た笑いが起こる車内。

●貨物室
後ろ手に縛られたカマリ、首や肩をクキクキと動かす。
  ローズ「何やってるの? 肩が痛い?」
  カマリ「フン!」
気合を入れると手首からグキッという大きな音が聞こる。

ガッチリ締めてあったはずのロープが緩み、右手をスポっと抜いてしまうカマリ。
  ローズ「な…なに?
      どうやってロープを?」
  カマリ「手首の関節を外して
      縄を緩める忍びの技さ」
ゴキゴキと音を立てて、手首の関節を自分ではめ直すカマリ。
驚きの表情で、頬を紅潮させるローズ。
  ローズ「知っています!
      忍び───日本【ジャパン】の
      スパイのことですね?」
 カマリ…「それも大学で習ったのか?」
苦笑するカマリ。

いきなりローズの前で袴の紐を解き、脱ぎ出すカマリ。
  ローズ「え…ちょっとぉ! 何を──」
思わず赤面するローズ。
脱ぐと出現する、忍者装束。
袴の紐を裂くと中から細いロープが。
  カマリ「こいつを取り上げないとは、抜けてるな」
手にした杖をブンと振ると、中から切っ先両刃造りの剣が飛び出す。

仕込杖の刃を、ローズに向けるカマリ。
  ローズ「え?」
  カマリ「動くな……よ!」
高まる緊張。
焦るローズの顔アップ。
振り下ろされる仕込杖。
  ローズ「きゃぁああッ!」

思わず目を閉じるローズ。
一振りでローズの戒めを切り落としてしまうカマリ。
  ローズ「ええ?」
驚くローズを尻目に、ギリアンの縄を切ると、パンパンとその頬を殴るカマリ。
  カマリ「起きろ、キザ男」
 ギリアン「いってぇ〜!」
  カマリ「オテンバ娘はおとなしく
      このバカとここで待ってな───」
 ローズ…「なんですってぇ?」

ムッとするローズを無視して、列車の窓ガラスをぶち破って、窓の外に飛び出すカマリ。
  ローズ「キクジロー!」
慌ててローズが体を乗り出し窓の外を見ると、サルのようにヒョイヒョイと客車の屋根に登るカマリの後ろ姿。
  ローズ「速い…し軽い!」
その身のこなしに、驚嘆するローズ。

意を決した表情のローズ、仁王立ち。
スカートの裾を、ブーツに隠した小型ナイフで、膝のあたりでザクザクと切って破き始めるローズ。
  ローズ「待ってろと言われて
      ハイそうですかと答える
      しおらしい女じゃ……」
突然の行動に、戸惑うギリアン。たさ、ナマ足にちょっと嬉しそう。
 ギリアン「ちょ…ちょいとお嬢さん、いった何を!?」
 ローズ…「ないの……よッ!」

窓枠から外に身を乗り出し、屋根によじ登ろうとするローズ。
  ローズ「ちょっとアンタ!
      ボォ〜としてないで
      踏み台になりなさいよ」
 ギリアン「は……はいいぃ〜!」
ローズの剣幕に押されたギリアン、四つん這い時なる。
ギリアンの頭を踏みつけにして、列車の天井によじ登るローズ。
 ギリアン「ムギュ〜」

屋根にはうように登ったローズ、顔を上げるとその遥か先、車掌達が陣取る車両の上に、ピョンピョンと飛んで進むカマリ。
 ローズ…「待ってなさいよキクジロー…
      産婆の顎を蹴飛ばしてから
      ずっとオテンバやってんだから
      年季が違うのよ!」
決意のローズ、アップで宣言。

●列車の上
屋根の上のカマリ。
忍者装束の隠しポケットから取り出した鉤縄を、進行方向左側の窓を突き破る形で投げつけるカマリ。
ガシャン! とガラスを突き破り飛び込む鉤縄の鈎。
  手下1「なんだぁ!?」

鉤縄を軽く引っ張って、窓枠にフックする手応えを感じたカマリ、
 カマリ…「───おしッ」
進行方向右側にジャンプし、窓を突き破り飛び込むカマリ。
鉤縄に気を取られていた列車強盗グループ、反対側から飛び込んだカマリに驚く。
  手下1「キサマぁ〜!」
  手下2「うわっぷ!」
指に挟んだ煙玉三個を、投げつけるカマリ。

煙玉の爆発音と閃光、白煙!
視界が遮られる強盗団。
  カマリ「ヌンッ!」
カマリ、仕込杖で一瞬にして一味の銃を持った右腕を切断!
  手下3「うがぁあ…っらったぁあ〜!」
手首から先がなくなった自分の手を見て、絶叫する強盗団の男。
  カマリ「ハァアッ!」
棒手裏剣を同時に5本投げつけるカマリ。
車掌の部下の手に次々と刺さる棒手裏剣。

一瞬の出来事に、呆然とする車掌。
  車掌「クッ!」
慌てて、カマリから奪った拳銃を構える車掌。
だが、投げられた棒手裏剣で、飛ばされる車掌の拳銃。
  カマリ「ッっしゃあああ!」
仕込杖で斬りかかるカマリ!
響く銃声。
驚いた顔のカマリのアップ。
薄ら笑いの車掌アップ。
硝煙が流れる銃口アップ。

カメラが引くと、ローズから奪ったダブルデリンジャーの銃を構える車掌と、膝を着くカマリのロング・ショット。
腹部に弾丸を受けたカマリ。
ガクッと膝をつく。
  カマリ「ぬが……ああ」
   車掌「この銃はどうも引き金が
      硬くてイカンなぁ〜」
薄ら笑いの車掌。
   車掌「おかげで狙いが外れたな」

ダブルデリンジャーを、ペロリと舐める車掌。
   車掌「だが隠し持つには
      確かに良い銃……
      アンタもそう思うだろ?」
  カマリ「同意……だな
      どうもオレは英雄に
      なれないタイプらしい」
   車掌「リンカーン大統領は
      死んで英雄になったが……
      人生は生きて楽しんでこそ
      英雄になる価値がある
      ───そう思わないか?」
  カマリ「悔しいが、これまた同意だ」
  車掌「では……逝け!」

デリンジャーの残りの一発を撃とうとする車掌!
その手の甲に、どこからか飛んできた棒手裏剣、真横から刺さる。
   車掌「なッ……」
カマリ、そのスキに左手の義指の人差し指にガッと噛み付く。
首を振ると指がスポっと抜ける。
  カマリ「ムンガァッ!
強く義指を噛むと中から発射された弾丸、車掌の右肩に命中!
   車掌「バカ…な……指に弾丸が?」

義指をペッと吐き出すカマリ。
  カマリ「日本製の仕込み筒さ〜。
      一発しか撃てないがな」
にやりと笑うカマリ、自分の義指の手を顔の横に持ってきて、車掌に見せつける。

車掌の手の甲に刺さった棒手裏剣を、慎重に引きぬくカマリ。
  カマリ「ありがとよ、お嬢ちゃん」
視線を窓の方にずらすと、窓の外でカマリのロープに掴まり、棒手裏剣を投げた姿勢のローズ。
  ローズ「おおいに感謝しなさい」
どや顔のローズ、アップで。

❻…逆転・大団円!【終章】

ローズを窓から抱きかかえて、車内にトンと下ろすカマリ。
顔には笑顔。
  カマリ「ムチャしやがって
      このオテンバ娘め……
      なんにも変わっちゃいねぇ」
  ローズ「三つ子の魂百までも……
      ってジャパンでも言うんでしょ?」
いたずらっぽく笑うローズ。

ローズに、車掌から抜いた棒手裏剣を渡すカマリ。
  カマリ「……いい腕だ。ずいぶんと稽古したのか?」
コクンとうなずくローズ。
  ローズ「これでアタシを救ってくれたんだもの」
      これを使いこなせればあなたに
      いつかまた会えるような気がしていて……」
庭の木に向かい、棒手裏剣を投げる稽古をする少女時代のローズの、回想カットを挿入。
樹の幹は、棒手裏剣を投げられ無数の穴が空き、ボロボロになった跡が大量に。

良い雰囲気のカマリとローズに対して、脇から口を挟む車掌。
皮肉な笑みを浮かべ、罵声を浴びせる。
   車掌「フフフ……列車強盗が
      何をナイト気取りしてる?
      オマエもじぶんとおなじ、
      薄汚い犯罪者だろうが!」
ローズの方にも罵声を浴びせる。
   車掌「そこの女! 新聞記者なのに
      列車強盗を見逃すのかな?
      裁判で証言してやるぜぇ〜」
車掌に毒づかれて、ハッと現実に戻るローズ。
  カマリ「良く動く口だ…な!」
カマリ、車掌の腹部に蹴りを入れ、黙らせる。

思い詰め、青ざめた表情のローズ、意を決したようにカマリに訴えかける。
  ローズ「──キクジローお願い、
      このまま自首して!」
  カマリ「ローズ……」

カマリにすがりついて、泣きながら訴えかけるローズ。
  ローズ「あなたは強盗はしても
      殺人は犯していない」
      たぶん何年か刑務所に
      行く事になるけれど……」
  カマリ「自首も刑務所もお断りだ」
ヘラヘラとした調子で言葉を遮り、ローズの真剣な願いを軽くかわしてしまうカマリ。
  ローズ「お願いキクジロー!」

涙ぐみカマリの背中にしがみつくローズ。
身長差もあり、奇妙なポーズになってしまう二人。
困った表情のカマリ。溜息をつきながら、
  カマリ「お嬢さんはこう
      言ってるんだが……
      オレはどうしたらいい?」
ローズの背後の人影に、声をかけるカマリ。
  ローズ「え?」

いつのまにか、そこにはギリアンが立っている。
ニヤニヤと笑みを浮かべるギリアン。OKポーズを指で作りながら、
 ギリアン「いいんじゃないか?
      刑務所の中もなかなか
      いい経験になるかもね〜
      ……なんならボクも
      いっしょに行こうか?」
 カマリ…「ぬかせ!
      男の同行人はいらん」
苦笑するカマリ。

頭をかきつつ、芝居がかったオーバーアクションになるギリアン。
 ギリアン「そういうわけにも
      いかないしなぁ〜
      ……うん、しょうがない、
      お嬢さんの涙を止めねば」
ギリアン、懐から紙片を取り出し、車掌に突きつける。

打って変わってキリッとした表情と態度のギリアン。
 ギリアン「ギリアン&カーク探偵社の
      マクレーン・ギリアンだ!」
   車掌「なっ!」
  ローズ「え?」
  カマリ「……」
ギョッとする車掌、ポカンとするローズ、無言のカマリ、三者三様の反応を、入れる。

政府の委任状のアップに被せて、冷静に話すギリアン。。
 ギリアン「連邦政府の要請により
      我が社は極秘裏に列車強盗の
      潜入調査を行なっていた───
      キサマの身柄は州政府に受け渡す
      弁護士は私選でも国選でも選べ」
 車掌……「まさか」
 ローズ…「えええ〜ッ!?」
口をポカンと開ける車掌。
目を丸くするローズ。
背を向けてクスクス笑い、肩が小刻みに震えるカマリ。

当時のアメリカの探偵社の位置づけを説明するナレーション挿入。ピンカートン探偵社と探偵のイメージカットに重ねて。
    N『リンカーン大統領暗殺計画を
      未然に防ぎ一躍有名人となった
      警備員のアラン・ピンカートンが、
      シカゴの弁護士エドワード・ラッカーと共に、
      北西警察事務所を設立したのが1850年代
      これが後にピンカートン探偵社となる』
    N『組織的な力が弱かったアメリカ司法省は
      ピンカートン探偵社を下請けとして利用し、
      最盛期には数百人規模の探偵を
      動員できるほどに探偵社は繁盛した
      これをまねて全米各地に私立探偵社が
      設立されたのである───』

力が抜け、その場にヘナヘナとへたり込むローズ。
  ローズ「そん…な……」
 ギリアン「列車強盗には常に
      内部から手引きをしている
      存在が疑われていた」
説明を始めるギリアン。
 ギリアン「だからウチの探偵社の
      メンバーを動員して
      ニセの強盗団を組織、
      内部呼応者が出るように
      この列車の情報ををわざと……」

説明するギリアンを無視して、へたりこんだローズの横にしゃがみこむカマリ。
  ローズ「キクジロー……」
  カマリ「あの時もキミは
      行動力がありすぎて
      周囲をヒヤヒヤさせた」
スッと手を差し出すカマリ。
  カマリ「だがそういう行動力、
      オレは嫌いじゃない」
 ギリアン「ボクも同意だよ〜」
軽い調子で横からチャチャを入れるギリアン。

まだ呆然とした表情のローズ。
  ローズ「あ…ああ……キクジ……
      やっぱりあなたは
      あたしのヒーローのままだわ」
ローズの耳元に、そっと囁くカマリ。
  カマリ「一ヶ月前に載った
      署名記事──市庁舎の
      不正入札の記事…な」
  ローズ「え?」
 カマリ…「細かい内部情報や背景まで
      よく調べてあっていい記事だったよ」

カマリの言葉に、ハッとなるローズ。
うれしさがこみ上げ、涙がにじむ。
  ローズ「読んで……くれたの?」
  カマリ「ローズ・ジェライザ……
      って名前を思い出してな
      まさかあのときの当人とは
      思わなかったがね」
にやりと笑うカマリ、自分の義指の手を顔の横に持ってきて、車掌に見せつけた時と同じポーズのカマリ。
だが、今度はうれしさが滲む表情。対称的表現
  ローズ「キクジロー!」

カマリに抱きつくローズ。
  ローズ「ゴメ…ゴメンナサイ
      あの時も今日もアタシ
      あなたの邪魔ばかり……」
  カマリ「そんなコトはないさローズ
      キミがあの時の棒手裏剣をずっと」
      持っていてくれたおかげでオレは
      助かったんだからな」
  ローズ「でも……またケガを」
  カマリ「もういいって」
  ローズ「でも…でも!」

なおも詫びを言おうとするローズに、そっと唇を重ねるカマリ。
驚きで言葉を失うローズ。
苦笑するギリアン、口笛を吹く。
 ギリアン「ヒュ〜♪」

離れる唇。
潤んだ目でカマリを見つめるローズ。
  ローズ「キクジロー……」
  カマリ「それより今回の事件、
      いい記事になるかな?」
ローズ、涙をグイッと袖で拭う。
  ローズ「もちろんッ!」
弾けるような笑顔のローズ(菊次郎と出会ったときの表情と重なる)のアップで物語は終わり。

■KAMARI/終わり■

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