見出し画像

質問箱037:漫画のセリフが多くなりがちです

※Twitterの質問箱に寄せられた質問を、別途アーカイブしておきます。また随時、加筆修正を加えていきます。

【質問】


【解答】

①文字量と難読性

漫画の読みやすさは、実は数種類の要素があるんですよね。
文字数の多さは確かに読みづらさの原因になりやすいのですが……。

実は今、仕事の都合で中津賢也先生の『黄門☆じごく変』を読み返しているのですが、昔読んだときの印象以上に、文字量が多いのです。でも、読みづらくはないんですよね。

中津先生も斉藤むねお先生も、小学館のある名編集者の薫陶を受けて、読みやすい表現の方法論を学んでいますので。

その方法については、ネーム講座や小説講義で解説しているので、ここでは述べませんが。
文字量が多くても読みやすく、文字量が少なくても読みにくい作品はあります。

②最短距離を最速

開陳できる技術で言えば、ひとつは「読者の目の動きを最小にする、文字と絵と擬音の配置」の意識です。

これは図解しないと分かりづらいですが、原稿をS字のラインでサラッと読めるのが、一般的に読みやすい原稿です。
それを逆手に取って、わざと読みづらい配置で、読者の印象に残す高等テクニックもあります。


若い作家を見ていると、そもそも吹き出しの位置や形状で、ベテラン作家たちが蓄積した貴重なノウハウが失われ、非常に読みづらい作品が、目に付きます。

③読者の読む順番

ちなみに、漫画を構成する各種要素で、読者の目を引き付ける力は、以下のような順番です。
人によって差があるので、あくまでも一般的なものです。

①フキダシ内のセリフ
②フキダシ外のセリフ
③擬音または漫符
④漫符または擬音
⑤手書き文字
⑥絵(効果線を含む)
⑦表情(表情の漫符も含む)または動き・仕草
⑧動き・仕草または表情(表情の漫符も含む)

こういうのを、自由に書くことを阻害する古臭いルールと考える人もいますが、そうではないです。
ちゃんと理由があり、試行錯誤の結果の結論ですから。
きちんと学んで、損はありません。

④情報の圧縮技術

もう一点、情報の圧縮が足りていない投稿者や新人も多いです。
絵は上手いのですが、あまり小説を読んでいないのか、言葉を圧縮することをせず、無駄に文章が長くなっていることです。

たとえば、あなたの質問文ですが。これをもっと圧縮すると、どうなるでしょうか? 例えば、こんな感じで。

■マンガの1ページや一コマに情報をたくさん入れようとしてセリフが多くなってしまいがちです。(PRマンガだと特に)読みやすさと情報を入れ込む量の塩梅はどのように調整したらよいでしょうか。。

改変→マンガのページやコマに情報を詰め込もうとしてセリフが多くなりがちです(特にPRマンガ)。読みやすさと情報量をどう調整したら良いでしょうか…。

92文字が69文字に圧縮できました。
これで75%圧縮です。
でも、文意は損なわれていませんよね?

⑤類語辞典の活用

もっと減らせます。たとえば、こんな感じで。
多くなりがちとか、過多という別の言葉に置き換えることで、圧縮はしやすくなります。
置き換えられる言葉がないか、類語辞典を手元においていると、便利です。

再改変→情報をページやコマに詰め込もうとしてセリフ過多気味です(特にPRマンガ)。読みやすさと情報量の調整のご教授を…。

これで56文字、60%に圧縮できました。
でも、文意は残っていますよね?

そもそもマンガについての質問ですから、「マンガの」とかも不要ですし、削除しても文意は通じます。
日本語は省略が効く言語です。

⑥最終的な圧縮形

さらに、「ページやコマ」も、不要といえば不要です。
なぜなら、ページやコマ以外にセリフを入れる場所は、漫画にはないのですから。

再改変→情報を詰め込もうとしてセリフ過多気味です(特にPRマンガ)。読みやすさと情報量の関係とは?

これで45文字、49%と半分以下に圧縮できました。
このように文字量は最低でも3分の2に減らせる、上手くすれば半分に減らせます。

漫画家の文章力って、けっこう軽視されがちですが、実はかなり高い文章能力を持っています。

⑦宣伝

このような文字の圧縮の方法論について興味があるならば、こちらのnoteを参照してください。
削るにしても、ロジカルな思考とルールが必要です。
こういうのは、実際に添削で朱筆を入れられて、試行錯誤していくしかないんですけれどね。

そして、コチラの本も、オススメしておきます。
『MANZEMI文章表現講座① ニュアンスを伝える・感じる・創る』

文章のニュアンスとはなにか、わかりやすいところから攻略していこうというのが、この本の狙いです。電子書籍版とペーパーバック版の、両方があります。

ニュアンスを伝えるためには、ロジックがある。
ファジィ(曖昧さ)を理論化するために、ロトフィ・ザデーが生み出したファジィ集合から多値論理が派生したように。
ココが理解できると、だいぶ違ってくるのかもしれません。


質問も募集中です。

この質問箱では、もう一歩踏み込んだ回答を心がけていますので、質問をお待ちしています。

サポート、よろしくお願いいたします。読者からの直接支援は、創作の励みになります。