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コロナ禍を中国で過ごした日系ゲーム企業が語る今年の中国市場とChinaJoy

こんにちは。Gaoqiao(ガオチャオ)です。

私は普段ゲーム制作をしたり、ゲームパブリッシングやプラットフォームの運営、それに関連したコンサルティングをしています。

生まれも育ちも東京だったのですが、2017年にふとしたきっかけで中国南部、福建省厦門市に移り住みまして、それからはプロフィールにあるように最低半年に一回のペースで日中を行き来する生活を続けていました。

2019年9月、CEDECと東京ゲームショウでの怒涛の二週間を終えて厦門に戻って来た私は、年末に期限が切れる工作許可と居留許可の更新とそれに伴って必要になった来年夏に切れるパスポートの更新が重なっててんてこ舞いになっていました。

私は家族で厦門に住んでいるので、更新手続きに失敗して期限が切れると一人だけ日本に帰ることになってしまいます。

とはいえ、許可申請中はパスポートを公安の出入境管理局に預けないといけないのでその前に香港に行って映画「JOKER」を見たり、在広州日本国総領事館に行く時はコンサル先の広州の企業でミーティングしたりと今思うとなかなか楽しかったです。

1月は半ばから春節旅行としてタイ・バンコク、マレーシア・クアラルンプールに行きました。春節に沸くバンコク・ヤワラー通りに来て、今回の旅行は正解だったと思いました。

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最終日はマレーシア・クアラルンプールで中国南部発祥の祭日「拜天公」に沸くアロー通りを歩いて、アジア各地に根付く中華文化に浸ったのでした。

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2/2、旅行から戻ってくると状況は一変していました。いうまでもなく新型コロナウイルス禍の始まりです。私が生活する福建省厦門市の問屋街の店は営業自粛によって完全にゴーストタウンと化していました。

ここは春節飾りの店ですが、飾りはそのままにヒサシが無残に折れていました。家族が問屋街に開いていた店も客が戻らず、引き払うことになりました。

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近くのショッピングモールにある映画館も春節映画の目玉だった人気シリーズ「唐人街探案3」の広告を掲示したまま今に至るまで閉鎖しています。

このシリーズ、1の舞台はタイ、2の舞台はNY、今回の3の舞台は東京で三浦友和や長澤まさみなど有名俳優が総出演する予定でとても楽しみでした。

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出展の準備をしていた2/6から開催される予定だった台北ゲームショウをはじめとした様々なカンファレンスが延期、中止になり、仕事にも影響が出てきました。

小さい子供もいるので家に篭って仕事をしているなどしているうちにあっという間に日中の行き来ができなくなり、私は家族と一緒に中国に滞在し続けることを決心しました。

幸い福建省は感染者が大きく拡大せず、3月頭頃からは普段通りの生活ができるようになり、先月は国内の成都での講演の依頼があって出張にも行けるようになりました。

今も海外からの帰国者を中心に新型コロナウイルス罹患者は出ていますが、市中での感染は無く、いわゆるアフターコロナといわれるような状態が続いています。

すでに日本を出国して10ヶ月が経ちました。生まれて初めてこんなに長く日本を離れてしまい、毎日日本に想いを馳せます。

今回の記事では私が感じたコロナ禍の中国をゲーム市場の変化という切り口で分析して、今月末に行われる中国最大のゲーム展示会「ChinaJoy2020」の見どころを考えていきたいと思います。

1.コロナ禍での生活の変化

ここ1年のゲーム市場の変化を振り返る前に、大きく捉えた中国市場の変化を身近な生活の切り口で振り返ります。ただ、中国だとアフターコロナは以前と大きい変化は感じられません。今では外ではマスクをつけない人が多いです。

その中でも以前に比べて多くなったのがライブコマースと屋台(摆地摊,バイディタン)です。まず自粛期間中に休業した小規模商店からライブコマースが流行りました。

中国のショッピングアプリ「Taobao(淘宝)」には動画配信の機能があります。元々は店舗でやっている人が多かったのですが、アフターコロナになった今では仕事場や自宅にスペースを作って配信する人が多くなっています。

これはTaobaoで普通に見られるライブコマースの映像のキャプチャです。

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画像を簡単に説明すると、左は包丁職人が工房から中継しています。真ん中は中古スマホを売っていて、常連からおはようとか言われています。右は広東省からTバックの下着を売っていて、履いて見せてみてとか、男用はあるかとか聞かれています。ここはそういうライブチャットじゃねえぞ。

もう一つの流行である屋台についてです。

6月に入って李首相が屋台経済を賞賛する記事が政府系メディアに出ました。時を同じくして各地方政府が条例改正して全国的に屋台や夜市が増えてきた。今までは条例によって規制する流れでした。

これはオフィス街で屋台を出している様子で、このように道の真ん中に屋台を出す人さえいます。

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さらに果物屋の前の路上で果物を売る人達もいてなかなかカオスです。

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この二つの流行の背景には、リアル店舗を持つことができなくなった人の業態転換と産業の停滞を危惧した政府による規制緩和があります。

最近の中国では規制が増えることはあっても緩和されることは大変少なくなっていました。しかし、歴史的に見ると中国では産業振興のための規制緩和は一貫して行われてきています。

ゲームの周辺産業では映画産業、おもちゃ産業などが厳しくなってきているので、振興策が図られることになりそうです。

2.ゲーム市場の変化

中国のゲーム市場はどう変わったのでしょうか?下記の調査から引用して簡単に振り返ります。詳しくはこちらをご覧ください。

まず、家庭でのゲーム需要が高まって収益が伸びたというのは日本と同じです。これは過去1-3月期を過去6年間と比較したグラフで、ここ数年の停滞と今年の著しい増長率がわかります。

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これは春節期間のデイリーのゲームプレイ時間平均増長率をゲームジャンルごとに見たものです。

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ゲームジャンルごとにグラフになっていますが、ざっくり左が重めのゲーム、右がカジュアルゲームで、灰色が去年の春節期間、グリーンが今年の春節期間(1/24-2/2)のデータ、赤が延長した春節期間(1/24-2/12、10日間延長された)を含んだデータです。

去年の春節期間はプレイ時間が減るものもありましたが、今年は満遍なく伸びていて、重めのゲームだけではなくカジュアルも伸びているということがわかります。

3.ゲーム会社の変化

それではゲーム会社は今どうなっているかというと、基本は全員出社して大忙しで働いています。

景気がいいのでゲーム開発に忙しいという会社が多いです。地元のゲーム会社や出張先の成都のゲーム会社を訪問した際に「ChinaJoy行く?」ていうことを聞くんですが、これに関しては会社の階層によって意見が異なっています。

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中国ではゲームジャンル、ゲームプラットフォーム、ゲームエンジン、地域、職種などで細かくグループチャットが作られていて、LINEのように幅広く使われているテンセントの「WeChat」というアプリでは一つのグループに最大500人が参加できます。

これを駆使すると連絡したい人物にはだいたい連絡できるため、意外にチャットでコミュニケーションは十分なのではと思っている人がいる一方、顔を合わせないと話が進まないと思っている人も多くいます。特にCXOクラスはミーティングしたがります。

これはおそらく、CXOクラスはテレワークのせいで社内の管理をする手間が増えたので時間がなくなったため、時間短縮のために情報を一気に聞いて即決し、作業を指示できるミーティングをやりたがるということなのではないかと思います。

4.今年のChina Joyと中国市場

私は今年も中国最大のゲーム展示会「ChinaJoy2020」に参加します。参加はすでに4年連続になります。

4年前から毎年日本でChinaJoy事前勉強会「ChinaJoy行こうぜ!」というイベントも行なっていますが、今回は私が中国から日本に戻れないということもあって、ウェブセミナー形式となってしまいました。今回の記事の資料は一部このセミナー冒頭でやった10分間プレゼンの内容を利用しています。

さて、このChinaJoyというイベント。中国ゲーム市場の成長に合わせて、年々大規模に、よりグローバル化してきていましたが今年は様子が少し違います。これが去年の会場「上海新国际博览中心」の見取り図です。

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そしてこちらが今年の会場見取り図です。

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並べて見ると灰色の未使用の建物が目立つので一目瞭然です。BtoBが3.5ホールから1.5ホールへ減少、BtoCは12ホールから9ホールへと減少しました。ただ、昨年一昨年が過去最大規模だったので数年前と同じ水準ともいえます。

人気おもちゃ展(潮流玩具展)という謎の企画もあってここ数年のグローバルな雰囲気になる前のカオスなChinaJoyの面影を感じます。

ビジネス向けのBtoBイベントでの今年の見どころは原点回帰、海外進出、ゲームハードだと思います。

まず、コロナ禍において売り上げを伸ばしたスマホゲームパブリッシャーは素晴らしいゲームを制作するデベロッパーを探しています。中国でも小規模チームによるインディゲーム開発が盛り上がっているので、このような会社とのマッチングは盛り上がることでしょう。

これはVRやブロックチェーンなどの目新しい新技術に沸いたここ数年のChinaJoyのBtoBイベントにとっては原点回帰といえると思います。一方、ChinaJoyの開催期間中に周辺で行われるマッチングイベントも増えているので、ChinaJoy運営は今年はBtoBをどのように盛り上げるのかというのも気になるところです。

次に海外進出ですが、そもそも国内は2018年から厳しくなった版号の規制でゲームを出すペースが遅くなっています。これは海外企業にとっても中国企業にとっても同じです。なので海外進出が高まっています。

莫大な投資のできる大企業は版号を取得するコストや莫大な数のゲームを同時に開発するリスクを取ることができますが、中小企業にはそこまでのリスクを取ることができないため、中小企業ほど海外進出の欲求は高いです。

ただ、これは去年のChinaJoyでもそうでした。今年は新型コロナウイルスで海外進出熱は冷めたかと思いきや、中国企業の拠点は世界中にあるため、海外進出に伴う業務的な問題は少なく、また、華僑ネットワークを生かしている海外進出支援コンサルが中国ゲームの海外展開をサポートしています。

このような企業は「○○出海」という名前が多いことから私は出海企業と読んでいます。最近では中国企業から日本のゲームの中国以外含めた海外への進出の打診も増えています。

最後にゲームハードです。中国では外国製のゲーム機の販売規制があり、日本のようにゲーム機でゲームを遊ぶ文化が根付いているとはいえません。一方、ファミコンクローンの「小霸王」や3000本ものゲームの入るアーケードゲーム機の「Pandora Box(月光宝盒)」が海賊版市場を構築してきたという歴史があります。

一昨年には小霸王の名を冠した新型ゲーム機や任天堂のソフトが動くNvidia Shieldが発表されたり、昨年はNintendo Switchをテンセントが販売するという話題が盛り上がりましたが、一般には広まりませんでした。

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それがコロナ禍でSwitchの海外版が大量に国内に流れ込んでゲーム機ブームが巻き起こりました。

また、海賊版市場も盛況で中国最大の雑貨店チェーン「Miniso」では100元(1500円)程度でSupと呼ばれる海賊版のゲームが大量に入ったゲームボーイポケットによく似たゲーム機を販売しました。流石にMiniso版はこのSupremeにも似たロゴは入っていません。

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BtoCに用意された「人気おもちゃ展(潮流玩具展)」はこういうカオスなグッズの展示がたくさんあるのではないかと期待しています。

一般向けのBtoCの展示の見どころはやはり新作発表とプレイアブル展示です。

今年はChinaJoy運営が自ら世界最大のゲーム展示会「E3」並と豪語しており、特に6月末にポケモンシリーズを含む40本以上の新作ゲームを発表したテンセントのブースは必見でしょう。ここでSwitchがどれだけ並ぶかということも今後の中国ゲーム市場の変化を予測するために注目したいところです。

私は今月末に開催が迫るChinaJoyの前には、日本から中国への渡航規制が解除されるかと思っていましたが、視察レベルではまだ渡航が認められていないことが多いようです。

前述の通り私は例年通り参加して、中国企業のブースのお手伝いをします。一昨年、昨年と日本企業を何社かアテンドさせていただいたのですが、今年は代わりに「ChinaJoy2020レポート」を制作することになりました。

詳細なレポートのみならず、5G回線を使ったリアルタイムな写真、動画共有などもある、ほぼバーチャルでアテンドしているのに近いレベルの内容を目指しています。

要望があれば代理での商談や調査もできるようにオプションも用意しました。ただ、あまり多くなると自分の時間がなくなるため、最大10社としています。下記から申込できますのでご興味のある方は是非ご覧ください。

中国に渡航できなくなった海外メディアが多いためか、ChinaJoy公式ページにて臨時メディアパートナーの募集も始まっていました。入ってこれなくなった海外勢を相手にしていないのか英語版ページには詳細情報が書いてありません。

メディアへの写真、映像等の情報提供も可能だと思いますので、下記ページの一番下にあるお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。


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自己紹介をゲームで語る

中学時代からソフト開発販売、路上ライブ情報配信、地域情報動画配信で起業。2年のMBA生活+7年弱のサラリーマン生活を経てゲーム会社グラティーク創業。代表取締役将軍。中国でのゲーム開発をきっかけに月の半分厦門で生活しています。