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私が世界を救うまで 第14最終話

【滅びの木】

「ヒカリ待ってられる?」

ユーンはほうきに乗ってドラゴンに近づくつもりで腕の中の黒猫に話しかける。
ただの黒猫は鳴いて返事をした。
よしよしと腕から下に降ろし、ほうきをにぎる。

「ほうきさん、かぁち(可愛い)ねー」

フワッ
待っていたと言わんばかりにすぐドラゴンの元へ飛んでくれた。近づくまでには30秒くらいしかかかりはしなかったが、炎で焼かれてもおかしくないだけ狂った状態だった。
だが、そうはならずドラゴンの瞳にはユーンが映っていた。

「んん…おかぁさん。ウロコ具合がよくないですよ?
雨が振ります!」

ベリッ
落ちていたウロコではない。
生えている新鮮なウロコをユーンは剥いだ。
よく大人しく剥がされたものだ。
痛がる様子もなく、不思議なぐらい静かにユーンを見つめていた。
愛する我が子に気づいたのだろうか。
そんなふうにも見えたが、雨が降り出すとまた暴れだしてしまった。

「ぅわぁあっっ」

急に暴れだしたドラゴンの風圧を精霊が押さえ込もうとしたがめずらしく間に合わなかった。
ユーンが地面に落ちていく。

いつもなら風の精霊が守っていて
こんな事は万が一でも起こらない。
起こってもドラゴンがキャッチしてくれていた。
今はどちらもない。
ユーンの頭の中には
それでも恐怖とか怯えなんて浮かばない。
母のことでいっぱいだった。

ぐしゃっという音は鳴らなかった。
ドラゴンが地団駄を踏んで喜びを表したひび割れた大地がユーンを助けた。
大地が力を振り絞り、草木など生えないだろう見た目のところから擦り傷で済む程度の植物を一気に生やしたのだ。
その様子はまるで早送りの成長記録みたいだった。

「……あれ?小さなひとがいる。生きてる生物はいなかったのに不思議ー!」

ユーンは初めて精霊を目視した。
地の精霊ノーム。
15cmくらいの男の精霊だった。
見た目を不思議がらないのはユーンのいい所だ。

「あなたが助けてくれたの?
力持ちさんなんだね。ありがとー」

初めて直にお礼を言われたノームはでれっとした顔をしながらまた見えなくなった。

「よーし、私もおかぁさんを助けちゃうぞぉ!」

でも、どぉしたら……
狂ったドラゴンを元に戻す方法なんて知らないし……
でも、あれはおかぁさん……

「そっか……」

【天界】

水晶鏡で見守りながらプランを練っていたふたり。

「ユーン危なかったですね。大地が助ける今のシーン見ましたか?魂に魅せられるというのはあの世界の生物だけじゃないかもしれないですね。推し以外でこんなにテンションあがるの久々です。」

プランなんて浮かばず、まるで映画を見ているみたいなテンションで話している。
ポップコーンは手にないがあればまさにそう見えるだろう。
色々と通り超えて傍観者となったふたりは、せめて結末まで見守ることはしようと決めていた。
世界が違っていても魂を送り込んだ自分たちも登場人物かもしれないとどこかで感じつつ、もしそうならどこかで役にたてる場面がくるかもしれない。
それを見逃してはならないと思いながら。

「凄かったですね。私たちが言うのもあれなんですけど、神シーンでしたね。ぁ、それよりユーンは何かおもいついたみたいですよ。」

神の元で働くものたちがいう神シーンってわりと普通にアニメでありそうなシーンだったけどとツッコミをいれてくれる誰かはいないようだ。

「ソロネ様も一緒に見たらきっと気持ち変わっただろぅになー……」

今、楽しそうに話していたエリート社畜のテンションの浮き沈みが激しい。
社畜の特徴丸出しだった。

「……仕方ないですね。動かないとは思いまっ」

バァン
扉が倒された。

「うるさいんですよ。あなたの念話。ずっとずっと呼び戻しかけてきて。ワタクシは社畜課じゃないんですから特性は持ってないんですよ?
何が仕方ないですか、まったく……」

ツンデレ?

「断じて違いますが?」

ぐぅう
ソロネ様も頭の中読めるのかぁあ

「ラファエルにできることをワタクシが出来ないとでも?笑わせないでください。また床が燃えますよ?」

もう何か考えるのやめたい
そう思ったのも読まれて、ふふっと笑みを向けられた。


【滅びの木】

「ほうきさんもう1回お願い。かぁちねー」

再びドラゴンの瞳に映りに来たユーン。
今度は暴れたままだ。狂度が上がっていってるのかもしれない。

「おかぁさぁん!」

呼ばれても止まらない。

「おかぁさぁぁぁぁあん!
一緒に寝よ。ねぇーんね!!」

眠りの呪文だろうか?
呼びかけみたいなものか?と天界の3人はザワついたことだろうが、ユーンには関係ない。

と同時に大きな雷がドラゴン目掛けて落ちた。

ドラゴンの動きは止まりドォーンッツと地面に落ちた。もちろん大地は助けないが、それでもドラゴンは無傷なのだからとんでもない規格外の生物だ。

「おかぁさん、おかえり。
よしよし。おつかれさまだよぉ。
一緒に寝ようね。」

狂ったドラゴンは元の瞳には戻らないままだったが、ほうきから降り近づいてきたユーンをまた静かに見つめていた。

んなぁーぉ
そこへ黒猫もやってきた。
黒猫も元に戻れと言っているように猫パンチをくらわせたり、ザリザリ舐めたりしている。

「ヒカリ、よく聞いて。
おかぁさんはね、これから眠りについてもらう。おかぁさんは怒ってもね、いつも寝て起きたらケロッと元通りなの。
狂ってもほんの一瞬なら私が誰かわかるみたいだったし、どこかにおかぁさんが残ってる。だからね…」

私も一緒に眠る

これがユーンの思いついたやり方。
戦いは嫌いだ。
誰かが傷ついたり死んでしまうのも嫌いだ。
おかぁさんがいなくなるなんて嫌だ。

「私ね
内緒だったけど、瞬間移動まで出来ちゃうんだ。1ヶ月に1回だけなんだね。たぶん魔力的ななんかアレなせい。だけど、自分以外も一緒に出来るんだよ。」

立派な魔法使いだ。
けれど
本人は魔力という言葉はわかっても
自分が魔法使いだとは認識してはいない。
自分、なんかできてるー!といったところ。

「だからね、おかぁさんとヒカリを連れて、あとこの大きな木も持ってモッテアムゴットに帰る。寝るならやっぱりおうちが1番だからね。」

さぁいくよ!

【モッテアムゴット】

村人たちは腰を抜かした。
あまりにも不気味な木と、とんでもなく恐ろしくなったドラゴンと……ただの黒猫を連れて
ユーンがいきなり現れたからだ。

「ぉ、おけぇり。
ユーンなんか色々連れてきたんだなぁ……」

「ぁ、お隣のおじさん。あのね、わたしのおうちの庭にこの木植える。そこにおかぁさんとふたりで眠るね。」

「…ん?
はぁ?!何がどうなってそうなったんだ?!」

説明は長くしている暇がなかったからヒカリのことは伏せてそれ以外を全て話した。

「……わかった。
カカ様はそれでなんとかなるんだな?」

「うん。きっとね。今も顔とか目とか怖いけど大人しいし大丈夫。だからね、私たちが眠ってる間、ヒカリを頼みたいの。ヒカリはね猫の獣人で強いから村を守ってくれるよ。何より私たちが眠る木をヒカリに守って欲しいんだ。」

「こん猫がかー。よし、いっつもユーンにはよくしてもらってるし、村を平和にしてくれたのもお前さんだからな。まかせとけ。よろしくなヒカリ。」

庭に木を植えた。
地の精霊が手伝い10分で巨大な木がモッテアムゴットに植えられた。
その下にふたりはちょうどいい寝床を造り眠った。

眠る前にはヒカリに

「あなたが私たちの眠りを守ってね。おかぁさんはこのウロコ具合と怒り具合、狂度からいくときっと年月がかかると思う。ヒカリにはこれ、カーバンクルの首飾りをあげる。長生きできるのよ。私とお揃い。
起きたらまた遊ぼ。大好きだよ。」

しっかり言い聞かせた。
少し納得いかないようだったけれど、それでもしぶしぶ分かってくれた。

「さ、おかぁさん、ねぇーんね。」

こうして再び平穏が訪れた。


【天界】

「ユーンはあの世界を危険生物からも狂ったドラゴンからも守り、地球を救い守るだけでなく
私たち3人の仲まで修復向上させた。
凄い子ですね。」

ラファエルが少し興奮モードだ。
ソロネは計算の上をいきましたね…とにこやか。
あるふぁは今回のこれこそ残業代300円越えの新記録でるんじゃ……?と考えていた。

平和な天界。


【モッテアムゴット】千年後の未来

「というわけで、滅びの木は千年樹と呼び名が変わり、その下には水晶と守り石モリオン、アメジストでできた眠部屋(ねむりべや)があります。現在も炎のエンシェントドラゴンと大魔法使いユーン様が眠っておられ、そこに黒猫ヒカリが住んでおります。」

あれから世界は平和な千年を暮らしている。
魔法使い学校もでき、こうして歴史の授業で名が出るほどにもなった。
滅びの木が生え人々が死滅し大地がひび割れたあの地も復興し今は観光地として栄えている。

いつかまた目を覚ます日まで彼女たちは眠りながら世界の守り手としてここに生きる。

『モッテアムゴット』
君がいるから強くなれた
私が世界を救うまで。


end

- - - -キ リ ト リ 線- - - - 

韓国語をちょっと弄らせていただきつけた名前です。

ドラゴンやユーン
そのほかの登場人物もあなたがいないと何もできないひとりでは何もできない。けれど、あなたが君がいたら世界も救う力が出るという助け合いの関係性を持たせたかったのです。造語みたいなものですが、気に入ってくれたら嬉しいです。




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