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私が世界を救うまで 第12話

【滅びの木】

空がいきなり灰色の雲で覆われたかと思うと、一筋の光がさし、聴いたことのない声が響き渡った。
その声がなんと言っているのかを皆が理解した。
ドラゴンも危険生物もユーンも、そこから離れた場所にいる人間や生き物、大地すらも全てがだ。
これは神様か天使様、はたまた悪魔でなければできないことだろう。
全ての生物の共通語なんてものは存在していないのだから。

そして声は名乗った。
天使階級第3位の位を持つ、『ソロネ』だと。

大抵は名乗らず、ありがたい啓示を下さるだけだった。

少なくとも今まで、世界はドラゴンと気まぐれにくだる啓示で守られていたが、今回はそうではなかった。

「いま……なんて言ったの?」

ユーンは誰にでもなく呟く。

母ドラゴンが実母を殺したことを
実はすでに知っていた。
直接聞いたわけではなかったが、
人の口に戸はたてられない。
一度、村人が面白おかしく話してるのを聞いてしまっていた。そこにほかの村人がきて、親切に優しい言葉に置き換えながら話してくれ、彼女は世界の平和のために仕方なくだったんだと無理やり飲み込んだ。
だが、いま自分までもを殺そうとしたと言っていた。
それは知らない事だった。
事実ではあるんだろうなとどこかで思う。

人への偽りの罪?
おかぁさんは…嘘をついていたの??

ユーンの心が揺さぶられていく。


さぁ、ドラゴンよ、狂え。殺戮しろ。

キィィイイイイイン

耳障りな音だった。
体が軋んでいくような、震えていくような嫌な感覚。

「パーティのはじまりはじまり〜♪」

ドラゴンの目つきが変わった。
生まれた時から見ている母ドラゴンの目ではなかった。
鋭い獣の眼光。
美しくかっこよく優しい目はそこにはもうない。

こんなドラゴンは知らない。

ユーンはそう思ったが、その目はユーンだけをとらえて映していた。
眼光を向けられたユーンは動けずにいたが、ヒカリは危険生物の本能からだろうか。
二足歩行の猫型になり、本来のスピードなんて出せなくなったはずにも関わらず、飼い主を守るかのようにユーンを自分の後ろに隠し、威嚇する。

さっき見たなぁ。ふたりが威嚇し合ってたところ。
あの時は私が止めたんだったなぁ…

なんてことが脳裏に浮かび
我に返る。

「知らないドラゴンなんかじゃない!
おかぁさんがおかしくされちゃったんだっ!!」

狂えって言われてた。
そうだ。
おかぁさんは今狂ってて、いつものおかぁさんじゃないだけなんだ!

「ヒカリ…
ありがとう。やっぱり君は危険生物なんかじゃないね。
私が生まれる前の君のことはわからないけど、今の君は私の…
なんだろ…?」

「お前、変なやつ。でも名前くれた。
俺はもう名乗れる!前までの名無しじゃない!危険生物とか黒いヤツでもなんでもない!
ヒカリだ!
名前をくれた、名前を呼んでくれるお前を守る!!
その為のカラダになった。お前は俺のご主人様だ!!」

黒い猫は不吉
地球の日本ではそう言われ、忌み嫌われたりもする。
この世界においては猫は生贄でしかなかった。
そんな扱いをされながら、名前もつけてもらえずに何度も危険生物として倒され続けてきた存在はひとりの少女によって今この時、主人を定め、守る宣言をした。

【天界】

「……よかった」

ソロネがボソリと呟き微笑む。

「ラファエル、ワタクシの願いは叶いました。
ここからは
どうなろうと、もうどうでもよいので帰りますね。
あとはあなたとあなたのお気に入りに任せますよ。
では…」

何がよかっただ。
今、水晶鏡の向こうは混沌しかない状況じゃないか
と言うが間に合わず、ソロネはいなくなってしまった。

「ん… ラファエル様?」

「起きまし……たかじゃない
ぁ……あなたっ、何急に寝てるんです?
エリート社畜が聞いて呆れます。
だってそうでしょう?この非常事態に社畜課特性5番目
<眠気など気の迷い>がまるで役にたってないじゃないですか!!
まったく…… 鍛えなおしが必要ですねっっ」

そんなこと言われてもほぼ気絶だったような……?

なんて口が裂けても言わないのが社畜課だ。
上司の言うことは丸呑みし、あとから家で愚痴るのが常識と思い込んでいる。特性とは別の思い込み…刷り込み?処世術?
まぁなんにせよ、ひとまず
申し訳ございませんと、土下座までコンマ1秒でする脊髄反射セットに拍手をいただいてもよろしいだろうか。

「……今回はもういいです。土下座、また一段と美しくなりましたね。ぁ、次はないですよ。」

滅多にない優しい言葉?だった。
上司は慌てると早口になって
はちゃめちゃでなんか可愛いのかもしれないと思えた。

いゃ、可愛いってなんだ…

「あの……ソロネ様は?」

「帰りました。私たちに全てを投げ出して。」

ぇ?
えぇえええ?!!


ん"なぁぁぁあんん!!

グルわァァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!

水晶鏡から危険生物の声と、なんだこの声……

「あれはエンシェントドラゴンですよ。
暴走した、ね。
あなたが寝たあとにそうなりました。
世界が滅びを迎える<音>です。」

それをどうにかしなければなりません。

大変申し訳ございません…
丸呑み不可事案が発生しました。
こんなのはじめて。
可愛いを今すぐ何処でもいいので返還します。

「この上司、何言ってんのぉおお?!」

To Be Continued

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