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薄月 タバコはきらいだった。 駅前の横断歩道へ急ぐ途中、煙の先端が鼻先に届くだけでも…
逃げ出したい。これは、生きるものの最後の本能だと思う。だから私は、よくここに来てしまう…
三十五歳というぴちぴちの若さで退職してやった。地方の騎士団なんか入るもんじゃない。あそ…
男が靴屋に弟子入りして一年が過ぎようとしていた。師の店に下宿しつつ工房の掃除をし、水を…
波の音。海鳥の声。目を閉じて、わたしは一歩、足を踏み出そうとした。 「単に死ぬのはもっ…
少女は生まれてから毎日、日がな押し入れの中で過ごしていた。建てつけの悪い襖の隙間からわ…