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家族を続ける日

「たった今、離婚届けを出してきたよ。」

兄と、元夫婦関係であった姉、2人からの電話だった。金曜の朝、快晴。

まだよく開かぬ目でうんうんと話を聞いた。協議離婚であったことと、二人で手を繋いで離婚届を出しに行ったことと、これからの姉の住まいについて話を聞いた。とても明るい声だ。二人はSNSに興味のない人間だけど、もしTwitterかなにかをやっていたなら、「今二人で手を繋いで離婚届を出しに行ってきました!2人にとって前向きな決断です」とでも書いてしまいそうな…それぐらいのテンションだった。バッチリ目は覚めたが、眠いふりをして、ただうんとしか言わなかった。私が泣き出しでもしたなら、二人は絶対それ以上にワンワン泣く。そんな空気が、明るい声の向こうで濃厚に耳を貫いていた。

「お母さんからなにか聞いてた?」と兄に聞かれ「いや、何も」とだけ言った。本当は二人がめちゃくちゃになりながら話し合いをし、泣きながら離婚締結に至ったことを母から聞かされていた。その涙が、悲しさや後悔であったとしても、「別れたくない」ではなかったことも分かっていた。そして、別れる話をし出してからの方が仲良くなっていたことも全部、全部知っていた。

もう何度目だっけな?と思う。こんなに矛盾に満ちた人間活動の話は。

一度家族になった二人が別れる理由ってなんだろう。今の生活を全部捨ててまでなんで人は別れるのだろう。もともと、シングルマザー・ファザーの親元で育った友だちが多いということもあって、離婚をすることは割と普通なことだということには早くから気付いている。私の両親だって奇跡に近い形で繋がった場面があったことも知っているし。一般的にお金の問題でだめになっていた夫婦は知っている限り多いけれど、兄と姉に至っては、それはないような羨ましいくらいの生活環境だ。それなのに、泣きながらしなくても良い手続きや選択に至る。それほどまでにこの問題は複雑だと言ってしまえば結論っぽくは聞こえる。

うんだけしか言わずに電話を切って、ベッドから起き上がってすぐに外に出た。息を吸うとひんやりしていたし、いつもより少し上を向いて歩いた。吸ったものをふぅっと吐き出して何か言ってあげたら良かったかなと思った。河原につくと水は流れに沿ってキラキラと揺れていた。クリーム色に枯れた落ち葉が踏むと音を立てて粉々になった。草木を通して、風は吹いていた。太陽は穏やかな金色で....すべて、今までと一緒だった。当然だけど何も変わらなかった。それに気付いたとき、目にいっぱい溜まっていた涙も一気に溢れ出していた。

何も変わらないんだ。兄は当然のこと、姉だってずっと私の姉だってことは。一回しっかり家族になったらずっと家族。だってそうやってしか出会ってないんだもの。兄との夫婦関係が終わったからと言って、私達家族がいきなり終わらせられるわけがない。喜ぶことも、泣くことも、怒ることも、感動も、問題だって一緒に乗り越えて、パーソナルなとこをすべて見せてきた家族なんだから。なんにも変われるわけないんだもの。

誰かが離婚したって報告の表には、二人しか見えない。当事者の二人が一番大事で、納得が必要なのも分かっている。でも、何かが終わった影には、こうやって続いていくものが、どうしようもないものがあるんだなぁ。どんなに前向きな別れでも誰かの何かに置いてかれるように、切り離されるように、痛みが眠っていたんだなぁ。

私が今、何かを言えるとしたらそれしかなかった。色々なことを終えた二人を大事に思うこと。こうなってなお、渡せるのは祈りしかないということ。


二人はこれからも、
わたしにとっては大事なお兄ちゃんとお姉ちゃんだよ。
幸せになってね。どうか。







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