5.変わり果てた父との面会
深夜0時近くなって、
検視結果を伝える連絡が母のスマホへ入った。
当たり前だが他殺などではなく、
自ら命を絶ったと思われる、とのことだった。
検視を終えた父の遺体は、
葬儀場の霊安室へ運ばれた。
こんな状況だから、しばらく家族一緒に
居たほうがいいというのと、
忌引きでお休みも頂くことになるだろう
ということで、妹が借りているアパートに
服やらなんやらを取りに行った帰り、
深夜1時ごろに葬儀場から連絡があった。
「終わりましたので、この後
お参りに来られますか?」
自分の父親に会いに行くのに
「お参り」って何なんだよ、と思いながらも
「行きます」と返答した。
もう寝ている祖母たちを起こして
一緒に葬儀場へ行くかと少し迷ったが
「もう夜も遅いので、明日も朝9時から
空いておりますので、朝でも」
とも言われていたので、
LINEに伝言だけ残しておくことにして
途中で空になりそうなガソリンを給油したあと、
実家に置いてきた弟二人を
ピックアップして葬儀場へ向かった。
正直、吐きそうな気持ちがした。
心臓がもたなかった。
一人にしてしまったお父さんに
早く会いに行ってあげたい反面
やっぱり父の遺体を見るのは怖かった。
霊安室は葬儀場の最上階の小さな部屋にあった。
エレベーターで昇ったすぐ先の霊安室内は
冷房が強く効いており、顔が見えるよう
準備を整えてくれていたようだった。
ガラスの蓋がついた仮の棺は引き出し式で、
遺体の腐敗を遅らせるため
保冷仕様となっていた。
正直、警察に運ばれて以降の父の遺体の扱いや
その流れの詳しいところは
よく、分かっていないのだが
恐らく「湯灌(ゆかん)」という
体を綺麗にする作業のあと
右前の白い死に装束を着せてもらい、
白いお布団をかけて
棺に納めて頂いたようだった。
死んだ父の顔を、私と妹はここで初めて見た。
(先に書いたところから、
また別日に書いているのだが
思い出して色々書いていると
目が回り出してしまった。
既に父が亡くなって16日が経っているが、
受け入れられていない自分がいることを
こういう体の反応で実感してしまう。
マジでぐるぐるしている。。困)
顔がいわゆる土色
(どす黒い紫ともいえる色)になり、
すでに生きていないのだ
ということは明らかだった。
首を吊った衝撃で
口から出ていた舌も黒く変色し
これはあとで確認できたことだが、
歯で強く噛み締めている状態だった。
頭部の皮膚にはしわが寄り、
もはや血の通っていない父の身体は冷たかった。
「お父さん……!」
妹はその姿を見るや否や泣き崩れ、
父の遺体に寄り添ったまましばらく泣き続けた。
母と妹、弟二人と一緒に、
たくさんたくさん泣いた。
「ごめんね、ごめん、、
気付いてあげられなくてごめん」
「よく頑張ったね、ありがとうね」
父が死んだのだ、という現実を
突きつけられた瞬間から
ずっと父の顔を見ていなかった。
やっと父の顔を見て、
悲しみが溢れて止まらなかったが、
それでも内心まったく現実味がなく、
まるで寝ているみたいだな、と思う自分もいた。
布団をかけられた父の身体には、
腐敗の進行を遅らせるため
色んなところにドライアイスがあてられていた。
妹は父の手を握りたがったが、
腐敗して変色する可能性があることや
ドライアイスで低温火傷をする
可能性があることから、
現状は難しいとのことだった。
そうか、父さんは死んじゃったんだよな。〜⑤第一章:父が死んだ。これは夢か幻か~
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