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ガラス瓶の化粧品

仕事で出会った、ある患者さんの話。

80代の女性、足の手術で入院していた。
入院して来た時から品のある、穏やかなレディ。

受け持ち看護師になった私は、入院日の夕方、翌日に控えた手術のオリエンテーションをするため病室を訪ねた。

個室のベッドにちんまりと座って、入院のパンフレットを読むレディ。私を見てにっこりと微笑んだ。わぁ、表情に滲み出る包容力、すんごい。


和やかな夕暮れの中、オリエンテーションを終え病室を出ようとすると、洗面台に並べられたキラキラのガラス瓶の化粧品が目に入った。

「素敵なお化粧品ですね」
思わず声を漏らすと、レディはくすくす笑いながら言った。


「いくつになっても、きれいなものやかわいいものが好きでね。年甲斐もなく集めちゃうの。」



確かにガラス瓶の化粧品たちは、若い女性が使うようなもの。あまりこの年齢の方々が使っているイメージはなかった。でも、


年甲斐がないだなんて、思わなかった。
とびきりキュートで、まるで少女のようだった。
この人のように歳をとりたい、と思った。



それからも入院中はちょこちょこレディの部屋に行き、いろいろな話をした。もちろん受け持ち看護師としてもだけど、人生の後輩としても。


「女の子はね、ときめきを忘れちゃいけないの。しわしわのおばあちゃんになっても、かわいいものやきれいなものを女の子はどんなに歳を取ろうと、可愛くある権利があるのよ。」

「素敵だな、と感じるものには投資しなさい。必ずあなたの身になって、きらめきになるから。品性はいくらでも身につけていいのよ。」



レディの教えは、見た目だけじゃない、芯から美しい女性の教えだった。


退院日、病室に行くと、窓際でマニキュアを丁寧に塗るレディがいた。

「今日は娘と孫が迎えに来てくれるから、一緒にランチに行くの。だからおめかし。」

ふふふと笑ったレディ。


私もこの人のように、いつまでも可愛らしく美しい人でありたい。

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