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色褪せて

「色褪せてはいないけれど、このままにしておきたいよね。」

刺激を求め、いつも私を置いて走り、だんだんと遠ざかり小さくなっていく彼の背中を見ているのが好きだった。

でも、彼はそこまで速くない。

時に立ち止まり、天を仰いで、考え事の過程と結論を照らし合わせている。
人並みの自尊心なら、2歩進むごとに途中経過を誰かに見せては「偉いね」の一言が欲しいものである。


物事の捉え方と価値観の多様化を謳う広い世界では、逐一報告やら進捗やらをすると面倒くさがられるケースがとても多い。7歩から10歩進んだところでようやく「見せてごらん」という腕試しのセリフが出現する。


でも、本当は並走したいし、共同制作だって言い張りたい。お互いに「相手が頑張ってくれたおかげです」と言い合える関係性で誇らしげでありたい。自分が褒められるよりも、隣にいる人が褒められた方が素直に喜べる。

足幅が揃っていたのは数年前のことだし、違う景色を異なる明度で経験してきた。
恋人ではないから勘違いされたくないけれど、あの頃よりも距離は離れている。

だから、今は歩く速度を互いに寄せ合いながらなのに、勘づかせないように足並みを揃えるのが楽しい。

あの頃と同じも、今だからこその違いも、履いているスニーカーが変わっても喜んでいられる。



髪色も、顔色も、気づいていないけれどたぶん目の色も変わった。褪せたのか、そういうお年頃なのか、はっきりさせなくても良いと思った。
グラデーションがその先を想像させてくれるから。


自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。