見出し画像

後ずさり

井の頭線から降りると、たった一つの出口改札の方向に道ができて、一目散に混ざり合う。流動的で無自覚な情緒を鷲掴みにして車両から飛び降りた。

ざっくばらんに散乱している古書を手に取ってみても、こちらに目配せしているとはつゆ知らず、縁がなかったつもりになっている。気づかれなかった虫の息は、今もなお消されないテトリスのように敷き詰められている。

Chicagoを横目に、カオストーキョーシティを一歩一歩踏みしめる。かねてからの低体温症を左手に隠しながら、右手に無糖のアイスコーヒーを握りしめている。ガムシロップのフタを引っ張ってしまって軽くベタついた親指。コーヒーカップの表面をわざとらしく親指を回し込む。

日暮らしに染め上げて、人々がその場に腰掛けて黄昏始めた頃、もういいやって帰路に立つ。

コーヒーカップから、水滴が落ちてしまった。地に触れると喜んで抱擁を交わし、一緒になって消えた。
集団の中の一員にいることで、自主性を隠して総意にすり替えてもバレやしないことを集団的自衛権と呼びたくなったけど、先手を取られていたみたいだからキッパリと諦めて、言葉遊びもほどほどにしたくなった。
SDGs仕様の電車に乗っていながら、今日も何も良いことなかったなぁ、と、黄昏て窓の外を見る。

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。