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映像脚本「加賀美家の女」

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【登場人物】
安達圭介(35)刑事
山内勉(28)安達のバディ
高田和之(48)安達の上司
奥沢雄一(42)鑑識加賀美政子(75)加賀美家の女主
加賀美聡(45)政子の息子
加賀美ケミカル社長
加賀美緑(38)聡の妻
渡辺綾乃(24)聡の愛人
野田幸子(57)加賀美家家政婦
畑健吾(57)加賀美ケミカル研究所所長
土屋瞳(29)緑の部下
平本明里(53)弁護士
長沢孝太郎(83)加賀美家元執事
西田真由(26)長沢担当の介護士

○ホテルマイステイズ五反田駅前・外観(夜)

〇同・1007号室(夜)
   加賀美聡(45)がYシャツにスラックス姿で、床に倒れて死んでいる。奥沢雄一(42)他数名の鑑識課員が作業中。
   奥沢、写真を撮っている。
   テーブルの上には缶ビールと飲みかけのコップがある。
   安達圭介(35)と山内勉(28)は泣いている渡辺綾乃(24)を聴取している。
   加賀美緑(38)が飛び込んで来る。
緑「あなた!あなた!」
山内「ちょっと!」
   山内は緑を止めるが、耐えきれず転ぶ。
安達「奥様ですか?」
緑「はい。あなた……なんてことなの……」
   緑は泣き崩れる。
   加賀美政子(75)が入ってくる。
政子「緑さん、およしさない!」
山内「失礼ですが、あなたは?」
政子「聡の母でございます。この度はご迷惑をおかけいたします」
   政子は深々と頭を下げる。
安達「随分落ち着いていらっしゃるんですね」
政子「加賀美家の者として、はしたない真似はいたしません」
緑「この泥棒猫!」
   緑は綾乃に襲いかかる。山内止める。
   綾乃は怯えている。
山内「駄目ですって!」
政子「おやめなさい! みっともない!」
緑「お義母様!」
安達「お二人とも落ち着いてください。ご遺体の前ですよ!」
   緑は加賀美に振り返り泣き崩れる。
   安達はため息をついて振り向く。
   政子の目から涙が零れるが、安達に気がつきさっと拭う。

〇北品川警察署・外観

〇同・取り調べ室
   山内と綾乃が机を挟んで座っている。
   安達は山内の後ろに立っている。
   女性の記録係が隅の席にいる。
山内「昨日は何があったんですか?」
綾乃「昨日はご飯を食べた後、あのホテルに行ったんです。それで、いつも通り私が先にシャワーを浴びて、出て来たら社長が倒れていて……」
安達「社長?」
綾乃「私、社長の秘書なんです」
山内「自分の社長と不倫を?」
綾乃「最初に口説いてきたのは社長です」
安達「そんな事はどうでもいいです」
綾乃「そんな事って」
安達「俺達が捜査しているのは殺人事件であって、不倫の内偵ではありません。あなたの道義的責任は奥さんに責められるべきであって、俺達には関係ない」
綾乃「……奥様は、私を訴えると?」
安達「さあね。まだ何も聞いてません」
綾乃「私、この後どうなるんですか?」
安達「あなたは被害者が亡くなった時一緒にいて、唯一毒を入れられる立場だ。当然ながら第一容疑者としてこのまま取り調べが続く事になります」
綾乃「私、社長を殺したりなんかしてません!」
安達「だったら」
   安達は机に手をつき綾乃の顔を覗く。
安達「知ってる事全部教えて下さい」

〇同・鑑識課
   奥沢が加賀美の所持品を並べている。
   それを安達と山内が見ている。
安達「これは?」
   安達は青い錠剤とピルケースの入ったチャック付きポリ袋を指さす。
奥沢「精力剤だよ。個人輸入の粗悪品だね」
山内「えぇ、そんなのよく飲めますねぇ」
安達「指紋は?」
奥沢「加賀美のしか出てないね」
   安達は錠剤とピルケースをじっと見る。
奥沢「ああ、そう言えば」
山内「どうしました?」
奥沢「ビールから精力剤の成分も出たよ」
安達「青酸カリはビールではなく精力剤に?」
奥沢「まあ可能性は0ではないね。ただ他の錠剤には入ってなかったよ」
安達「そうですか」
奥沢「それから青酸カリだけどね、加賀美ケミカルの研究室のものと一致したよ」
山内「やっぱり犯人は渡辺って事ですよ!」
安達「秘書がどうやって研究室からそんな劇薬持ち出すんだよ。研究員たちにきっちり管理されてる物だろう」
山内「渡辺を落とせばすぐわかりますって」
   奥沢はやれやれと首を振る。

〇加賀美家・外観
   豪邸。

〇同・居間
   物は少ないが気品のある部屋。
   飛行機が描かれた絵や置物が多い。
   ソファに座る安達と山内。
   野田幸子(57)がお茶を運んでくる。
幸子「大奥様、今お支度されてますので」
安達「寝ていたんですか?」
幸子「いつもは早くに起きられるんですけど、よっぽどショックだったんでしょうね」
山内「現場ではそんな感じしませんでしたけどね」
幸子「加賀美家の妻の誇りがありますからね、人前で泣いたりしません」
山内「名家の大奥様は大変ですね」
幸子「緑さんも仕事ばかりで家の事には興味ありませんし、気苦労が多いでしょうね。旦那様達にはお子さんもいないし」
安達「今日、緑さんは?」
幸子「もうお仕事行かれてますよ。夫が殺されて普通仕事なんて行きますか?旦那様もそりゃ浮気したくなりますよ」
安達「政子さんと緑さんの仲は?」
幸子「良いわけないじゃないですか! 水と油ですよ!」
山内「やっぱり嫁いびりとか?」
幸子「緑さんは黙っていびられるような人ではありませんよ。言われた分だけ言い返す。そういう人です」
山内「それは勇敢なお嫁さんですねぇ」
幸子「最近は夫婦喧嘩も多くて。激情型ですからね、怒ると何をするかわかりません」
   政子がゆっくり入ってくる。
政子「お待たせしました」
   幸子は慌てて出て行く。
   安達、山内立ち上がり礼をする。
安達「お体は大丈夫ですか?」
政子「心配には及びません」
   安達・山内・政子、座る。
山内「この度はその、ご愁傷様でした」
政子「愚息がご迷惑をおかけします」
山内「そんな、息子さんは被害者ですから」
政子「調べればわかる事ですので先に言っておきますが、聡は実の息子ではありません」
安達「では誰の?」
政子「あの子は、夫の愛人の子でございます」
山内「愛人の子を育てたんですか?」
政子「あの子の母親は出産後すぐに亡くなってしまいましたし、加賀美家の長男であることには違いありませんから」
山内「すごいですねぇ」
政子「それが、加賀美家の妻の役目ですので」
安達「愛人の子にもまた、愛人がいたという事ですね」
政子「因果とでも言うべきなんですかね」
山内「先輩、インガって何ですか?」
   安達は山内を一瞬睨む。

〇同・門外
   安達と山内が門から出て来る。
   屋敷を見上げる安達。
安達「変な家だな」
山内「そうですか?いかにも上級国民って感じですけど」
安達「この家には姑と嫁だけが残り、加賀美の血を引く人間は全て消えたって事か」
山内「はぁ……まぁ、そうですね」
安達「元々は赤の他人である姑と嫁に乗っ取られたとも言えるな」
山内「もしかして母親か嫁を疑ってます?」
安達「緑の職場に行くぞ」
   安達は足早に歩き出す。
山内「ちょっと待ってくださいよ~!」
   山内は安達を追いかける。

〇JPタワー・外観

〇タッチスタッフ・入り口
   「タッチスタッフ」の大きなロゴ。

〇タッチスタッフ・応接室
   机を挟んで座っている安達・山内と緑。
緑「忙しいんで、手短にお願いします」
山内「ご主人の事件を捜査しているのですが」
緑「だから何ですか?」
安達「山内。部下が失礼しました」
緑「ご用件は?」
安達「最近のご主人の様子はどうでした?」
緑「いつもと変わらなかったと思いますけど」
安達「最近喧嘩が多かったとお聞きしました」
緑「誰がそんな事を? お義母様ですか? もしかして野田さんが?」
安達「守秘義務がありますので」
緑「帰ったら野田さんにキツく言っておかないと」
山内「もしもお母様だったら?」
緑「厳重に抗議します」
安達「喧嘩していたのは本当なんですか?」
緑「そんな事はありません。良好でした」
安達「ご主人の不倫はご存知で?」
緑「知るわけがありません。青天の霹靂です」
安達「あなたともあろう方が?」
緑「はい?」
安達「こんな大きな人材派遣会社で役員を務めるような方ですから、とても優秀な方だとご推察します。そんな方が夫の不倫に気がつかなかったと?」
緑「仕事とプライベートは違いますから」
安達「確かにそうですね」
緑「もういいですか? 仕事がありますので」
安達「お忙しい中すみませんでした」
   緑はヒールを鳴らしながら出て行く。

〇ビジネス街
   歩く安達と山内。
山内「なんか、昨日の印象と違いましたね」
安達「何がだ?」
山内「昨日は母親の方が冷たく感じましたけど今日は奥さんの方が冷たい気がしました」
安達「悲しみ方には色んな形があるのさ」
山内「そんなもんですかね」
   安達はスマホで電話を掛ける。
安達「あ、お疲れ様です。加賀美の戸籍、調べてもらえますか? はい、はい。よろしくお願いします」
   山内は不思議そうな顔をしている。

〇加賀美ケミカル研究所・外観

〇同・面談室
   畑健吾(57)と安達と山内がいる。
畑「所長の畑です」
安達「北品川署の安達です」
山内「山内です」
   安達と山内は警察手帳を見せる。
安達「ここではどんな研究を?」
畑「主に、今までプラスチックで作られていた物を、樹脂で同じように作る研究が行われています」
山内「プラスチックでは駄目なんですか?」
畑「プラスチックの海洋汚染等、聞いた事ありませんか?」
山内「ああ、レジ袋!」
畑「そうです。プラスチックは自然にかえる事がありません。なので、自然にかえる事が出来る樹脂で、同じような物を作り、環境への負担を減らそうと言う研究を行っています」
山内「素晴らしいですね~」
畑「ありがとうございます。『化学は世界を救う』が、社長の口癖でしたから」
安達「その樹脂の研究に青酸系の薬品が?」
畑「はい。主に樹脂の合成に使われています」
山内「へー! そうなんですね!」
安達「最近薬品の管理で何か問題とかはありませんでしたか?」
畑「ありません。青酸系の薬品に限らず、劇薬や毒物に当たる物は、常に二人一組で扱うようにしています」
安達「さすがですね」
畑「ですが、その……」
安達「何か?」
畑「三ヶ月程前、社長が実験で残った薬品を、廃棄された事があったんです」
安達「加賀美さんが?」
畑「はい。我々でやっておきますからと言ったのですが、皆疲れてるだろうから任せろと言われて」
安達「そういう事はよくあったんですか?」
畑「我々を労って下さる事はありました。差し入れを下さったり、近くの温泉施設の料金を研究員全員分払って下さったり」
山内「太っ腹ですね~」
畑「でも、実験の後始末をして下さると言うのは初めてだったと思います」
安達「なるほど」
畑「会社はこれからどうなるのでしょうか?」
山内「と、言いますと?」
畑「加賀美ケミカルは社長あっての会社です。
社長を失って我々は一体どうすれば……」
安達「それは皆さんがお決めになる事です」
畑「そうですよね。すみません」
安達「社長が突然亡くなられたんですからね。パニックになるのも無理はありません」
畑「本当にいい方だったんです。熱心で、優しくて、女性に弱い所はありましたけど、そこも愛嬌のように感じていました」
   畑は涙を零す。
山内「いい人だったんですね」
畑「はい。我々には理想の社長でした」
安達「社長は研究所には一人で?」
畑「いえ、いつも秘書の渡辺さんと」
安達「渡辺さんと?」

〇道
   歩く安達と山内。
山内「つまり、どういう事です?」
安達「つまり、青酸カリを盗んだのは、加賀美か渡辺かって事だな」
山内「ほらー! やっぱり渡辺ですよ!」
安達「その可能性もあるし」
山内「あるし?」
安達「加賀美の自殺って可能性もある」

〇北品川警察署・取調室
   綾乃と安達が向き合って座っている。
   山内は安達の後ろにいる。
綾乃「社長の様子?」
安達「何か変わった所はありませんでした?」
綾乃「そう言えば、ソワソワしている事はあったかも」
安達「ソワソワ?」
綾乃「三ヶ月位前だったかな? やたらスマホを気にしている事がありました」
安達「スマホ?」
綾乃「新しい女が出来たのかと思って問い詰めたら、奥さんからの連絡を待ってるって」
安達「奥さん?」
綾乃「もしかして、離婚の話ですかね?」
安達「どういう事ですか?」
綾乃「社長、離婚するって言ってたんです」
山内「本当ですか?」
綾乃「昔は母親と違ってバリバリ働く奥さんが素敵に見えたけど、今はキャンキャン言うのが怖いって」
山内「自分勝手ですね」
綾乃「女はやっぱり愛嬌ですよ。男に愛されてナンボだと思いません?」
安達「人にはそれぞれ生き方があります」
綾乃「つまんない事言うのね。それよりいつになったら帰れるんですか?」
安達「あなたが犯人だと認めるか、真犯人がわかった時ですかね」
綾乃「じゃあせめてデリバリーさせてよ」
山内「デリバリー?」
綾乃「ここのご飯、まずいんだもん!」
   安達と山内はやれやれと言う顔をする。

〇同・刑事課
   安達と山内が入って来る。
山内「どういう神経してるんですかね」
安達「羨ましいくらい図太いな」
山内「なんであんな自信満々なんですかね?」
安達「単純に状況がわかってないんだろう」
山内「渡辺が犯人って証拠もないですしね」
安達「渡辺じゃないって事は……」
山内「まさか、自殺? でも動機は?」
   高田和之(48)が入って来る。
   高田は安達に書類を差し出す。
高田「頼まれてた戸籍だ」
安達「お! ありがとうございます」
   安達は書類を見る。
安達「なるほど。加賀美と政子の間に、法律上の親子関係はない、と」
高田「だな」
山内「つまりどういう事ですか?」
安達「加賀美の遺産の相続権は、緑にしかないという事だ」
山内「え、じゃあ」
高田「夫から離婚を切り出された緑が、愛人に罪を着せて殺した」
安達「一遍、緑の周辺を洗ってみましょう」

〇タッチスタッフ・面談室
   安達・山内が座っている。
   土屋瞳(29)が入って来る。
瞳「すみません。加賀美は外出中でして」
安達「いえ、構いません。あなたは?」
瞳「タッチスタッフ、総務部の土屋です」
   瞳は名刺を出す。
安達「土屋さんは緑さんと親しいんですか?」
瞳「業務上、関わる事は多いです」
安達「緑さんは、こちらではどんなお仕事を?」
瞳「加賀美は元々、システムエンジニアとして活躍していたんです」
安達「システムエンジニア?」
瞳「はい。人材を探している企業と、仕事を探している人材の相性を比べてマッチングするシステムを作ったんです」
山内「へぇ。すごいですね」
瞳「その功績が認められて役員に」
安達「ではコンピュータにはお詳しい?」
瞳「勿論です。私も前に相談した事があって」
安達「何をです?」
瞳「彼氏に浮気された時、彼のスマホのGPSを私に送信する方法を教えて貰いました」
山内「こえぇ」
瞳「後ろめたい事がなければ別に問題ないでしょう?」
山内「え? ああ、まあ、うーん」
安達「もし緑さんが浮気に気づいたら、どうすると思います?」
瞳「絶対許しませんよ。相手を探し出してとりあえず慰謝料でしょうね」
安達「旦那さんには?」
瞳「同じく慰謝料じゃないですか? それからプレゼントとかねだりそう」
安達「離婚はすると思います?」
瞳「しないですよ! 仕事と良妻の両立が売りで、雑誌とかにも出てたんですから」
安達「最近、緑さんに変わった様子は?」
瞳「加賀美は疑われているのでしょうか?」
安達「いえ。事件を調べる内の一環です」
瞳「特に変わった様子はありませんでしたよ」
安達「例えば、ご主人の不倫や、離婚等の話を聞いた事は?」
瞳「いえ。あ、でも」
安達「でも?」
瞳「弁護士に会いに行くって言っていました」
安達「それはいつ頃ですか?」
瞳「確か……三ヶ月位前ですかね?」
安達「その弁護士って誰だかわかりますか?」

〇平本弁護士事務所・入り口
   扉の窓部分に「平本弁護士事務所」。

〇同・面談室
   安達・山内が座っている。
   平本明里(53)が入って来る。
明里「弁護士の平本です」
安達「北品川署の安達です」
山内「山内です」
   安達と山内は警察手帳を見せる。
明里「ご用件は?」
安達「加賀美緑さんが、こちらに何かを依頼されていますよね?」
明里「守秘義務があるのでお答えできません」
安達「殺人事件を捜査しているんです」
明里「でしたら、捜査令状をお持ち下さい。そうすれば謹んでご協力いたします」
山内「ちょっとぐらい協力してくれてもいいじゃないですか。人が死んでるんですよ?」
明里「本当に必要な捜査ならば、裁判所が捜査令状を出して下さるでしょう?」
安達「緑さんは、不倫の慰謝料について相談に来たんですか? それとも離婚訴訟?」
   平本はにっこりと笑う。
明里「守秘義務がございますので」

〇道
   安達と山内が歩いている。
山内「何も教えてくれなかったですね」
安達「まあそりゃそうだな」
山内「緑は何を相談に行ったんでしょう?」
   安達はスマホを操作する。
安達「男女問題である事は間違いない」
山内「なんでですか?」
   安達は山内にスマホを見せる。
   平本がにっこりと笑った写真と「男女問題ご相談下さい」の文字。
山内「なるほど」

〇加賀美家・居間
   ソファに座る政子。その後ろに幸子。
   政子の手には飛行機の模型。
   机を挟んで座る安達と山内。
幸子「奥様が旦那様の不倫を?」
安達「知っていたかどうかわかりませんか?」
幸子「さあ。わかりませんねぇ」
安達「政子さんは?」
政子「私自身も知らなかった事ですので」
山内「そうですよね~」
   政子は飛行機の模型を撫でる。
安達「飛行機、お好きなんですか?」
政子「ええ、子供の頃から」
山内「へえ、素敵ですね」
安達「聡さんの本当のお母さんってどんな人だったんですか?」
政子「そんな事知ってどうするんです?」
安達「被害者の事は何でも調べておこうと」
政子「……当家の女中でした」
山内「女中!?」
政子「私が嫁いだ頃は、執事と使用人と、女中が数名おりました」
山内「時代劇みたいですね」
政子「今は幸子さんお一人で十分ですから」
幸子「ありがとうございます」
安達「どうして亡くなったんですか」
政子「……事故死でした」
安達「事故?」
政子「昔の事です。もういいですか?」
安達「あ、はい。すみません」
   政子は出て行く。
   政子の様子をじっと見る安達。

〇同・門前
   屋敷を見上げる安達と山内。
安達「な~んか隠してるなぁ」
山内「政子さんがですか?」
安達「事件に関わるのか、関わらないのか」
山内「関係ないんじゃないんですか?」
安達「とりあえず、緑だな」
   歩き出す安達と山内。

〇北品川警察署・刑事課
   事務椅子にだらしなく座る安達と山内。
安達「どうすれば緑が加賀美の不倫に気がついていたと立証できるんだ?」
山内「困りましたね」
安達「そこが嘘だったと証明できれば、緑を任意で引っ張れるのに」
山内「今、緑は加賀美の不倫を知らなかった事になってますもんね」
安達「緑はどうやって不倫を知ったんだ?」
山内「土屋さんはGPSって言ってましたね」
安達「それは浮気の気配があったからだろう」
山内「じゃあ気づいたきっかけではないのか」
安達「いや、待てよ。ああ!」
   安達は急に立ち上がる。
山内「ビックリした!」
安達「俺は馬鹿なのか!」
   安達は走り出す。

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