清水ワンピース

ふとした会話から「最後にスカート履いたのいつだったっけ?」となった。むしろスカート持ってた?


久しぶりにクローゼットを開けた。というか久しぶりにクローゼットを開けた時点でアウトだ。
え、私は普段何を着ているのだ?


ジャージだ。

仕事柄もあるが、ジャージにTシャツが普段着になっている。
コロナ禍で出かけることが減って特にそうなった。洗っては着てのローテーションなので、クローゼットを経由することがない。終わっとる。

出かけるのがコンビニかスーパーくらい、部屋着と普段着の境目が無くなったコロナ禍、「3本線やらロゴやら入ったオシャジャー(オシャレジャージ)着てればとりあえずどこにでも行けるんじゃね?」と思った。


オシャジャー着てればとりあえず気は遣っている感が出るし、値段もまあまあするので罪悪感もない。そうやってここ3年ですっかりオシャジャーが私の普段着になってしまったのだ。


とはいえ、コロナ前もそんなにスカートを履いていた記憶がない。スマホのアルバムを巡ってみたが、昨年の息子の入学式でさえパンツスーツで出ていた。え、私いつスカート履いた????



それは2022年6月にたった1回ありました。発見しました。
いや去年やんけ!!!!!意外に近々。いや数年に1回の時点でダメなんか。


それは推しのキヨ様(歌手の前川清さん)のファンクラブイベントの際。ツーショット写真を撮れるということで、洋服を新調したのだ。



普段はユニクロしまむらにしか行かない我が、アミュプラザなんかオシャレスポットまで出向き、若い時でも敷居が高くて入れなかった「ビームス」に足を踏み入れた。なぜかって?


店頭に並んでいたワンピースがとても素敵だったのだ。


「推しに会いに行く時はデートに行く気持ち、勝負服で行くんですよ!!!!」とビームスのお姉さんが力説してくれた。私もツーショットはカップルのように写りたい。意見は合致した。いま我らはワンチーム。合戦の前のような一体感と覚悟。法螺貝吹いちゃう!ブォォォォォォ!!!


私が一目惚れしたのは濃いベージュの、ノースリーブのワンピースだった。


同行してくれたオシャな親友が「服を買う時の試着はマスト!!!」と言うてくれていたので、着てみた。普段お目にかかることのない高級感あふれる試着室に誘われながら、「こんなたっけえ服に袖を通すなど!?」とビビっていたが、腹を括り思い切って着てみた。


思った通り、デザインもラインもとても素敵!!!!


なのに、私のたくましい二の腕が悪目立ちする。これではデートどころかプロレスマッチである。キヨ様を倒しにかかってしまう。こんな勇ましいスタイルでは、とても推しに会いに行けない。


しかし諦めるには素敵すぎるワンピース、一目惚れでとても気に入ったので、「これはもう体をワンピースに合わせに行くしかない!!!!」と一念発起してそれを買った。1万5千円くらいした。そんな高い洋服を買ったのは独身の時以来だ。

主婦の一万超えは清水だ。ああこのワンピース1枚分で良い肉どんだけ買えるなとか外食行けるなとかグルグルと考えながら、ビームスの立派な紙袋を持って歩く自分の姿がなんだかおこがましく、でも嬉しくて、チグハグした感覚だった。



可愛い私の清水ワンピースちゃん。


良いハンガーを使い、いつでも見える位置に掛けた。

そして比較的知ってる曲が多くて踊りやすい、YouTubeの動画(タビワダンスというチャンネル)と共に踊った。死ぬほど踊った。必死に踊った。毎日1時間は踊った。


2ヶ月ほど続けた。
結果、私は清水ワンピースが着こなせるくらいに痩せた。高かったワンピースと推しへの執念である。




イベント当日、念願のワンピースに身を包み、ウキウキと博多へ向かった。


「そう、私はいま、15000円のビームスの清水ワンピースを着ています!!!!」博多駅で叫びたかった。熊本駅で叫んだら警備員来そうだけど、博多駅なら変な人が沢山いたので大丈夫そうだったが、やめた。


清水ワンピースで闊歩すると気持ちが良かった。ちょっとオシャレさんの仲間入りしたような高揚感。普段の端っこ歩く私とは違い、振る舞いも堂々たるもの。博多駅の道の真ん中を歩いてやった。てか広すぎるんで真ん中がどこなのかよくわからなかったけど,なんとなく真ん中寄りですうん。スタイルと洋服で見える世界が全く違った。


キヨ様と念願のツーショット写真。にっこりと笑うキヨ様と、清水ワンピースに身を包んで気を大きくしていた私はどこへやら、推しが隣に居る緊張でチビりそうな、こわばった笑顔のおばさんが写っていた。でもまるで夫婦のような写真が撮れた。当初の希望はカップルだったけど、年齢的にカップルではなく熟年夫婦に近かった。でも本当に嬉しかった。夢のような1日だった。



その後も調子に乗った私は体型キープと思い、日々少しずつでもYouTubeダンスを踊った。意識高い女史になった気分。SNSのファスティングや痩せるガードル等々を見かけるたび「え、痩せたいなら動く以外選択肢無くない????」などと上から目線である。そして自分も言うほど痩せてない。


しかしある日、左足が地味に痛み始めた。改善しないまま1ヶ月ほど続いたので観念して整形外科に行った。



「左足の薬指、疲労骨折してますね。部活生がなりやすいんですけど、何か運動しました????」


「えっと、推しに会うために痩せたくてYouTubeダンスを踊りまくりました」


「……??????ブッフォwww」


以来、「とにかく安静にしてね〜ブフォフォ笑」の先生の言葉通り安静にした。折れてるとなると急に余計痛くなったから。そんなもんだ。


と同時に清水ワンピースの出番も絶望的となった。

そう、お別れしたはずのあの子……


立派な二の腕が帰ってきたのだ。

巣立ったはずの二の腕は、より立派になり帰ってきた。アマゾンの奥地から帰って来なくて良いのに。まさかの二の腕リターンズ。そんな人気なかったよ?ニーズもなかったよ?何で帰ってくるん……


今回クローゼットを覗くと、可愛い清水ワンピースは静かに上品に掛かっておられた。
次回の出番はいつだろう?てか出番来るのかな?もうメルカリ考えるべき?いやいや!

着られなくても私の女子…女史の象徴として、大事に持っておきたいアイテムなのである。いつかまた推しに会いに行くかデートに行くかの出番待ち。早くその日が訪れるよう願う。


でもまず着るために踊らないといけないので、決まったらなる早で連絡下さい。
ん?同じようなこと前に書いたな?

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