神々の賭博場(2)
「相変わらずの酒浸りか」
私はフライヤーを飛ばしながら言った。
「そう言うあんたは、相変わらずバケツをかぶっている」
ヘルメスは私のコズミックヘルムを「バケツ」と呼ぶ。遠目から見れば、確かに銀色の円筒形のバケツか何かに見える。
しかし、近くで見れば、両目と口元に開いた穴、そして、表面に薄く刻まれた幾何学的な量子回路が見て取れるだろう。
「まったく、今に始まったことじゃないけどさ、こんな所に来てまでその恰好はどうなんだ」
ヘルメスは酒で赤くなった顔を、大げさにしかめて見せた。
今の私は、コズミックヘルムの他は宇宙服兼用の赤いバトルスーツ、そして腰の万能ベルトに左手のオメガ級アサルト・ガントレットといういで立ちだ。
つまり、いつもどうりだ。
「ドレスコードがあるとは聞いてないな」
私は受付中のベテルギウス人の後ろに付きながら言った。
「中に武器は持ち込めないぞ」
「かまわない、ここで争いを起こすつもりはないからな」
「良かった。あんたにもまだ正気ってやつが残ってたか」
地球が消滅して後、1億年近くアルコールの抜けた時がないという男に言われたくは無かったが、私は黙っていた。
私もあのとき以来、正気だと言い張れる自信は無いのだ。
「サインと、個体証明をお願い致します」
受付のドロイドが無機質に言った。
物思いにふけっている内に、私の番が来ていたのだ。
「個体証明はDNAでいいかね?」
ドロイドは「結構です」と答え小さな針を指しだした。
私は、指先をその針に軽く刺して受付に返した後、受付帳に「ジョナサン・マクニール」と署名した。
細々した注意事項の後、武器類を預けると、私の左に、私がくぐれるくらいのゆらめく赤い輪が現れた。
「ご利用ありがとうございます。「休息場」は、そのゲートを抜けた先となります。」
ドロイドの示すまま、私はフライヤーごと赤い輪をくぐり抜けた。
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