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【第155回】日本伝統の庭園文化「雨庭」の雨水流出抑制機能


質問 「雨庭」とは何ですか。

概要

 ➀日本の庭園文化「雨庭」
 ②「雨庭」の雨水流出抑制機能
 ③「雨庭」の考え方の応用

解説

➀日本の庭園文化「雨庭」

 「雨庭」とは、地上に降った雨水を、一時的に貯留し、ゆっくりと地中に浸透させる構造を持った植栽空間です。
 雨水を地中に浸透させやすくするため、植栽の周辺に、砂利等を敷き詰め、砂利の隙間に雨水を貯留させるとともに、様々な植栽もセットで植えたりします。
 例えば、1392年に足利義満が創建した相国寺では、この「雨庭」の仕組みを取り入れて、庭園に、敷き詰めた小石等で流れを作成していることで有名です。庭園には普段は水がありませんが、雨が降ると水が貯留され、本物の流れのように見えるわけです。

②「雨庭」の雨水流出抑制機能

 この「雨庭」は、デザイン性にも大変優れており、日本の寺社等で古くから作られてきましたが、この「雨庭」には、実は、雨水を一時的に溜めることで河川の氾濫等を抑制する機能(雨水流出抑制機能)があります。
 「雨庭」は、雨水を集水し、貯留させ、そして、貯めた水をゆっくりと地中に浸透させることから、そのような機能があるわけですが、近年は、京都市等で、水害解決のための方策としても注目されています。
 コンクリートやアスファルト等の多い都市部では、雨は、地中に浸み込むことなく排水されることが多く、豪雨の際には、下水道の処理能力を超え、河川への排水ができず、冠水等の被害が出ますが、この「雨庭」の雨水流出抑制機能を利用して、対応しようというのです。実際、道路脇等の公共用地を中心に雨庭の整備が実施されています。
 このような「雨庭」は、ハード及びソフトの両面において、生物の生息場や良好な景観の形成等に有効な「グリーンインフラ」の一つであるとされています。

③「雨庭」の考え方の応用

 地区防災計画学会の磯打千雅子理事(香川大学准教授)たちは、この「雨庭」の考え方を踏まえて、「雨庭」と同じように雨水流出抑制機能のある雨水タンクの各家庭での設置による流水抑制効果の研究を行っています。
 例えば、香川県高松市春日町は、低位地帯で最大浸水想定区域の割合が48.3%となる地区ですが、この地区での実験によると、雨水タンクの設置によって、雨水の流出抑制効果や節水節約効果が認められ、地域全体で取組が広がれば、より効果が得られることが判明しています。そして、そのためには、雨水タンクという住民が利用できるハード対策とコミュニティにおける水害への意識が重要であるとされています。

文献
・中村公貴・磯打千雅子,2022,「災害対策による副次的効果に関する研究―高松市における雨水タンク設置効果の分析―」日本災害情報学会第24回大会資料.
・磯打千雅子,2023,「関東大震災から100年時間と空間の視点から地区防災計画を考える」2023年12月9日地区防災計画学会シンポジウム(第44回研究会)資料.
京都市情報館HP


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