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【第75回】地区防災計画学会創設8周年 設立総会・記念シンポジウムを振り返る

質問 地区防災計画学会が創設から8周年を迎えるんですか。

概要

 ①2022年6月29日が地区防災計画学会創設8周年
 ②2014年の設立総会・記念シンポジウム
 ③室﨑益輝会長講演「地区防災計画学会の設立に当たって」要旨
 ④シンポジウム登壇者の発言要旨

解説

①2022年6月29日が地区防災計画学会創設8周年

 2022年6月29日(水)に地区防災計画学会は、創設8周年を迎えます。
 コロナもありましたので、大々的な行事の開催は見送っておりますが、ここでは、2014年の学会設立時の模様を振り返りたいと思います(以下、肩書は当時のものになります。)。

②2014年の設立総会・記念シンポジウム

 2014年6月29日(日)に大阪市西梅田のザ・リッツ・カールトン大阪に隣接する「ハービスPLAZA」で地区防災計画学会設立総会・記念シンポジウムが開催されました。
 森下俊三最高顧問(同志社大学客員教授)、金井萬造最高顧問(立命館大学教授)の開会挨拶からはじまり、室﨑益輝会長(神戸大学名誉教授)の記念講演「地区防災計画学会の設立に当たって」が行われました。
 また、「地区防災計画の可能性と今後の在り方」と題して、矢守克也副会長(京都大学教授)の司会の下、室﨑益輝会長、小出治理事(東京大学教授)守茂昭理事(都市防災研究所上席研究員)、堀口浩司理事(地域計画建築研究所副社長)、西澤雅道会長代理(内閣府)が登壇して、パネルディスカッションが行われました。
 以下、「地区防災計画学会誌」第1号に掲載された記事(新建新聞社作成)を踏まえつつ、学会に残された当時の記録も参考に、記念講演とパネルディスカッションの要点を振り返ってみます。
 8年前の議論になるわけですが、現在の地区防災計画学の最新の議論にそのまま通じる発言が多々みられます(詳細は、『地区防災計画学会誌』第1号参照)。

③室﨑益輝会長講演「地区防災計画学会の設立に当たって」要旨

 地区防災計画については、①コミュニティベース・地域密着という視点、②ソーシャルキャピタル(社会資本)の視点、③ボトムアップによる取り組みが重要。
 これら3点には、共通点もあるが、全体のニュアンスは異なるもの。
 ①コミュニティベースとは、自分たちの街は自分たちで守ること。溺れかかっている人が目の前にいた時、近くにいる人しか助けられない。こうした自衛の精神が地区防災計画づくりには重要。
 ②ソーシャルキャピタルは、社会全体が安全になるためには、ハード整備だけでなく、コミュニティの力が不可欠ということ。お菓子のモナカの理論に例えると、モナカには皮とアンコがあるが、まちづくりの場合は、皮は幹線道路等の社会インフラ、アンコは路地裏の多様なまちづくり活動。この両者によって良質なまちができあがる。防災にも、皮とアンコの両方が必要。ダムや堤防だけを取り上げ必要性を議論するのではなく、アンコとなる防災活動を合わせて、バランス良く質を高めることが重要。
 ③ボトムアップは、市民参加、官民連携等のこと。行政が一方的に推し進めるのではなく、市民自らが考えて共助を達成する必要。阪神・淡路大震災の発生までは、防災は、行政を中心とするトップダウン型によって進められ、公助の責務とされてきた。防災会議のメンバーには公的機関しか入れず、NPOやボランティア等は入ることができなかった。しかし、住民の命や安全を守る上で主体が誰かを考えれば、行政だけでなく、ボランティア、自治会、NPO、企業、地域住民等が関わっていく必要がある。コミュニティ防災は、主人公が一つであってはならないし、各々が対等の立場で責任と権限を持って取り組む必要。そのため、トップダウンとボトムアップの両方を融合させることが重要。
 今後、地区防災計画の推進に当たり、特殊性と普遍性、多様性と一般性の整理が課題。地区ごとに、地形、産業構造、文化、住民の性質も多様。そのため、地区防災計画は、全国一律の金太郎飴のようなものではなく、各地区の特殊性を反映させる必要。しかし、好き勝手に甘い計画を認めていけばレベルの低い計画が多くなる。そこには、一定の規律とシステムが必要。
 住民が主体的に考え、それをボトムアップによって吸い上げ、専門的な助言を加えて実効性のある計画にしていくことが重要。各地区の個性を生かしながら、防災力を伸ばすアドバイザーやサポーター等の質も問われている。住民のさまざまな提案に対する行政の受け止め方も問われている。各地域に一人ずつ専門家が入って行政を交えて議論していくような仕組みでないと住民主体の地区防災計画は実現できない。そのためのプラットフォームを学会が担っていくべき。

④シンポジウム登壇者の発言要旨

矢守克也副会長(京都大学教授)
 先日、阪神・淡路大震災で火災による大きな被害を受けた神戸市長田区真陽地区の小学校の体育館で、防災福祉コミュニティが主体となって、津波も含めた災害について考える会合があった。海側に大きなスーパーマーケットがあるが、ここには、大きなカートが置いてあって、そのカートで、高齢者を避難させる計画を立て、そのための訓練や避難方法を議論していた。津波到達時間を60分程度と想定して対策を練っていたが、発災時は誰もカウントしていないので、津波到達までの時間を知らせてくれるようなシステムを開発したいという提案もあった。企業を中心とした地区防災のモデルにもなりそうな取組。
 この会合の中で、70代のおばあちゃんが突然椅子から倒れた。周りの人や消防の方が応急措置をして救急車を呼んで病院に搬送したので、大事には至らなかった。まわりの人が皆顔見知りで、おばあさんのかかりつけ医や、心臓にトラブルを抱えていること等を知っていて、救急の方に伝えていた。このように顔が見え、支え合える地域の大切さを改めて実感。

小出治理事(東京大学教授)
 地縁によるコミュニティベースの防災活動は重要で、多様な団体においてさまざまな活動が実施されている。それを地区防災計画の仕組みの中で、オーソライズしていく意味について、つまり、地区防災計画として格上げする必要性について整理する必要。地縁を超えたつながりもたくさんある。発災時には、NPOや国際的なNGOが初動対応の段階で入ってくることもあるので、うまく連携していくことが重要。
 地区防災計画は、事前の準備、初動(ファーストレスポンス)、復旧・復興期の3つの流れの中で役割を果たしていく必要だが、現状では初動(ファーストレスポンス)に重点が置かれ、偏りすぎている。この点はもう少し均していった方がいい。良い事例を少しでも多く作っていくことが学会の重要な役割。

守茂昭理事(都市防災研究所上席研究員)
 都市防災研究所では、東京駅周辺防災隣組という東京駅近くにある企業の防災活動の事務局を務めている。この地区は、住んでいる人が非常に少なく、モナカに例えるとアンコが非常に薄いエリアで、災害に立ち向かうベクトルが起きにくい。このアンコを練る活動を10年ぐらい継続中。アンコになりにくい希薄な部分、地縁が薄い部分をどうやってコミュニティにつなげていくかをICT等も活用しながら工夫中。
 地域で防災活動を支援されている方は、同じような思いが多少たりともあるだろうが、我々の活動は、本質的には勝手にやっていることに過ぎない。それに何かの庇護があることは、活動している人間にとっては好ましいこと。一方で、どういう基準で認定してもらえるのか等の議論が今後出てくる可能性。活動している人にとって、条件や基準よりも、懸命さを認めてもらいたいという思いがある。ほどほどに基準を作っていただき、適用は柔軟にということを期待したい。

堀口浩司理事(地域計画建築研究所副社長)
 「地区防災計画ガイドライン」を作るとき、全国の先進事例をヒアリングして感じたことは、祭りの賑やかな場所や、小学校の運動会に地域の方がたくさん集まるような地区は、防災活動も集まりが良く熱心であるということ。地域の団結力があるところは、防災活動も活発に行える土壌がある。
 地域の将来像を自分たちで議論できる環境が整っている地区は、被災しても、復興への議論が早い。地区防災計画は事前復興の入り口になると期待。こうした活動から将来の都市空間をどう考えることができるかということについても期待。
 都市計画の世界では、建築協定や景観協定等住民自らが地域の中で建物の建て方等をルール化する制度がある。当初は自分たちのルールを市長に認知してもらうというような話だったが、今は、法的担保を求める動きに発展。地区防災計画も、どういう単位で計画を作るのかが課題。特に初期は、いろいろなあり方、可能性を発掘して発信する必要。

西澤雅道会長代理(内閣府)
 2014年度版の防災白書に、「共助による地域防災力の強化」と題して特集が組まれ、地区防災計画制度のことが大きく取り上げられた。この中で、内閣府が行った調査で、お祭り等の地域活動が活発な地区ほど、防災活動に積極的に取り組まれていることが紹介されている。
 阪神・淡路大震災、東日本大震災を経験して、地域コミュニティの防災に対する関心が高まっているが、地域では自主防災組織が活躍していても、実際に活動をしている人は役員等に限られているケースが多い。役員が変わってしまったら活動が止まってしまったり、思うようにいかなくなったりもする。こうした中で町内会の活動をもっと重層化していくための手段として地区防災計画制度がある。活動が重層化していけば、行政との関係も密接になり、自分たちで行う限界も見えてくる。その中で、自分たちの計画を市町村の計画と連携させていくことが必要になった時、この制度が、1つのツールになると期待。行政がトップダウンで計画を進めるのではなく、ボトムアップで実際に防災活動に取り組んでいる人、取り組みたいと思っている人に、活用していただくことが重要。

室﨑益輝会長(神戸大学名誉教授)
 地区防災計画として制度化するということは、住民等に権利と責任を与えること。
 「住民が自由にやりなさい。」というのではなく、行政がそれをサポートし、実現のため責任も持つことも重要。
 地縁という概念が変化しているが、住んでいる人たちだけのコミュニティという概念は超えていく必要。住んでいる人と事業所、NPO、ボランティア、行政等いろんな人が集まって、新しい共同体的概念を作っていくことが必要。
 地区防災計画は、応急対応だけでなく、事前準備や復旧・復興まで広く視野を広げ、ソーシャルキャピタルという幅広い概念の基礎力にしていくことが重要。

文献
記事「地区防災計画学会が設立記念シンポジウム住民主体の防災活動」『地区防災計画学会誌』第1号
地区防災計画学会設立総会・記念シンポジウム(地区防災計画学会HP)


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