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【第93回】日本海溝・千島海溝地震特措法改正に伴う動き

概要

 ①法改正の概要
 ②日本海溝・千島海溝地震特措法の仕組み
 ③日本海溝地震の想定死者数最大19万9,000人
 ④地域指定の答申及び基本計画の変更
 ⑤地域特性にあった地区防災計画の作成が必要

解説

①法改正の概要

 2022年5月13日に日本海溝・千島海溝地震特措法の改正法が成立し、6月17日から施行されました。
 千島海溝と日本海溝は、北海道から岩手県の沖合にありますが、この海溝部分で発生する巨大地震と津波の防災対策を進めるのが狙いです。改正の結果、この措置法による地震・津波対策は、南海トラフ地震特措法による対策と同程度に強化されました。

②日本海溝・千島海溝地震特措法の仕組み

 この特措法は、2004年に成立した法律ですが、国、自治体、民間事業者等が必要な計画を作成し、これらに基づき、地震防災対策を推進する仕組みになっています。具体的には、国の中央防災会議が作成主体となって「基本計画」を作成し、国の日本海溝・千島海溝地震対策の基本的方針及び基本的な施策等について記載し、これを受けて、府省庁、道県、市町村等が作成主体となって、「推進計画」を作成し、避難場所・避難路等緊急に整備すべき施設の整備等について記載することになっています。そして、市町村は、これに基づき、「津波避難対策緊急事業計画」を定め、避難施設・避難路等の整備や集団移転促進事業等について記載することになっています。また、病院、鉄道事業者等の民間事業者等は、「対策計画」を作成し、津波からの円滑な避難の確保について定めることになっています。

③日本海溝地震の想定死者数最大19万9,000人

 2021年12月に政府が新しく公表した地震の被害想定によりますと、北海道厚岸町付近で震度7、北海道えりも岬から東側の沿岸部では震度6強(千島海溝モデル)、青森県太平洋沿岸部や岩手県南部の一部で震度6強(日本海溝モデル)が発生するとされています。その推計される津波高については、北海道えりも町沿岸で約28m(千島海溝モデル)、岩手県宮古市沿岸で約30m(日本海溝モデル)ともいわれています。
 そして、冬の深夜にマグニチュード9クラスの巨大地震と大津波が発生した場合、最大の死者数は、日本海溝地震で約19万9,000人、千島海溝地震で約10万人と推計されています。
 ただし、津波避難タワーをはじめとする津波避難施設の整備、発災後の迅速な避難により、犠牲者を大幅に減らすことができるとされています。

④地域指定の答申及び基本計画の変更

 そこで、改正法では、科学的に想定し得る最大規模の地震を前提に、内閣総理大臣が防災対策の「推進地域」を指定し、その中でも津波避難対策を特に強化すべき地域は「特別強化地域」に指定する仕組みを導入しました。この「特別強化地域」では、積雪や寒さなど寒冷地特有の課題について特に配慮しなければならないと新たに明記されました。
 「特別強化地域」では、「津波避難対策緊急事業計画」を作成することができ、同計画に基づき実施される津波避難対策緊急事業のうち、津波からの避難場所と避難経路の整備費用に対する国庫負担割合がかさ上げされるほか、集団移転促進事業では、農地転用の許可要件の緩和等が行われます。
 同法は、2022年6月17日に施行され、同法に基づく地域指定等の手続が進められ、9月30日に中央防災会議において、地域指定の答申及び基本計画の変更が決定され、新たに10年間で達成すべき減災目標の設定等が行われ、想定される死者数を概ね8割減少させることとなりました。

中央防災会議第42回資料(2022年9月30日)

⑤地域特性にあった地区防災計画の作成が必要

 政府の想定で最大の被害が発生するとされている「冬の深夜」は、寒冷地では積雪や凍結等によって避難が容易でないことも予想されます。
 被害を減らすためには、法改正を踏まえた行政による支援はもちろんですが、各コミュニティにおいても、事前に地域特性や社会特性にあった住民の相互助け合いの仕組みを構築するとともに、住民の共助による自発的な地区防災計画の作成が重要になっています。

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