【第54回】個別避難計画【21年災害対策基本法改正】
質問 21年の災害対策基本法改正で盛り込まれた個別避難計画について教えてください。
概要
①個別避難計画とは
②21年の災害対策基本法改正の背景
③個別避難計画と地区防災計画の性格の違い
解説
①個別避難計画とは
個別避難計画とは、高齢者、障害者等の避難行動要支援者ごとに、避難支援を行う方や避難先等の情報を記載した計画のことです。
頻発する自然災害に対応して、2021年5月の災害対策基本法改正によって、個別避難計画の作成が市町村の努力義務とされました(災害対策基本法第49条の14)。
②21年の災害対策基本法改正の背景
東日本大震災の教訓を踏まえた2013年の災害対策基本法改正では、避難行動要支援者名簿の作成が、市町村の義務とされました(災害対策基本法第49条の10)。そして、約99%の市町村において、この避難行動要支援者名簿が作成されるようになりました。
しかし、近年の災害における犠牲者のうち、65歳以上の高齢者が占める割合が高くなっていることが判明しました。例えば、2019年の台風19号で亡くなった方の約65%、2020年の九州豪雨で亡くなった方の約79%が高齢者でした。
そのため、自ら避難することが困難な高齢者・障害者等の円滑かつ迅速な避難の確保のため、個別避難計画の作成を一層推進することになりました。この個別避難計画は、一部の市町村において作成が進められていましたが、全国的に作成を推進する観点から、当該計画の作成を市町村の努力義務として、災害対策基本法に規定することとしました。
この法改正により、市町村(公助)には、避難行動要支援者の名簿作成にとどまらず、要支援者の一人ひとりの状況の把握と個別避難計画の作成が求められるようになったのです。
③個別避難計画と地区防災計画の性格の違い
コミュニティや地元企業を作成主体とした、自発的な「共助」の取組である地区防災計画制度(災害対策基本法第42条第3項)と比較しますと、この個別避難計画は、市町村という「公助」による努力義務のある計画制度になりますので、作成主体を含めて法的な性格が大きく異なります。
防災の現場で、実際に防災活動を実施するための人的資源等が限られる中で、自治体によっては、両計画を連携させる試みが実施されている一方で、どちらの計画づくりに力を入れたらいいのかというような悩みも出ています。
今後、法的な性格が異なる両計画制度が、発災時に現場でどのように連携していけるのかについて注目が集まっています。
21年災害対策基本法改正の概要(内閣府HP)
避難行動要支援者の避難行動支援に関する制度的な流れ(内閣府HP)
文献
・室﨑益輝・矢守克也・西澤雅道・金思穎編,2022,『地区防災計画学の基礎と実践』弘文堂.
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