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【第16回】地区防災計画モデル事業の成果

質問 地区防災計画学会の地区防災計画モデル事業の対象地区ではどのような成果が出ていますか。

概要

 地区防災計画学会地区防災計画モデル事業の対象地区での成果については、以下の3点に整理できます。
 ①地区防災計画モデル事業は、当学会所属の担当教員の指導により2020年度は9地区で実施
 ②コロナ禍で難航した地区もあったが、地区防災計画の素案が3地区で作成
 ③詳細は地区防災計画学会誌掲載の論文や予稿参照

解説

①地区防災計画モデル事業は、当学会所属の担当教員の指導により2020年度は9地区で実施

 2020年度からYahoo!基金の支援により開始された地区防災計画学会地区防災計画モデル事業は、モデル地区において、災害対策基本法に基づく地区防災計画の策定を行い、地域コミュニティの共助と行政の公助を連携させ、大規模広域災害に備えて、住民主体の地域防災力の底上げを図るためのモデルづくりを目的としたものです。
 具体的には、地区防災計画学会に所属する正会員である大学教員を通じて、地区防災計画づくりの支援を行い、事業の対象地区で、地区防災計画づくりが促進されるような取組を行うこととしています。この地区防災計画づくりによって、モデル地区の住民が災害に備えることができるようになるだけでなく、地区防災計画を住民主体の防災の効果的なツールとして活用して、日頃から地域活動の中に防災活動を取り入れ、自発的な防災活動に関する意識が醸成されることが期待されています。
 災害対策基本法では、コミュニティで住民等が地区防災計画の素案を作成し、それを市町村防災会議に提案し、市町村地域防災計画の中に書き込むという手続が法定されていますが、このモデル事業では、モデル地区において、地区防災計画の素案を作成し、市町村の防災会議に「計画提案」ができる状態にするとともに、そのプロセスを再現性も意識して学術的に分析し、事例の横展開を図りたいと考えています。

②コロナ禍で難航した地区もあったが、地区防災計画の素案が3地区で作成

 このモデル事業の成果を測る指標としては、「計画提案」を行うレベルにまで達した地区防災計画の素案の数、それから、モデル地区の地区防災計画づくりの分析を通じて執筆された学術論文の件数、関係シンポジウムの開催件数等があげられます。
 20年度事業を振り返りますと、地区防災計画の素案は、宮城県気仙沼市大浦地区、大阪府堺市美木多校区及び大阪市淀川区新東三国地区で作成済となり、21年度には、この案を市町村防災会議にかける予定になっています。また、三重県紀宝町鮒田地区は、21年度には、さらに案の高度化を図る方向で検討が進められています。なお、20年度事業については、担当教員によって、「地区防災計画学会誌」に関係する論文7本、予稿5本等が掲載されたほか、関係シンポジウム等2本が開催されました。
 20年度事業は、本モデル事業による支援が契機となって、各モデル地区において、地区防災計画づくりへの取組が活発化しました。コロナ禍の中で、住民が移動したり、集会を行うことが難しくなっている地区が多かったものの、オンラインでのやり取りによって代替する等の工夫がなされている地区が大半でした。一方で、コロナの感染を防ぐという観点から、地区防災計画づくりをはじめとする人が集まるコミュニティ活動に慎重な地区もありました。つまり、地区によって取組に格差が発生しており、そのようなコロナ禍の中でも地震、水害等が発生したため、コロナ禍での避難にも注目が集まりました。今後、コロナ禍での分散避難要配慮者支援避難所運営、ICT活用等に注目して対応を検討する必要があると思われます。
 なお、本事業は、Yahoo!基金に支援いただき、関係者に視察等をいただいたところ、地区の活動の励みになり、活動が予定よりも早く進む傾向が見られました。また、各地区の取組をNHKや新聞をはじめとするマスコミに取り上げていただいたことも活動の大きな励みになったようです。

③詳細は地区防災計画学会誌掲載の論文や予稿参照

 前述の20年度の地区防災計画学会での地区防災計画モデル事業を担当した教員等による論文、予稿、シンポジウムの記録(印象記)等は、地区防災計画学会誌第19号~第22号に掲載されています。具体的には、以下の論文等が該当しますので、ぜひ御覧ください(掲載号順)。

・磯打千雅子(香川大学)ほか 「極端な社会環境の変化に適応可能な地域防災活動のあり方 ―平成30年7月豪雨災害被災地の取組事例を中心に―」(査読論文)『地区防災計画学会誌』19号.
・室﨑益輝(兵庫県立大学)ほか「2020年度地区防災計画モデル事業について-中間報告概要-」(論文)『地区防災計画学会誌』20号.
・小山真紀(岐阜大学)「関市武儀地域における防災勉強会と防災訓練計画づくり」(予稿)『地区防災計画学会誌』20号.
・中野元太(京都大学)ほか「防災教育推進校の閉校に伴う地域防災活動への影響に関する研究(2)―防災ミュージアムの展望―」(予稿)『地区防災計画学会誌』20号.
・加藤孝明(東京大学)「防災の根幹問題とその対応としての災害時自立生活圏の構築」(予稿)『地区防災計画学会誌』20号.
・田中耕司(大阪工業大学)ほか「生活防災を通じた防災意識の変化とそれに基づくイベントの定着と防災を意識しない取組への展開」(予稿)『地区防災計画学会誌』20号.
・鈴木猛康(山梨大学)ほか「土砂災害警戒区域のオーダーメイド警戒避難システム」(予稿)『地区防災計画学会誌』20号.
・金 思穎(専修大学)「地区防災計画学会第7回大会印象記 ポストコロナ時代のコミュニティ防災」(印象記)『地区防災計画学会誌』21号.
・鈴木猛康(山梨大学)「土砂災害における自主避難を促進するための地区防災の試み―西桂町下暮地地区の取組み―」(査読論文)『地区防災計画学会誌』21号.
・矢守克也(京都大学)ほか「「クロスロード」を用いた〈二者択一〉の克服―新型コロナ感染症と南海トラフ地震の臨時情報対応をめぐって―」(査読論文)『地区防災計画学会誌』21号.
・生田英輔(大阪市立大学)ほか「都市域における地域活動協議会による地区防災計画の策定―大阪市淀川区新東三国地域の取り組み―」(査読論文)『地区防災計画学会誌』22号.
・小山真紀(岐阜大学)「関市武儀地域における地区防災計画に向けた取り組み」(査読論文)『地区防災計画学会誌』22号.
・西田佳弘(大阪市立大学)ほか「段階的な安否確認・避難システム形成に関する考察―堺市南区美木多校区におけるケーススタディ―」(査読論文)『地区防災計画学会誌』22号.

参考

2020年度地区防災計画モデル地区(担当教員・筆頭教員HP)一覧

1 大阪府大阪市淀川区新東三国地域
生田英輔 大阪市立大学准教授)

2 岡山県倉敷市真備町川辺地区
磯打千雅子 香川大学准教授)

3 静岡県沼津市戸田地区
加藤孝明 東京大学教授)

4 岐阜県関市武儀地域
小山真紀 岐阜大学准教授)

5 山梨県都留郡西桂町下暮地
鈴木猛康 山梨大学教授)

6 三重県南牟婁郡紀宝町鮒田地区
田中耕司 大阪工業大学教授・竹之内健介 京都大学准教授)

7 高知県高岡郡四万十町興津地区
中野元太 京都大学助教・矢守克也 京都大学教授)

8 大阪府堺市南区美木多校区
西田佳弘坊農豊彦 大阪市立大学特別研究員)

9 宮城県気仙沼市大浦地区
室﨑益輝 兵庫県立大学教授・小島一哉 大阪市立大学特別研究員)

閑話

 そろそろお正月も近くなってきました。昨年、非常食用に寒鯖の缶詰を大量に購入しておいたのですが、お正月に食材が足りなくなって食べてみたところ大変美味しいので、そのまま全て食べてしまいました。
 これも「生活防災・結果防災」でしょうか。


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