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「真昼のユウレイたち」岩瀬成子・作ブックレビュー

幽霊が出てくる小説は苦手だ。
だってたいがいホラーだから。
ホラー小説は、とんでもないレベルの恐怖を追体験させてくれるものだから読むとしんどい思いをする。
それなのに読み始めたら最後、恐怖の結末を知りたいが故に手を止められない。
結果、しばらくの間お風呂では鏡を直視できなくなるし、
寝るときは仰向けオンリーを強いられる。
深夜に起きたくないから水分はあまりとれないし、物音にも敏感になる。

幽霊に怯えるのはなぜかいつも夜だ。

さて、今回の作品。
「真昼のユウレイたち」
岩瀬成子さんという児童文学作家さんの作品。
だから絶対に優しくないわけがない。安心安全、心の栄養お墨付き。

タイトルからもそれが伝わる。
真昼。
この真昼という単語が夜のこわ〜い幽霊とは違うことを伝えてくれている。
そしてユウレイ。
幽霊、だとおどろおどろしい雰囲気が出るけど
ユウレイと表すことでそれを見事に払拭している。
そう、タイトルだけで怖くないですよーということを見事に表現しているのだ。
というわけで安心してページを開く。

かわいい挿絵とともに最初に出会うユウレイはかわいらしい女の子だ。
その女の子の姉であるおばあさんやその孫たちと一緒に、普通にいる。
人間と違うのは声を上げずに静かに笑うところ。
いつも儚げにゆらゆらと優しく、ワカメみたいに揺れている。
帰る場所は海の中。

次に出会うのは、のんびりした女の子を見守るパパとママのユウレイ。
なんとユウレイなのに、普通に家事もできる。その女の子の友達である「わたし」におもてなしまでしてくれる。

この作品に出てくるユウレイたちはとにかく「普通」に生活している。
ユウレイの世界のことわりに従って、普通にユウレイライフを送っている。
このことわりが人間界とはちょっとだけ違うけど、大きくは違わないところがユニークだ。
3話目のダンという青年のユウレイが飛行機に乗って日本にやってくるシーンには思わず笑ってしまった。
ユウレイが飛行機に乗ること自体がユニークだけど、設定が細かくて本当にそういう仕組みがありそうな気がしてくる。
こんなユウレイライフを私の大切な今は亡き人たちも送ってるんじゃないかと思えてくる。

この作品を読んで気づいたこと。
幽霊は愛のかたまりみたいな存在なのだということ。
恨みも未練も何かへの愛の形。
少し過剰で大きすぎて、時に恐ろしいこともあるけれど、それだけ想う力が強い人。
あるいはそれだけ強く想わずにはいられない出来事に出会ってしまった人。

だからとても優しい気持ちになれるのに、
どこか寂しいような悲しいようなやるせない気持ちになる、そんな作品。



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