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映画「くちびるに歌を」

(ネタバレあり)

前回に引き続き、合唱をテーマにした作品の感想を書きたいと思います。今回のは、ドラマ「表参道高校合唱部!」と同じ年に公開された、2015年の映画「くちびるに歌を」の感想文です。

「表参道高校合唱部!」の合唱シーンの多様性と違い、「くちびるに歌を」の構成は、みんなが合唱コンクールのために練習していることのみです。でも、ひたすら一曲に専念するというやり方の方が、妻と私のそれぞれの高校合唱経験に似ています。中学や高校時代は毎年、コンサートやクリスマス礼拝以外に、コンクールの課題曲と自由曲ばかり繰り返して歌っていました。勝ち気である学生にとって、コンクール優勝という明確なゴールがあるからこそ、みんなが必死に練習しながら、合唱のスキルを成長させます。

映画の原作は、実際のNコン(NHK全国学校音楽コンクール)の課題曲となった「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」の作者のドキュメンタリーをもとに書かれた小説です。映画のコンクールでみんなが歌っているのもこの「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」です。課題曲とは、同じ世代の人と繋がっている存在だと思います。妻と私は大学で出会いましたが、知る限り、高校3年目の合唱コンクールでもう同じホールにいました。私よりもっと勝ち気な妻は、たまにまだその時の課題曲のスタイルについて私と議論しています。彼女たちの合唱団は、私たちの合唱団と断然違うスタイルでその課題曲を合唱していました。私たちの合唱団が優勝しても、妻は彼女たちのスタイルが正しいと今でも信じています。正解はともかく、その共通の思い出の話は面白くて、課題曲というものの魅力をこうして表しています。

タイトルの「くちびるに歌を」は、あるドイツの詩の一文です。「勇気を失うな くちびるに歌を持て 心に太陽を持て」という励ましの言葉は、ストーリーのキャラにも合っていると思います。柏木ユリ(新垣結衣)は、自分のせいで婚約者(鈴木亮平)がなくなり、自分を責めています。仲村ナズナ(恒松祐里)は、母の授かり婚でダメな父と結婚してしまったことで責任を自分に負わせています。桑原サトル(下田翔大)は、両親が自閉症の兄を世話するために、親は自分を産んだのだと思っているようです。そういう境遇が改善されたり、悩みが解消されたりするわけではないですが、現実を受け入れながら、「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」の歌詞のとおりに、「人生の全てに意味があるから」、希望を持ち、自分が幸せな事を願うのは、この映画が伝えてくれる大切なメッセージです。

私も未来の自分に手紙を書いたことがあります。特別なタイムカプセル郵便サービスを頼まず、ただグーグルカレンダーで十年後のイベントのアラームを設定して、メッセージをそのイベントに書くだけです。幸いなことに、グーグルカレンダーはまだ健在で、数年前のある日、その「手紙」が届いて、興味津々に読んでから、もう一度未来の自分に手紙を書きました。でも、数年前にあることに気づきました。向こうの聞き手が未来の自分でも、親友でも、カウンセラーでも、効果は同じようです。今の自分の気持ちをちゃんと整えて、今に表現できたら、それでいいです。その手紙は、未来の自分のための手紙ではなく、今の自分のための手紙なのです。

歌詞の「今を生きていこう」とは、この映画を通して、改めて自覚しました。頑張ります。

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