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天使と悪魔

最近僕はついていない。何故って、三流の大学をなんとか卒業して、やっと就職できたと思ったら、社長が会社の金をばくちで使い込んで倒産。おまけに母子家庭で僕を一生懸命育ててくれたこの世で一番大切なママが、すい臓がんが見つかって余命半年。なんでママが、と僕は信じられなかった。
とにかく働く所を探してママを安心させないとと思い、ハローワークに通い詰めていた。一日一食で辛抱してハローワークに行って帰り道、今日もなかなかいい所は見つからずトボトボと駅からボロアパートへの帰り道、小さなメモ帳を拾った。何も書かれていない比較的新しいメモ帳、何だこれ?まあいいか、とポケットに入れて部屋に帰ってからすることもなく、ぼ~っとテレビを見ていたら国会中継をしていた。「くそっ!こいつらに何が分かる!俺たちの気持ちが!」と思いながら、腹が減って仕方がないけど食べる物もなく、「寝るしかないか。」とせんべい布団を敷いてふて寝をした。
ぐっすり寝ていると夢か現実か分からないけど、僕の肩をたたくのが分かったのでビクッとして飛び起きると、そこにはミニスカポリスの衣装を着た凄く美人でスタイルが良くて巨乳の女性が、「よ、起きたか?私、天使、よろしく。」 「は?天使ってあれでしょう白い衣装で背中に羽が生えていて・・・。」 「あ、あれ、最近はさ天使や悪魔も制服が選べるようになってさ、いろんな衣装を楽しんでいるんだ、我々も。ほら後ろいるこいつ、悪魔。こいつも何時もダサい格好をするからさ私が見立ててやったの、警察官。かっこいいでしょう?」よく見ると彼女の後ろに身長2メートル50センチくらいあって凄く怖そうな鬼のような顔の男性が立っていました。「こ、怖いんですけど、僕。」 「あ、こいつ、顔はこれだけど気が小さくて人見知りだから仲良くしてやって。」 「あ、いや、悪魔とはあまり仲良くしたくはないですけど。」 「そう?こいつ見かけによらずいいやつだよ、私のボディーガードしてくれるし私の昔からの彼氏よ。ここだけの話だけどさ、こいつ持ち物が凄くて金棒っていうの凄いのよ、一発で逝かされちゃうのよ、ほんと。」 「あのう、すいません、ところで何か用事があったんですか?僕に。」 「あ、ごめん、あんたさ昨日小さなメモ帳を拾ったでしょう?」 「はあ、拾いましたけど。」 「あれ返して。ほらあんたの後ろを歩いていた女性がいたでしょう?あの子に拾わせようと思ったんだけど、間違ってあんたが拾うと思わなかったのよ。だから返して。」 「はあ?ちょっと待ってください。」僕は起き上がり上着を取ってポケットからその手帳を出しました。「これこれ早く返して。」 「この手帳って何なんです?」 「あ、え、ダメよ内緒。」 「教えてくれないなら返しませんよ。」 「あんたさ、落とし主が取りに来ているんだよ、早く返せ。」 「これって名前か何か書いてます?何も書いてないじゃないですか、天使さんの持ち物かどうか分かりませんよね。」 「そ、それは、まあね。証拠がないわね、困ったな、どうしようか、ね、訳を話したら返してくれる?」 「まあ、話しをしてくれたら返します。」 「そ、実はさ、それエクスチェンジ・ノートって言うの。私が神様に頼んで作ってもらったの。」
「エクスチェンジ・ノート?」 「そ、ま、交換ノート。」 「交換ノート?何を交換するんですか?」 「寿命、他人の寿命よ。ほら昔あったじゃん、「寿命のろうそく」って、知ってる?あの話。」 「はあ、ろうそくが消えたら死ぬってやつ。」 「そうそう、あれもさ、古いじゃん、デジタルの時代にさろうそくって、第一ろうそくって風邪で消えちゃうよ、すると非業の死を迎えちゃうじゃん。今はさほらスマホのシム・カードがあるでしょう?ああいう感じ、になっているの。その人の寿命が来るとそのシムが壊れちゃうの。それで死んじゃうのよ。でね、ほらかなり前にさ〇ス・ノートってあったでしょう?映画にもなったんで知ってる?」 「ああ、ありましたね。名前を書かれた人が死ぬって言うやつね。」 「そうそう、あれさこいつが閻魔さんに頼んで作ってもらったけど、大失敗よね。たくさん人が死んでさ、天国も地獄も準備が出来てなくて大騒ぎでさ、結局あれでおしまい。でね、今度はさ、私が神様にお願いしてこのノートを作ってもらったの。これは交換するだけだから死ぬ人の数は変わらないの。寿命を入れ替えるだけ。例えばAさんが明日死ぬとするわね、Bさんが10年先に死ぬとする。その寿命をシム・カードを入れ替えるだけで交換できる、だから死ぬ人の数は変わらない。いいアイデアでしょう?そう思わない?」 「はあ、なるほど、それで交換ノートですか?」 「そうそう、じゃ、返して。」 「すいません、僕に一人だけ入れ変えて欲しい人がいるんですけど。」 「誰?」 「はあ、うちのママです。」 「は?ママ?あんたさあ、もう30近いんでしょう?未だにママって言ってるの?恥ずかしいよ、母って言わないと。」 「はあ、その母なんですが余命が半年なんですよ。で、僕と入れ替えてもらえませんか?」 「は?あんたと入れ替える?あんたさあ、親孝行したい気持ちは分かるけどさ、親より先に死んでそれが親孝行になると思う?考えて見なさいよ、親はあんたが死んだあとどうするのよ、それが親孝行になると思う?馬鹿じゃないの!親より先に死ぬのが一番の親不孝よ!」 「は、はあ、すいません。でもあと半年って親孝行したくてもできないんですよ。」 「そうだねえ、どうしようか?じゃ他に長生きしそうで死んでもいいようなやつはいないの?思い当たるやつ。」 「はあ、そうですね、今思い当たるのは・・・。今の総理大臣位かなあ、あいつら庶民の気持ちも全然分かっていないし・・・。」 「よし、そいつと入れ替えちゃおうか?本人が寝てる間に入れ替えるからさ簡単だよ。じゃあさ、このノート1ページあげる、ここにね上に長生きしてほしい人の名前、下に早く死んでほしい人の名前を書いて念じるの。そして私に渡して頂戴。入れ替えてあげるから。どうぞ、書いて。」 「はい、伊藤文江、それとあいつなんて言う名前だっけ、越田文雄かな。」 「顔を思い浮かべながら念じるの、いい?念じ終わったら頂戴。私が神様に届けるから。明日の夕方には結果が出るから。」 「はい、よろしくお願いします。」と僕は自称天使という色っぽい女性にそのノートを返しました。
「うん、確かに、それと一つだけ言っておくけど、この願いを兼ねえてもらうにはあんたの寿命が一年必要だからね、あんた一年分短くなったからね。我慢してね。」 「はあ、ママの命が助かるなら僕の寿命の一年くらいならいいです。」 「そう、あんた見かけによらず親孝行だね。」 「今まで苦労ばかり掛けていましたからね、死ぬ前に親孝行したいですよ。」 「エライ!その心忘れないようにして、いいことがあるわよ、きっと。」 「はあ、あればいいですけど。」 「じゃあ、ね、これからこのノート本来の人の所へ持って行って、それから神様に頼んであげるから。じゃ、バイバイ。帰るよ!ほら、悪魔ちゃん。」と姿が消えてしまいました。
次の日朝に目が覚めると、「あん?あれは夢?」と起き上がって上着のポケットを探してもあのメモ帳は出てきませんでした。「夢かな、現実かな、まあ、いいや。それにしても腹が減ったなあ。またハローワークへ行くしかないか。それにママのことも心配だし、ママの所にも行ってみよう。」と思い起き上がって服を着て外に出ました。
ハローワークへ行くと担当の人が、「ここに面接に行きませんか?あなたが希望していたような仕事だと思いますが。」 「はあ、じゃあ行ってみます。明日でいいですか、今日はこれから母が入院している病院に行きたいので。」 「じゃあ、明日の朝10時に行ってくださいね。」 「はい、必ず。」
僕はハローワークからママの入院している病院に向かいました。途中お腹が空いたのでコンビニでパンを一つ買って食べてから行きました。受付でノートに名前を書いて病室へ行くと、廊下で大騒ぎをしていました。看護師さんが僕の顔を見て、「伊藤さん、お母さんが!お母さんが!」 「は?母が何かありました?」 「今、心臓が止まったの!それですぐにAEDで復帰したの。よかった~」 「え~!どうしてですか?」 「別に何もなかったのよ、朝食もすっかり食べて他の人と話していたの、そうしたら急に倒れてしまって。心臓が止まっていたの。すぐにAEDで処置をしたらすぐに動き出して、今は何事もなかったように元気になって、気が付いてお話ししているわ。」 「え~!ど、どういうことですか?」 「さっぱり分かりません。なにがなにやら。」 「母は大丈夫なんですか?」 「はい、先生が診ても異常なしでした。本人も凄く元気ですよ。」 「はあ、よかった。じゃあ、母に会ってもいいんですか?」 「いいですよ、どうぞ。」と扉を開けて、「伊藤さん、息子さんよ、面会に来られましたよ。」 「はい、浩司来てくれたの?ありがとう。」 「ママ、大丈夫?僕、僕、・・・。」と他に人がいましたが抱き着いて泣いてしまいました。「まあ、まあ、泣かないで、ほら、あんた迄そんなだとママ安心してパパの所に行けないわ。ほら、元気を出して。」僕はママのベッドの周りのカーテンをして周りから見えないようにして小さな声で、「ママ、愛してるよ、ママ、僕、僕、・・・。ママ!」とまた抱き着いてママにキスをして泣いてしまいました。がりがりになったママはあれだけ大きかったおっぱいもすっかり垂れてしぼんでスルメのようになって・・・。僕は大人になってもこのオッパイを揉んだり吸ったりしていたのに。
「ママ、僕、明日面接を受けるよ、やっと希望していた仕事が見つかったんだ。受かればいいけどね。」 「そう、受かるといいね、ママ祈っているわ。」 「うん、ママ、ママ、僕、どうしたらいいの?ママがいなくなったら、僕、どうすればいいの?」 「また、そんなことを言う、もっとしっかりしなきゃあ、ママ、安心してパパの所に行けないよ。」 「パパの所になんか行かなくていいよ、ずっと僕の傍にいて。」 「何を言っているの、私はもうダメなのよ、浩司もっとしっかりして。ね、ママは死んでも貴方の心の中に何時までも生きているから。」
僕はママが入院している病院を後にしてアパートに帰って来ました。お腹が空いて仕方がないですがお金があまりないので我慢するしかありません。テレビをつけると夕方のニュースをしていました。
「ニュースです!今朝、首相が倒れました、朝の食事中、急に倒れ心臓が停止しましたがAEDを使用すぐに回復した模様です。その後は今までと変わりなく何事もなかったようですが、とりあえず緊急入院して精密検査を受けるということです。」 「へ~、うちのママと同じ時間くらいに倒れたんだ、そのまま死ねばよかったのに。」とその時は思いました。
お腹が減って仕方がありませんでしたが、その日もそのまま寝てしまいました。夢を見ました。「おい、起きろ!私だよ。」 「だれ?」 「ほら、天使だよ。」 「え!今日はどうしたんですか?看護師の格好で。」 「うん、今日はこれにしたんだ、可愛いだろう、ほら、胸もこんなに開けているんだ、谷間が丸見えだぞ。」 「それより今日は何ですか?もう、僕腹が減って。」 「昨日あれから神様に頼みに行ったらさ、あんたが自分の命と引き換えに母親を助けたがっていたって報告したんだ、そうしたらあんたが親孝行だから「ご褒美」をあげなさいってよ。それを伝えに来たの。何が「ご褒美」かは言わないでおくようにって。じゃあね、帰るわ、私これからあの悪魔とデートだから。じゃあね、バイバイ。」 「あ、あのう。」と僕が言う前に看護師姿の天使は消えてしまいました。
そして次の日目が覚めると、相変わらずお腹がペコペコで・・・。「さあ、今日は面接に行くぞ!」と張り切って起き上がりテレビを点けました。ちょうど朝のワイドショーでニュースをしていました。「たった今入ったニュースです。昨日突然倒れた首相の精密検査の結果が出ました!首相は悪性のすい臓がんで余命が半年だそうです。手の施しようがなくそのまま緊急入院してしまいました。大変な事態です。」
「ふ~ん、ざまあみろだな。」と思っているとスマホが震え見てみると、ママが入院している病院からの電話でした。「すぐに病院に来てください、お母さんが大変なことに!」 「え!母に何かあったんですか?」 「とにかくすぐに来てください、お話は来られてから!」 「はい、すぐに行きます。」
僕はすぐに病院に急行しました。受付を済ませ病室へ行くと、ママが服を着替え退院の準備をしていました。「ママ!どうしたの!もうこの病院では入院させてくれないの?」 「は、浩司、違うんだよ、癌が一夜にして消えたんだよ。昨日の昼にあまり調子がいいから先生に言ったんだよ。痛みもないしはお腹の調子もいいしどうなんでしょうって聞いて精密検査をしたら、癌が綺麗になくなって健康な体に戻っていたんだよ。私もう健康だって。」 「はあ?嘘!」 「嘘じゃないよ、早く退院してくれって言われたんだよ。」 「え~!ってどういうこと?」 「さあ、どうなってるか知らないけど、私凄く健康だって。さ、帰ろうか?」
僕はママを連れてアパートに帰って来ました。「僕これから面接に行ってくるから、ママじっとしていてよ。」 「ああ、掃除でもしておくよ。それと昼ご飯でも作っておくわ。」 「あ、うん、じゃ、行ってきます。」
僕は「狐につままれた」と言う感じで何が何か分からないまま面接を受けに行きました。
客間に通されソファーに座って待っていると事務員さんがお茶を入れた湯呑を持ってきました。「あのう、伊藤さんですよね、確か。」とその事務員さんが声を掛けてきました。「は、はい、伊藤です。」 「やっぱり、この前の○○産業で一緒だった山本です。山本恵理子。分かります?」 「山本さん?え~、どちらの部署でした?」 「はあ、総務にいたんですけど、私が入って2年で会社が倒産しちゃったから。伊藤さん私より3年ほど前に入っていたでしょう?」 「はあ、僕あの会社で5年ほどいましたから。そうですか総務部ですか・・・。分からないなあ、すいません。」 「山本さん、私一目ぼれしたんですよ。何度お声を掛けようかと思ったか、でも結局声を掛けることができないまま倒産しちゃって、・・・。あのう、今日の夕方お暇です?もしよかったらお食事でも一緒にできません?」 「え~!僕でいいんですか?」 「はい、あなたがいいんです。」 「僕ここにいるので分かると思うんですけど無職ですよ、今現在。」 「ああ、大丈夫です。父に言っておきます、合格って。」 「は?」 「ああ、ここの会社、うちの父の会社です。私、前の会社は修行に出されていたんです。」 「はあ、そうなんですか。」 「伊藤さん、夕方、会ってもらえます?」 「はあ、喜んで。」 「じゃあ、パパを紹介するわ、パパ!入ってきて。」 「おう、もういいのか?」と社長が入ってきました。それからいろいろ話をしてから、「君は誠実そうな人だねえ、明日からでも来てください。ついでに娘のこともよろしくお願いするよ。」 「はあ?はあ。」
僕はアパートに帰るときに思いました、「やっぱりあのノートは本当だったんだ。それにあの色っぽい天使が言った、「ご褒美」も。」

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