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あまーい人生に蓋をしたい。足を突っ込んだらとろっとした、ちょっと溶けてざらざらした砂糖がくっついてくるような、そんな人生に。別に不満があるわけじゃない。

不満がないことにマオは不満なのだ。

思えば、飛行船から抜け出して空を真っ逆さまに滑り落ちるあの子に憧れたのが始まりだった。狙われているものを身につけていて、何かから逃げるのも、誰かと戦うその姿にも、ドキドキする。はやる鼓動が忘れられない。

先祖代々の秘宝や一族の秘密などの、大きな物語に組み込まれてみたい。「平和な時代に生まれてよかったねえ」とおとうさんもおかあさんもおじいちゃんもおばあちゃんもマオに言うけれど、マオはその度に微笑んででも心のなかで否定する。そんなことない、ドキドキできなくて、退屈で死にそうだよ。

日常のささやかな幸せを集めるのが幸せだなんて、そんなの、言われなくてもわかってる。

そんな幸せを集めて、地元の田舎から一歩も出ずに歳を取ったおじいちゃんは、小ぎれいな病院のシーツの上で、鼻と腕にチューブをつけて最期を迎えた。

ねえ、おじいちゃん、マオはね、ドキドキして今にも口から飛び出しそうな心臓を抱えながら死にたいんだ。それは、いけないことかな?

そうおじいちゃんに問いかけても、返事はなかった。

ねえ、甘さを否定するのは、甘さなの?

そう独りごちながら、マオは赤い瓶の小さな蓋を開けて、指を突っ込んではちみつを舐める。甘いはずなのに、口にしたとたん、舌の奥の方でぴりっとした辛さが走った。







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