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仕事を「こなさない」ためにできること

ふと気づくと--ほんとうにふと気づくと、という言葉がぴったりなのだけれど--結婚してから一年以上が経っていた。

狙ったわけではないのに奇しくもジューンブライドとなり、懸念していた梅雨も、当日は少し日が差すくらいの曇りですんだ。

家族、親戚だけのこぢんまりとした式だったのに、私は当日朝から、あの運動会当日の朝のような緊張感を発揮(運動会はリレーに出たりと毎年気合いが入っていた)し、おまけに生理初日と重なり、晴れの日だというのに真っ白な白無垢を着る私の顔はこわばっていた。

着付けをしてもらう会場に着くまでの道を、緊張で胸が少し苦しかった道のりを、今でも覚えている。

そんな私の緊張をほぐしてくれたのは、夫でも母でもなく、当日ヘアメイクと着付け、そして介添えを担当してくれた方だった。

ヘアメイクのリハーサルは数万円と高かったので当日ぶっつけ本番を選んだ私は、鏡の前に座った段階でもまだ緊張は続いていたのだけれど、その方はメイクもヘアもこちらがイメージしていた通りに仕上げてくれ、それだけでなくぴったりと似合う化粧を施してくれた。

そして、腹痛と掛け布団一枚の重さはあるという白無垢でぐったりしていた私を終始気遣ってくれた。お水を渡してくれたり、食事会ではこまめにドリンクと料理を私の席までとりわけにきてくれた。

ああ、結婚式とかこういう特別な日を彩ってくれるのって、こういった当日のプロの方なんだ…と私はたいへんしみじみと感謝したのだけれど、聞けば、結婚式のヘアメイクと介添えは週末しかやっていないという。

「普段はモデルさんのヘアメイクとかしてるんです」と答えた彼女に、私は思わず、どうして?と聞いた。モデルのヘアメイクと結婚式のヘアメイク、着付け、介添えは、やることや求められることも違うと思ったから。

「毎日そればかりやっていると、結婚式をこなすようになってしまうから。お客様にとっては一生に一度の特別な日。なのに私がこなしているという感覚になっていては、プロとして仕事ができないから」

それが、彼女の答えだった。

そんな彼女の言葉を、私は一年経った今でも、いや今だからこそ、心に残っている。

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どんなにやりたくて始めた仕事でも、ずっとそればかりやっていると、どこかで飽きがきて、そんなつもりはなかったのに「こなす」ようになってしまうことがある。

私はちょうど仕事を始めて一年くらい経ったので、書く仕事や本屋の仕事、また家事やバイトにも、少しずつ飽きが出てきて、「こなす」場面が増えているんじゃないか、と焦っている自分がいる。

こなすようになってしまうと、相手に満足してもらえる仕事ができなかったりはもちろん、なによりやっている自分自身もつまらないし、新しい学び、刺激にも乏しい。

そのために常に変化していくことが重要、というのはわかりきったことだけれど、単純に、その仕事に携わる回数を減らす、という手がある、ということを忘れがちだ。

私は本屋では、外国人観光客を相手にしているので、私にとっては「繰り返し」のことが、相手にとっての「初めて」であることが多い。だからこそ、いつも新鮮な気持ちでいたいなあと強く思う。

同時にライターもやっているので、ゆくゆくはどちらかに専念した方がいいのかな、どちらも中途半端で良くないな、どちらの方がやりたいことに近いかな、と迷ったり悩んだり落ち込んだりするのだけれど、とはいえそもそも、「一つの仕事を極めるべきだ」というのは一つの価値観でしかないんだなあ。

「こなさない」ために二つの仕事をしていた彼女は立派なプロだったし、メインの仕事と副業、なんて分けずに、自分のやりたいと思った仕事をいくつも掛け合わせて、ナリワイ的に営んでいってもいい。やりたいことを一つに絞る必要はどこにもなくて、むしろやりたいことを続けていったことの先に、まったく違うように見えていた二つ、三つの仕事が掛け算されたり、一つに交わったりすることだってあるはずだ。

「こなさない工夫」「飽きない工夫」は思ったより簡単にできるし、やりたいことが一つに絞れなくて悩んでいるひまがあったら、同時にやってみたっていい。しっくりくる仕事のやり方は、やってみて初めてわかるものだし、人それぞれ違うはずだから。

ちなみに私はいくつかの仕事をやっていて、一番助かっている…と感じるのが、精神的安定を得られることかもしれない。仕事の人間関係で「なんでよもう…!」みたいなことってあるはずだけれど、他にも仕事をやっていれば「まあ、仕方ないか」と良い意味で執着しないというか、諦めみたいなものができて、それが良い流れとなってまた新たな縁を連れてきてくれている気がする。

***

結婚式でお世話になったお姉さん、またいつかどこかで会えるといいのだけれど。個人で仕事をされていたらぜひ他の人にも勧めたいのだけれど…!

あなたのおかげで、思い出深い結婚式を挙げることができました。

それでは、また。


(goatにあげていたものを移行しました)


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