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金魚掬い

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女性の女性による女性のための物語。
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2016年3月の記事一覧

金魚掬い 第二話(1)

金魚掬い 第二話(1)

夏が近づくと、滅法体力の方は衰える。その日も余りの暑さに、只々閉口していた。

菜々美は夏祭りを楽しみにしていた。「お母さん、絶対一緒に行きましょ」あんなに弾けるような笑顔を向けてくれていたのに、行けない旨を伝えるとふいにその瞳が揺らいだ。

でも、さすがだ。一旦下を向いたかと思うと、すぐに顔を上げて、こう言った。

「大丈夫、ばあばと言ってくるから」

もうあの子の真ん丸な瞳は、揺らいでいなかっ

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金魚掬い 第一話

金魚掬い 第一話

「そうね……日記かしらね」

母のことを思い出すと、真先に浮かぶ、ことば。

母は私が十六歳のときに他界した。物心ついたときから病弱だった母との記憶は、正直なところ靄がかかったみたいにいつもぼんやりとしている。

それでもこのところ、何かにつけふと母のことを思い出す。食器を洗っているときや、花に水をやっているとき、夫を見送ったあとや、娘の帰りを待っているとき。ふと脳裡に、母のあの言葉が浮いてくる。

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