顧客の価値形成プロセス No.3 躍進するアパレルブランド”ルルレモン”を、「顧客との価値共創」視点で分析してみた
日経新聞を読んでいたら、ちょっと驚きの記事を見つけた。ルルレモンというアパレルブランドの時価総額が、H&Mを抜いて、インディテックス(ZARA)・ファーストリテイリングに次ぐ3位になった、というのだ。
正直、この記事を読むまで、ルルレモンというブランドは聞いたことがなかった。だが、少し調べてみると、その作りが、「ただ服を売る」のではなく、「消費者のライフスタイルを売る」ことを目的にしているように感じられた。そこで今回は、顧客との価値共創モデル(4C)を使って、ルルレモンの事例を扱ってみたい。
顧客との価値共創モデル(4C)とは
村松(2021)によれば、顧客との価値共創モデルは、下記の4Cによって説明される。
●Contact: 顧客接点を構築する
●Communication: 顧客との相互作用的なコミュニケーションを構築する
●Co-Creation: 顧客との共創を行う
●Value in Context: 共創が文脈価値となる
筆者自身の理解と整理のためにも、3つ目と4つ目について、少し補足しておきたい。
そもそも、サービス・ドミナント・ロジック的な考えにおいては、価値は「顧客と企業との相互作用によって形成されるもの」であり、わざわざ「Co-creation」という間でもないように思う。ただ、「顧客と企業との間に、どのような相互作用が生まれているのか?」という視点をもたらしてくれるので、一つの”C”として明文化する価値はあると考える。
4つ目だが、企業と顧客の共創によって生まれる価値は、顧客(や企業)が持つ事情や背景によって変わりえる。そのため、単なる「共創の結果」ではなく、「顧客がもつ事情や背景によって異なる、「その顧客が感じた価値」」こそを、文脈価値という文言で定義している、と理解している。これについては、ルルレモンの分析に進む際に後述したい。
ルルレモンを4Cフレームワークで分析する: Contact
では、4Cフレームワークに沿って、ルルレモンを分析していきたい。まずはContactからだ。ルルレモンが持つ顧客との接点は、大きく3つに分けられるだろう。
①実店舗
筆者が公式サイトで調べたところによると、実店舗は、2021年9月時点で、日本に7店舗あるようだ。うち、※をつけた静岡のアウトレットを除くと、実質は6店舗(東京4店舗と大阪2店舗)になるだろう。FashionSnap.comの記事によれば、川崎や湘南にも店舗を展開していたらしいが、現時点では確認できていない。
●東京 GINZA SIX
●東京 六本木ヒルズ
●東京 シックス原宿テラス
●東京 新宿マルイ
※静岡 御殿場 プレミアムアウトレット
●大阪 心斎橋 大丸
●大阪 ルクア(梅田の商業施設)
②オンラインショップ
ルルレモンは自社の公式オンラインサイトを持っている。海外のブランドらしく、バナーや服のモデルは日本人ではない。「ウィメンズ」「メンズ」ごとに、様々な服のタイプが探せるようになっている。「コミュニティ」というヘッダーがあることも特徴的だ。
③コミュニティスペース
前掲のFashionSnapの記事によると、六本木店には、服の売り場と共に、ルルレモンのフィロソフィーである「一日一汗」を促す場所として、コミュニティスペースが併設されている。「服を買いに来た人」だけでなく、「自社ブランドのウェアを着てくれそうな人」が集まりやすい場所を接点として保持しているのが、ルルレモンの特長といえるだろう。
ルルレモンを4Cフレームワークで分析する: Communication
次に、Communication - どのような顧客とのコミュニケーションを構築しているか、をまとめてみる。
例えば、オンラインサイトの「コミュニティ」ページに言ってみると、「ストーリー」「アンバサダー」「イベント」という3つのコーナーがある。興味深かったのは、イベントのコーナーだ。
ルルレモンは「WELLNESS SATURDAY オンラインクラス」というオンラインのイベントを開催している。
公式ホームページによると、「ヨガやトレーニングなど、ルルレモンアンバサダーによるあなたの身体と心のためのクラスを無料でたくさんご用意して」いるそうだ。ルルレモンの公式サイトに会員登録すれば、基本的には無料で参加できる。先ほどの繰り返しになるが、「たとえルルレモンの服を購入していなくても、ヨガなどの軽い運動で汗を流したい人」に向けて、「自宅からでも参加できるオンラインの形式で、毎週の運動習慣」を提供している点に、ルルレモンの魅力がある、といえるだろう。
さらに、東洋経済オンラインの記事によれば、店舗の試着室には、店員と会話を楽しむためのスペースが設置されているらしい。店舗においても、「商品の選択→試着→購入」という導線だけではなく、「服のことや運動のことについて顧客とコミュニケーションをする」という場がしっかりと設けられている。
ルルレモンを4Cフレームワークで分析する: Co Creation
では、上記の接点におけるコミュニケーションを通じて、顧客とルルレモンは、どのような価値を共創しているのであろうか?おそらく、端的に述べれば、「運動して汗をかく気持ちよさ」という価値を顧客は(自分で体を動かす、という対価を払うことで)得ていて、それを、ルルレモンが様々な面からサポートしている、ということなのだと思う。それは例えば、顧客にとって最適なウェアや、最適な運動(ヨガなのか、ランニングなのか、筋力トレーニングなのか)についての話をしたり、同じ意志を持った人々が集まれるような場所を提供したり、実際のトレーニング動画を提供して、家にいながらでも汗をかけるようにしたり、といったことだ。
ルルレモンを4Cフレームワークで分析する: Value in Context
同じ「運動して汗をかく気持ちよさ」という価値であっても、顧客が置かれている文脈(事情や背景)によって、その質は異なる。例えば、「痩せたい」という思いを持って運動に励んでいる顧客にとって、「汗をかく気持ちよさ」は、「理想の自分に近づけている高揚感・達成感」を伴うものであるだろう。もしくは、「健康的な習慣を身につけたい」という人であれば、一回一回の「運動」よりもむしろ、「どれくらい継続できたか」に価値を感じるのかもしれない。
顧客自身の文脈だけでなく、企業自身の文脈も、共創される価値の質に影響を与えうる。例えば、ルルレモンがカナダのオリンピック・パラリンピックの公式アウトフィッターになった、というニュースは、顧客に「オリンピック選手と一緒に頑張っている」ような気分をもたらすかもしれない。
※ニュースによると、ルルレモンが作成するのは「アスリートやコーチなどが開会式や表彰式、閉会式、メディアへの出演などで着用する」ための「公式ウェアやアクセサリー」であり、競技時の服ではない。が、顧客にとって価値を感じるには違いない。
もちろん、ポジティブな文脈だけでなく、ネガティブな文脈も、顧客と企業の間で共創される価値に影響を与える。ルルレモンの創業者Chip Wilsonによる日本人に対する差別的な言動があった、という話もある(本人は否定しているが、真偽は不明)。その話を受けて、ルルレモンに対して反感を覚える消費者も存在する。そのような消費者にとっては、例えば先ほどの「カナダ五輪代表の公式アウトフィッター」のニュースも、「人種差別企業なのになんで!?」という反感の元になる。同じ情報でも、顧客の文脈や、(顧客が認知している)企業の文脈によって、全く異なる印象になってしまう。
いずれにしても、ルルレモンが作り上げている「ただウェアを売るのではなく、顧客と共に、汗を流す気持ちよさを作り上げる」という戦略は、顧客との価値共創プロセスに則ったものである、と感じた。
最後までお読みくださりありがとうございました。ご意見・ご質問等あれば、Twitter経由でDMかメンションいただけますと幸いです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?