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コロナを乗り越える 雇用を守るイノベーション-KIBOW社会投資リサーチ②

新型コロナによる需要減少に伴う企業の業績悪化の影響で、企業は人件費削減のため従業員の解雇等を余儀なくされています。本記事では、新型コロナによって顕在化した社会課題とイノベーション事例を紹介します。

社会課題とその構造

経済協力開発機構(OECD)の調査によると、2020年4月のOECD加盟国の失業率は過去10年で最高の8.5%に達しました。2008年の金融危機より深刻な状況になっています。失業率の上昇は女性及び若者に顕著に現れました。

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日本の労働市場の変化:

国別の比較では、米国の急激な上昇に比べ、日本は緩やかな上昇となっています。日米の失業率の違いには労働市場の流動性や政策対応の違いが表れているという見方もあります。しかし、中長期的には労働環境の急激な変化に伴うスキルのミスマッチによる「構造的失業(スキルのミスマッチなどで職に就けないことによる失業)」を起因とする失業率の悪化が今後見込まれます。

また「失業者(労働市場に留まり求職中である状態)」になるのではなく「非労働力人口(労働市場から退出した状態)」になることによる、労働市場そのものの縮小、労働参加率の低下が、見かけの失業率の低さとして表れているとも考えられます。

さらに非労働力人口の急激な増加は単に失業手当の申請の遅れや事務処理の滞りであり、潜在的な失業であるとの見方もあります。構造的失業や非労働力人口の就業への回帰には、中長期的な能力開発や職業紹介などにより、潜在的な失業の層を就労状態にいかに戻すかが重要になってくると考えられます。

女性への影響:
新型コロナは特に女性の雇用に悪影響を及ぼしています。非正規雇用への風当たりの強さと、女性の雇用形態が非正規の割合が多いことにより、女性が仕事を失う可能性が高いと考えられます。

また、新型コロナ以前から、結婚、出産などのライフイベントによるキャリアブランクのある女性は、昇進が阻まれたり、労働市場への復帰が困難であったり、非正規雇用割合の高さや昇進機会不平等などが課題になっていました。男性との格差は徐々に改善は見られるものの現在においても是正されていません。

さらに、新型コロナの影響は、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると子育て女性(特に母子世帯)の雇用に影響を及ぼしています。解雇や雇い止めによる「非自発的失業」は、男性よりも女性が高くなっており、休業者の割合は男性1.6%であるところ、母子世帯の母親は8.7%と、母子世帯の母親は特に厳しい状態となっています。

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若者など低熟練労働者:
OECDによれば、2020年4月の若者(15-24歳)の失業率は約18%にも上り、他のどの年齢層よりも高い結果となりました。国際労働機関(ILO)によれば、新型コロナ以前には就労していたものの今は働いていない若者が6人に1人を上回り、就労中の人も労働時間が23%減少しました。新型コロナは失業だけでなく、教育や職業訓練をも中断させ、若者の就労に大きな悪影響を及ぼしています。

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イノベーション事例 


ここでは、それぞれ課題に対する3つのイノベーション事例を紹介します。

1. 若者など低熟練労働者に職業訓練を提供
対象:若者など低熟練労働者

急激に変化した労働市場の需要に対応するスキルの習得が今後必要となっています。米国FLOCKJAY(フロックジェイ)はその中でも特に低熟練労働者にターゲットを絞りサービスを提供しています。

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低熟練労働者は、非正規雇用など不安定な雇用環境におかれ、授業料を払うことが難しい場合が多くあります。FLOCKJAYは、低熟練労働者に対して需要の増加するテクノロジーの営業職の職業訓練を提供します。

授業料は経済的ニーズに応じて以下の2つのオプション
を用意しています。

① 前払いの場合は5,000ドルで、2回に分けて支払うこともできます。
② 後払いの場合は9,000ドルをプログラム修了後に12回に分けて支払うことができます。年収が40,000ドル未満の場合は支払いの必要がありません。年収が40,000ドル以上の場合は年収の10%(9,000ドルを上限)を支払います。

大学卒業などの学位や専門知識も必要なく、多様なバックグラウンドの人に新しいキャリアの機会を提供します。

FLOCKJAYの特徴として、学習コミュニティがあります。授業はオンラインですが、同期の学習仲間や卒業生とのコミュニケーション、営業職の先輩とのネットワーク構築など、成功を後押しするコミュニティがあります。

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2. キャリアブランクのある女性に就労機会をマッチング
対象:キャリアブランクのある女性

新型コロナの影響により、子育て女性の雇用に大きな影響がありました。女性は出産などのライフイベントを機にキャリアブランクをつくってしまうと、復帰や昇進が難しくなってしまいます。

米国The Mom Project (ザ・マム・プロジェクト)は、出産などを機に労働市場を離れた女性を支援し、仕事と育児の両立を尊重する企業とのマッチングを行います。

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The Mom Projectはデータを元に、子育て女性が幸せに長く働ける条件などのデータ分析によるアプローチを行っています。キャリアブランクのある女性を積極的に採用する再雇用プログラムを実施している企業の情報のシェアなども行い、能力ある女性を雇いたい雇用主への支援も行っています。

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3. 「学習休暇」によって解雇を回避するサービス
対象:従業員の解雇を検討する企業

米国Learn In (ラーン・イン)は、現代の労働環境に変化を起こすことをミッションとして新型コロナに対応するために2020年3月に設立された会社です。新型コロナに起因する企業の業績悪化によって、人員削減などを検討している企業が増えています。Learn Inは、人員削減に代わる方法として「学習休暇」を提案します。Learn Inは企業(雇用主)に対して、従業員一人ひとりに対して「学習休暇」を与えるか判断するためのソフトウェアを提供します。Learn Inは教育企業と連携し、従業員にオンライン研修を提供します。企業(雇用主)はLearn Inに対してサービス利用料と従業員1人あたりの授業料を支払います。

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企業(雇用主)側としては、従業員が「学習休暇」を取っている間の人件費を削減することができ、スキルの向上した従業員を得ることができます。外部から雇用するよりもコストも低く、従業員のモチベーションも上がり従業員の帰属意識も高くなります

従業員側としては、雇用関係を維持しながら、スキルや知識の向上ができます。

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この不確実な状況の中、従業員に希望を与えるため、解雇をしないということが重要です。また、今を乗り越えるだけでなく、変化に対応できる企業文化の醸成など今後必要とされる企業の変革にも寄与すると考えられます。この状況を乗り越えた従業員の帰属意識の向上も期待できます。

今後の課題と求められるイノベーション

OECDは新型コロナの第二波が各国を襲った場合、失業率はさらに悪化し、2020年末に12.6%となると予想しています。

今後、新型コロナの影響による労働市場の変化に対応し、若者や子育て女性などすべての人が活躍できる社会をつくるための新しいイノベーションが求められています。

執筆者:KIBOW社会投資 プロボノリサーチチーム 都澤 亜里沙(研究員)

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