B人材・C人材が対等に関われば、「創造」を大きく変えられる
クリエイティブに深く関わる経験のなかった「あすか委員」が、デザイナー篠原さんのファシリテートによって「みんなで創造する」プロセスを体験し、質の高いアウトプットが叶いました。これはビジネスの現場で再現できるのでしょうか。連載最終回です。
ビジネス現場に活きる「デザイン思考」
―最終的には2,000人以上に及ぶ参加者に認知され愛される「あさって会議」のロゴができましたね。最初の、「ロゴ、募集します!」で進めていたら、無理でしたよね。
篠原:思った以上に、クリエイターとの仕事の仕方を知らない人が多いのだという発見がありました。だから後日、「あさって会議ロゴデザインが決まるまで」の資料をみんなにシェアしました。あの資料があれば、今後クリエイターに発注しやすいし、B人材(ビジネスパーソン)がC人材(クリエイティブ人材)とコミュニケーションを取りやすくなるだろう、と。
―南さんは、このやり方をご自分の仕事に取り入れられそうな手応えはありますか?
南:ブレストには使っています。とくに会議で行き詰まった時には、「キーワードは何?」「それを繋げていったらどういうソリューションができる?」などを付箋で整理したり、見様見真似でやっていますが、結構好評です。そういえば篠原さんのワークショップも面白かったですが、難波(美帆)先生の「デザイン思考と体験価値」のクラスも印象深かったです。
―どんなことが?
南:ずっと活用しているのが、「議論に行き詰まった時の発想の転換」。発想の転換法として、「問題を大きくする」「他人になって考える」などを教えていただきました。たとえばクライアントから契約を切られそう、どうやったら継続できるんだ?といった会議をする時に、発想を変えて、「自分がクライアントの人間だとしたら、我々に対して何を考える?」とアイデア出しをすると、意外に対処できそうだというのが見えてきたり。会議のディスカッションレベルは格段にあがりました。中でも、私が一番好きで活用しているのは「問題になっている思い込みやしがらみに反逆する」という手法です。例えば、業界のタブーを疑ってみると、意外と大丈夫だったり、発見があります。
篠原:デザインの現場の話でいくと、今回のロゴ制作プロセスで使ったアイデア出しの方法は本当にごく一部。たとえば、他の企業の社員になりきってアイデアを出してみる、というのもあります。自社独自の制約を絶対の制約だと思い込んでいるパターンが多いので、たとえばグロービス社員の方が、「もし自分がApple社員だったら?」と仮定してアイデア出しをするのです。まさに、「問題になっている思い込みやしがらみに反逆する」ですね。
それから、デザイン業界の超基本なのですが、ロゴのアイデア出しをする際、「絶対否定しない」というルールがあります。全部、「いいやん!」って言う。そうするとみんなノッてきて、よく分からない案が出てきたりするのですが、そのよく分からない案とよく分からない案が重なった時に、「これはすごく面白い!」というのが生まれたりする。
南:おかげさまでみんな楽しくやっていました。ロゴやTシャツが完成したときは、みんな「しのっち、ありがとう!」という感じで、喜びを通り越えて興奮していたんじゃないかな。ちなみに、チームビルディング的にも終始お互いをあだ名で呼び合っていたので、オンラインでも距離を縮めてコミュニケーションをとることができました。
我々の組織は、まだ可能性を秘めている
―グロービスではよく、「B・T・C人材」の話をしますけれど、今回の活動を通じて気づいたことはありましたか?
*T人材:エンジニアなどの技術者のこと。
篠原:先ほどから何度か話に出ていますが、「それぞれのコミュニケーションの課題」です。私は、グロービスに、というかMBAのコミュニティにはデザイナーがほとんどいないという認識があって、戦略的に入学したんです。いないからこそ、いるべきだと。1年半ぐらいグロービスで学び、B側から見たC人材との対話の難しさが見えてきました。
私はもともと高専出身で、技術者とのコミュニケーションで難しいポイントが見えていたので、B側の視点が得られたのは大きかったですね。これで、B・T・Cそれぞれの立場が見えてきたぞ、と。
ただ私は、あまり自分をCだ、Tだ、Bだと意識したことがなくて。高専出身なのでTから始まり、デザイン学校に編入したことでC人生が始まりました。でもTakramでやっているとCよりもBをやることが多かったり。自分の中では、いろんな所にひゅいひゅいっと顔を出してはひゅいひゅいと抜けていく浮遊因子系ゼネラリストのようなイメージです。
―たとえばB側しか経験の無い人、C人材でも下請け状態で苦しんでいる人も多いと思うのですが、お互いにどういう関係性であったらいいと思いますか?
篠原:一番は「対等の立場」であることが大切ですよね。グロービスの学びの場がまさにそうじゃないですか。お互いに耳を傾け合って語れると、良いもの作りができるので。
たとえばサントリーさんは、C人材とT人材とB人材をワンチームとして動かしたりするのですが、組織内にチーム作りとはそういうものだという認識が深まれば可能だと思います。
―その土台があってこそ、リスクフリーでアイデアを出していけるのでしょうね。
篠原:よくある企業で抱える問題で「自社内ではバリューが出せない難しいところを、Takramへ」と依頼がきます。しかし、実際にはその組織の中には優秀なデザイナーやクリエイターがいるのにも関わらず、下請けの外注のように下流にきた案件のアウトプットをひたすらさせられるとか。本来であれば上流のコンセプトや戦略・ターゲットなどの議論からデザイナーも入り、それを形に落とし込んでいくべきなのに組織としてそのような体制になっていないことはよくある現実です。
結局は組織の問題で、良い人材がいるはずなのに、その人を上手く活用できていないからその人はバリューが出せない、ということになっているんです。みんなが対等の立場で仕事ができると良い。
―南さんにも質問です。今のお話をうけて、また、今後のご自身の仕事も踏まえて、どういうチーム作りをしていきたいでしょうか。
南:まず自分たちが楽しまないと、人を楽しませることはできないというのが私の思いです。だから、コミュニケーションチームを2年連続で担いました。そもそもあすか委員が辛そうに活動していたら、参加した方々が「楽しかった」とは思わない。どれだけタスクが多くても、どれだけ時間がかかっても、楽しんでやると言うところは守りたいとずっと思っていました。
じゃあ「楽しんでできる」とは?それは、「お互いに好きな人がいる場所に身を置くこと」。辛くても好きな人とだったら頑張れますよね。そうしたら、組織としてのアウトプットも上がる。だから、関係の質から高めようと努めました。
そのために、まず自分から相手を好きになる。そういうコミュニケーションを周りにしていたつもりですし、そうやって輪を広げていこうよと周りにも言っていたつもりです。できるだけ自分がハブになって「なんちゃん(南)がいるから行くわ」と言ってくれる人同士をつなげたり、増やしたり。そこは結構強い想いがありましたし、これからも続けていこうと思っています。
―最後に、お2人にとってあすか委員はどのようなコミュニティだったでしょうか?
篠原:コンセプトで「家族」と言っていたのですが、本当に何でも言える関係がつくれました。深夜でも電話しようと思えばできますし、そういう強いネットワークに一番価値があるのではないかと思います。
南:私もほぼ同意見です。「グロービスとは」の延長に「あすか委員とは」があって、同じようにフラットにいろんな人と深い話ができる。でも、あすか委員の方がより深く話せるというのが価値だと思います。
篠原:グロービスに来てみたら、みんな熱いですよね。デザイン業界はシャイな人が多いので、あまり積極的に人と絡もうとする人がいないのですが、グロービスにいると「俺はお前らのこと大好きだ!」と言う人がすごくいて……南さんなんて、「好き好きビーム」が出まくっています(笑)。それに呼応して私も「お前のこと大好きだ!」と、お互い飲んだあとに抱き合ったりして。こんなに大好きだ!と言い合うなんて、なかなかないですよ。おかしな話になっちゃったかな?(笑)
南:いやいや、最後に愛のある話で終わって、良い感じですね!
―充実した時間でした。ありがとうございました。