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GLOBIS知見録 編集部の乱読帳 9月

GLOBIS知見録のテキスト編集チームの3人(ブタクサ花粉の到来におびえる小栗、老眼疑いがある中年男性の長田、大学院で修行中の吉峰)が手に取った本をご紹介する企画。ビジネス書のほか、文学や評論など、ジャンルフリーで挙げていきます。

9月に入った途端ぐっと秋めいて、まさに読書にうってつけの季節となりました。
さて今回、メンバーがおすすめする作品はなんでしょうか。

今回の3冊

◆小栗が気になった本
『勉強の価値』森博嗣

「学ぶ姿は、美しい」がこの知見録noteスタート時のコンセプトです。確かに共感するなぁと思います。

が、これに共感出来るとは、なんと自分も大人になったのだ、とも思うのです。

子どもの時分は勉強なんて周囲にやれと言われるばかりで、どうも苦しいものでした。それがいつの間にやら、勉強により見える世界や自身のうつわが広がることに気づいていて、本の中と経験が紐づいた瞬間に訪れる快感や楽しみを覚えている訳です。

冒頭の言葉に共感するのは、こうした気づきや覚えのおかげかもしれません。誰かが勉強する姿に、単純に「自分のため」の目的を叶えようとする尊さを見るようになった訳です。

さてやっと書籍の紹介になりますが、この本を挙げたのは「個人的な願望」のための勉強を肯定してくれるからです。誰かに言われたからでも、競争のためでもない。崇高な目標などなくてよいし、正解(知識)をため込もうともしなくてよい。ただ自分にとっての自分の価値を高めるために、思考力を強め、自分なりの考えを持たせてくれる「勉強」を楽しみ続けていこうと言ってくれるのです。ついつい「勉強しなきゃ」と、強いられているように思ってしまいがちな私たちに、本質を思い出させてくれます。

何かノウハウや技術が直接的に得られるものではないのですが、勉強をすこし気楽に捉え、永く続けていくための後押しをしてくれるのではないでしょうか。

◆長田が気になった本
『ドストエフスキー 黒い言葉』亀山 郁夫

社会人になってから、古典の大作を読むことが物理的に難しくなりました。読むべき本があまりにも多いうえ、1日の大部分の時間を仕事と家庭に奪われるのです。疲れ果てて自分の部屋に戻り、本棚に目を向けると「カラマーゾフの兄弟」や「悪霊」、「罪と罰」の背表紙が、いつお前は再び私を手にするのかと嘲笑ってきます。

2021年はドストエフスキーの生誕200年にあたります。今回紹介する本はロシア文学者である亀山郁夫氏による、文芸誌への連載企画を書籍化したものです。蓄財と貧困、苦痛と快楽、他者の死の願望、美――。広範にわたるテーマを取り上げながら、ドストエフスキー作品や書簡などの文章をこれでもかというほど引用し、現代人・現代社会の問題点を提示しています。

第1章で最初に引用されるのは、ドストエフスキーが雑誌の編集部にあてた印税の支払い催促です。カネで苦しみ抜いたドストエフスキーはこの手紙を書いた2日後に他界してしまいます。こうした大文豪の死に様は、ドストエフスキーにあまり詳しくない読者には驚きをもって受け止められるに違いありません。

第7章「全世界が疫病の生贄になる運命にあった」も読ませる内容で、「罪と罰」の終編のシーンが引用されます。疫病が猛威をふるう夢を主人公ラスコーリニコフは見ます。その疫病は感染すると「考えられもしなかった強烈な自信をもって、自分は極めて賢く、自分の信念はぜったいに正しいと思いこむのだった」といいます。黙示的ともいえる場面で描かれているのは驕り、言い換えれば過剰な自己愛の問題です。

コロナ禍で人と人とのリアルなつながりが減るなかで、自ずと膨らみやすい自己愛をどう制御すべきか。ドストエフスキーが生まれた200年前と現代を比べた時、私たちは進化したと言えるのだろうか。時間のない現代人に内省の契機を与える1冊になると思います。

◆吉峰が気になった本
『カレ物語―エルメス・スカーフをとりまく人々』(著)浅野 素女、山本 淑子、横井 由利 (編集)婦人公論編集部

周りになにを言われようとも自分は価値を感じるものが誰にだってあるのではないでしょうか。私にとっては、エルメスのスカーフ(カレといいます)がそうです。カレの魅力はなんといってもデザインです。繊細に描き込まれたカレは、「身にまとう芸術」とも評されます。

カレのモチーフは、馬具や香水や扇、ブラジルの伝統的な仮面、日本の武士や盆栽など多岐にわたります。特に私が好きなのはピタゴラスの「天球の音楽」を「哲学的」に描いた1枚です。どうでしょう、ただのスカーフではないように見えてきませんか。

本書は、パリのアパルトマンや片田舎などに住むデザイナーを著者らが訪ね制作秘話を紹介する、ファンにとってはたまらない1冊です。そうでない人にとっては、デザイナーのクリエイティビティを最大限に発揮させるエルメス社の秘訣ーービジネスとは距離をおかせて自由にするーーを知る1冊になるかもしれません。

エルメスのデザイナーで唯一個室を持っているアンリ・ドリニー氏は言います。「無理はいけない。努力すればうまくゆくというものではもない。自分の気に入るもの、自分を喜ばせるものを作らなければ、人には伝わらない」ぜひ、カレの世界を一度のぞいてみてください。


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いかがでしたでしょうか。みなさんも読書を楽しんでください!
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